22.柏ダンジョン最深部
「もう倒したんですか?」
「あぁ。俺にかかれば楽勝だったぜ」
ドヤ顔で首肯してくる久遠さん。
久遠さんと永遠子さんがどのくらい強い探索者(配信者)なのかは分からないけど、少なくとも大手の配信者事務所に所属して、この依頼を任されるくらいの実力者ではある。
それならミノタウロスを二人で倒すくらいは造作でもないだろう。
……それが本当にミノタウロスだったのなら、だけど。
初心者ではないから、倒せていないのに倒せたということはないだろう。
討伐の依頼を受けているみたいだし、勘違いすることはないと思う。
ということは、柏ダンジョンの最深部にいるのはアンデッド――ミノタウロスアンデッドではないのかもしれない。
「最下層にいたミノタウロスって、普通のミノタウロスでしたか?」
「ん?」
私の質問に久遠さんは顎に手を添えて思案して答える。
「いや、話を聞いていた通り、少し変だったな。まぁ、勇者である俺の相手ではなかったけどな!」
「さすがですお兄様!」
「おいおい、そんなに褒めるなよ永遠子」
「いえ、さすがはアタシのお兄様です!」
「へっ、よせやい。お前と言う最高の妹のサポートのおかげでもあるんだからよ」
「お兄様……♡」
見つめ合う二人の会話をよそに。
私は視線を執行さんに向けた。視線が重なって、執行さんも小さく頷く。
「……佐々貴さん、これって」
「うん。可能性は高そうだね」
変だったと感じたということは、少なからず違和感を抱いたということ。
久遠さんや永遠子さんたちもミノタウロスは倒したことがあるはず。それで違和感があったのだから、やはり普通にミノタウロスではないのだろう。
確信を得るために、もう一つ踏み込んで質問をぶつける。
「久遠さん。ミノタウロスの核って壊せましたか?」
「いや、どうしてか分からんができなかった」
首を横に振って、久遠さんは否定した。
隣にいる永遠子さんも思い出しているのか、忌々しそうな顔で舌打ちをする。
「兄様の一撃で消滅しないなんて、あのミノタウロス……生意気にもほどがあります」
「落ち着け永遠子。その代わりにズタズタにして倒してやっただろう?」
「そうですね、お兄様! アタシも黒焦げにしてやりましたから、あのミノタウロスは二度と立ち上がれませんね!」
嬉々として話す二人だけど、これはアンデッドで間違いないだろう。
二度と立ち上がれないどころの話ではない。もうすでにミノタウロスアンデッドは復活して立ち上がっている可能性すらある。
最深部の主の間に向かって、確認しなくては。
「久遠さん、永遠子さん。ありがとうございました。私たちも最深部まで行ってみますね」
「行かなくていいと思うが、行くのか?」
「はい。自分の目でも確かめたいので」
「そうか。まぁ、好きにしたらいい。ミノタウロスは俺が倒したから、最深部も安全だろうしな」
たぶん、倒せてないし、安全ではない。
なんなら、ただのミノタウロスじゃなくてミノタウロスアンデッドなので、より危険になっていると言っていいだろう。
と、言ってやりたいところだけど、ぐっと我慢する。
アンデッドに関しては迷宮保安庁で対応に当たるようにと言われている。つまり、一般の探索者には余計な情報は言ってはいけないはずだ。
「では、私たちは行きますね」
「あぁ気を付けてな、お嬢さん方」
キザったらしくカッコつけて手を振る久遠さんと、普通に手を振ってくれた永遠子さんに見送られて、私と執行さんは階段を降りた。
地下9階層を抜け、主の広間がある最深部である地下10階層にやってくる。
開け放たれたままの大扉の陰から中を窺うと……。
「……やっぱり」
全長5メートルはあろうかという巨体のミノタウロスアンデッドが中央に鎮座していた。
身体は久遠さんの斬撃を受けてボロボロになっていて、未だに出血している箇所もある。肉や骨が見えてゾンビみたいでグロテスクだ。
ところどころ焦げているのは永遠子さんの使った火の魔法だろう。食肉ではない肉が焼け焦げた悪臭が入り口付近にまで届いていた。
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