【その67:ぬこ様と魔王様と(完)】
これにて完結!
最後までお付き合いいただきありがとうございました!!
それからの話。
結局、魔王は一度の神雷だけでその場を収めた。
尤もその一撃が尋常ではない。神との対話のために、王都で一番高かった塔は、この日、王都で最も深い穴へと様変わりしたのだから。
威力に呆れる私に、魔王は満足げに頷くと、
『此度はお主の頑張りに免じて、ここまでにしてやろう。だが、次はない。お主がせいぜい釘を刺しておけ』
と言い残してぬこさんと帰っていったのだ。
私の顔を立てて、とは言っていたけれど、単に早くぬこさんに癒されたいがための、方便であったような気がしてならない。
結果、幸いというか、奇跡的というか、今回の大騒動にあって人類の被害者は一人だけ。
ハーロットは文字通り、かけらも残さずに塔と共に消え去った。
大変だったのはその後。
あれだけ派手な魔法で、象徴的な建造物が消失したのだ。街中大騒ぎとなり、数日にわたって混乱が起きた。
ただこちらも幸いなことに、ケプラーさんが聖騎士団をうまく動かしてくれたおかげで、時間と共に落ち着きをとり戻してゆく。
ケプラーさん自身は上官に呼び出されて大変だったみたいだけど、今回の功績を考えれば、強くは言えないと言った感じらしい。
そして、この一件を境に、教会内部に大きな変化があった。
『教会のあり方に対して神罰が降る』と私たちが触れ回った直後、実際に起きた“神罰”。それを利用しないエルグレイさんではない。
今までに集めた様々な不正の証拠とともに、大司教様を糾弾。
聞けば大司教様は、エリナさんのお店の買収にも無関係ではなかったらしい。
大司教様も必死に言い訳けをしていたけれど、実際に神罰が降ったのは事実。
王様からも見放されてわずか数日で失脚、大司教様と悪事に手を染めていた人たちも、まとめて投獄された。
詳しい取調べはこれかららしいけど、厳しい結末が待っているのは避けられないそうだ。
暫定的に大司教代理の座に座ったのはエルグレイ。その補佐にオリオネートさんが就いた。
この辺りの人事は、私の嘘が少なからず関係している。
そもそも、大司教様以下、要職にあった聖職者が軒並み失脚し、代理を担うだけの候補が非常に少なくなっていた。
そんな中で神託を信じ、人々を救ったという実績がエルグレイさんを後押ししたのだ。
特に本部にいた人々は命を救われた格好となり、幅広い厚い支持を集めることに成功。
後日各地の司祭様たちが集まって、正式に大司教を決める会議が行われるけれど、多分、そのままエルグレイが選ばれそうな情勢と聞いた。
状況を教えてくれたオリオネートさんからは、
『エルグレイは「魔族領との争いを一旦見直し、魔王討伐についても全て白紙にして検討し直すつもりだと」言っていたわ』
との頼もしい言葉も貰ったので、できればそのままエルグレイに大司教になってほしいものだ。
あの日、オリオネートさんとエルグレイは結構ギリギリまで塔のある建物にいたらしい。理由は私を探してくれていたとのことで、かなり危険や状況にあったので少し申し訳なく思う。
ただまあ、結果的に、魔王の“神雷”を誰よりも間近で見た。
あのとんでもないハーロットの魔法攻撃を無効化し、その後魔王が塔を消し去る様を目の当たりにして、『あれと戦うのは、本当にまずい』
という認識を改めて強く持ってくれたようだ。
私を取り巻く状況は、目まぐるしい速度で変化を始めた。
そして、
私はと言えば……。
◇◇◇
「あれ? キャットウォークついにできたんですか?」
転移魔法を潜ってみると、魔王が満足そうに自分の力作を眺めているところだった。
「おお、ルラ、来たか。見るが良い、この素晴らしいキャットウォークを! これ以上はない、完璧なものであろう」
客観的にみれば、まあ、普通だ。
時々斜めになっている部分もあるので、素人が作ったにしては頑張ったな、という印象でしかない。
もちろん口にはしない。
本人とぬこさんが満足していれば、それでいいのだ。
……ぬこさんが、満足しているかは別の話だけど。
あの騒動の後、私は正式に聖女に認定された。
今までも聖女であったのでおかしな話なのだけど、前のは勇者として送り出すための暫定的な扱いであったらしい。知らなかった。
でも今回、私は神の言葉を受けて人々を救済した……ということになっている。なので、名実ともに聖女になったのである。
神託による褒美を貰えることになったので、新しい私専用の教会を建ててもらうことにした。もちろん、転移魔法陣を設置するスペースも。
転移魔法陣の設置が許された理由。実はエルグレイ大司教代理から、とある任務を受けている。
『魔王が危険な行動を起こさないように、密かに監視してくれ』
と。
私は受ける代わりに条件を出した。
『魔王や私が自由に出入りできること。それと、騒ぎを起こさない限り、魔王が王都にきて買い物をすることを認め、邪魔しないこと』
エルグレイは多少ぶつぶつ言ったけれど、結局私の条件を飲んだ。
つまり、私にとっても魔王にとっても、今までと何も変わらない日常が戻って来たのである。
「それでルラよ、その手に持っているのはなんであるか?」
「あ、これですか? エリナさんのお店の新作です。魔力を流すと少し暖かくなって、猫が喜ぶブラシなんですって」
「何!? それを早く言わぬか! ええい! 我が最初に使う! よこせ!」
「はいはい、どうぞ」
キャットタワーの上で、私と魔王のやり取りを見ていたぬこさんが、退屈そうに「くあ」と小さくあくびをした。
―――おわり―――




