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アンデットだらけの2周目ダンジョンには治癒魔法が欠かせません!?~とある迷宮保安官と用心棒少女のダンジョン再攻略~  作者: 春街はる
アンデッドについて

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86/86

86.寧々さんと七瀬さん

 改めて。私と執行さんは、これからも一緒にアンデッドの調査をすることになった。

 津守さんに指定されたダンジョンへ向かうため、私たちはエレベーターで保安庁の1階へ向かっていた。

 向かっているんだけど……。


 …………。

 エレベーターの中は、しんと静かだった。

 時折、執行さんから視線を感じて振り向くと、執行さんとばっちり視線が重なる。けど、すぐに顔を逸らされる。

 津守さんの執務室を出てからというもの、ずっとそんな調子だった。


 う、気まずい……。

 

 津守さんからの質問には「二人でこれからもアンデッドの調査を続けたい」と答えただけだ。

 なんだけど。

 執行さんの答え方が答え方だった。

 まるで告白かプロポーズでもされているんじゃないかって勘違いするような熱量だったのだ。

 そりゃあ、嬉しかった。嬉しかったよ?

 でも、今、思い出しても顔が熱くなる。しかも津守さんの――上官の前だったのだ。上官の前で何をしていたのか……と冷静になればなるほど、羞恥心や照れ臭さが込み上げてくるのだった。


 ちら、と横目で執行さんを伺う。

 ほっぺたを未だに少しだけ朱に染めて、執行さんはそわそわとして見えた。

 執行さんも変で、私も変。

 気まずい変な空気になるのは当然だった。


 こういう時に限って、エレベーターは途中の階で止まらない。

 誰も乗ってこない。

 いや、逆にそのほうがいいのかな?


 兎に角、何か話題を……。

 えっと、話題話題……。

 とりあえず、これから向かうダンジョンのことを簡単に説明しておこうか。


「執行さん」

「佐々貴さん」


 執行さんと声が重なる。


「あ、ごめんね」

「いえ、私の方こそ、すみません」

「ううん。執行さん、何?」

「あ、えっと、佐々貴さんの方から……」

「ううん、いいよいいよ。先に執行さんから言って?」

「は、はい……」


 少しの間、執行さんは目を泳がせてから口を開く。


「さっきは、その……変なことを言ってしまって、すみませんでした」

「変なこと?」

「重たいというか、鬱陶しい発言だったかなって……」

「大丈夫。そんな風には思ってないよ。嬉しかったし」

「本当、ですか?」

「うん。私って、もっと頼りないって思われてるかと思ってたから、ちょっとびっくりしたけどね」

「そんなことないです」


 即答で否定される。

 東京迷宮シティでは、執行さんのクラスメイトの子たちに執行さんの妹と勘違いをされたくらいの私だったけど、執行さんから見ると違うらしい。

 ……なんだか執行さんから見た私は、随分と素敵な大人の女性っぽくてちょっと不安ではあるけど。


 チーン、と音が鳴って1階に到着した。

 エントランスから保安庁を出て、いつも乗っている白色の普通車に向かう。

 運転席の扉を開けて、車に乗り込もうとしたとき。


「あの、佐々貴さん」

「うん?」


 呼び止められて、首をかしげる。

 執行さんは少し離れたところに立っていた。

 

「執行さん、どうしたの?」

「それ、なんですけど……」

「それ?」


 そ、それ? どれ?


「……私のこと、名前で呼んでほしいです」

「な、名前?」

「……佐々貴さん、ダンジョンで会った配信者の人たちのことは名前で呼んでいたじゃないですか」

「あー、うん」


 配信者というのは、久遠さんと永遠子さんのことだろう。

 たしかにあの二人のことを私は「久遠さん」「永遠子さん」と名前で呼んでいた。

 でも、それは二人が兄妹だからだ。名字で呼ぶとややこしいかなと思って。

 ていうか、よくよく考えたら、私はあの二人の苗字知らない。


「だから私のことも名前で……ダメ、でしょうか」

「ダメじゃない、けど……」

「じゃあ」


 期待に満ちた目を向けられる。

 えっと、執行さんの名前。

 執行七瀬。

 

「な、七瀬さん……?」

「はい」


 な、なんだこれ。

 名前を呼んだだけなのに、すごく照れ臭い。


「わ、私も佐々貴さんのこと、名前で呼んでも」

「う、うん。もちろんいいけど」

「ね、寧々さん……?」

「うん……」


 な、なにこれ?

 名前を呼ばれただけなのに、すごく照れ臭い。

 それはたぶん、執行さん……もとい七瀬さんが「えへへ」とはにかんでいるからだ。


「え、えっと。そろそろ行こうか?」

「はいっ、寧々さん」

「……っ」


 うぅ、やっぱり慣れない。

 照れながら車に乗り込んで、やや挙動不審になりつつシートベルトをガチャガチャと締める。

 名前で呼ばれるなんて、いつ以来だろう? 社会人になってからは家族以外ではいなかったかもしれない。


 呼ぶ方も、呼ばれる方も慣れないと。

 ダンジョンで戦っている時に照れている暇はない。

 っていうか、ダンジョン内に限らず、これからはずっと名前で呼ぶことになるんだから。


 ……七瀬さん。

 七瀬さん。七瀬さん。七瀬さん。

 

 心の中で何度か唱える。

 良い名前だ。

 ちら、と七瀬さんを伺うとちょうど視線が重なった。


「どうかしましたか?」

「ううん、なんでもないよ」


 七瀬さんに微笑んで、私は車のアクセルを踏む。

 今日も今日とて、七瀬さんとダンジョンへ向かうのだった。


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