21.前世勇者の人
「あんたら、どうしたんだ?」
地下9階層からやって来たのは、男性と女性の二人組だった。
どちらも私よりも少し年上くらいだろうか。
男性の方は長髪の金髪を後ろで結び、剣士のような服装に剣を持っている。女性の方は金髪のミディアムヘアで、魔法使いのような恰好で杖を持っている。なんだかRPGゲームに登場しそうな二人だった。
こういうゲームのコスプレのような恰好をしている探索者は、配信者であることが多い。そのほうが非日常感が出て、配信のウケが良いのだろう。
執行さんよりも背が高い男性のほうが、私たちを見て首をかしげる。
「今日はこのダンジョンは立ち入り禁止だぞ? 知らずに迷い込んだのか?」
「私たちは調査で来たんです。あなたたちこそ、どうしてここに」
「あんたらも?」
も?
男性の言葉に、私は眉を寄せる。
「俺たちも調査……というより討伐だよ。事務所から依頼を受けてな。なぁ、永遠子?」
「ええ、お兄様」
男性の隣に立っていた女性――永遠子さんが首肯する。
お兄様、ということは、この二人は兄妹らしい。たしかに良く見たら顔立ちが少し似ていた。
「アタシたちの所属している探索者事務所はそれなりに大手なので、たまにお役所から依頼があるんです」
「で、事務所の中でもトップオブトップの探索者である俺たちが任されたってわけだ」
ふぁさ、と男性が前髪をかき上げる。
「あんたら、聞いたことはないか? 勇者久遠の名を」
…………。
…………ど、どうしよう、聞いたことがない。
随分なドヤ顔で名前を告げられたけど、全くピンとこなかった。
ちら、と執行さんを見る。
当然、ダンジョン配信に興味のない執行さんが知っているはずもなく。
執行さんはシンプルにぽかーんとしていた。
とりあえず、何か返事をしてあげないと。
えーっと、どうしよう。
と、私が考えていると、久遠さん未だにドヤ顔のまま髪を再びかき上げた。
「すまない、驚かせちまったよな」
「い、いえ、驚いては……」
「強がらなくていい。まさか、こんなダンジョンで配信のチャンネル登録者数が300万人もいて探索者として高レベルで高ステータス、それも勇者の前世を持つ俺のような探索者と会えるなんて思ってなかっただろうからな!」
「は、はぁ」
聞いてもいないことをペラペラと早口でまくし立てられて、返事に困ってしまう。
とりあえず、適当に褒めておこう。
「それはすごいですね」
「あぁ! そうだろうそうだろう!」
良かった、満足そうにしている。
勇者とか、前世の記憶とか、それはよく分からないけど、きっと配信者としての設定なのだろう。
それは一旦、どうでもいいとして。
この二人が、討伐の依頼で来たというのは本当のことなのだろう。
勝手に侵入したのかと疑っていたけど、今日はいつも以上に監視をしていたはずだ。簡単には侵入できない。ということは、きちんと管理事務所の許可を得て、ダンジョンに入ったことになる。許可が出たってことは、討伐の依頼が本当ということだ。
きっと、津守さんと柏ダンジョンの管理事務所、もしくは他の部署との間に行き違いがあったのだろう。どこかが間違えて久遠さんと永遠子さんの事務所に依頼を出したのだ。
その結果、私たちと久遠さんたちがバッティングしてしまった。
可能性としてはあり得る話だった。
「あの、佐々貴さん」
「ん?」
「この方は頭がおかしいのでしょうか?」
「ど、どうだろう……」
「危ない人でしたら、斬りますか?」
執行さんが刀の柄に手を掛けながら、真顔で提案をしてくる。
たしかに危ない人が来るかもしれないといって、ある意味危ない人が現れたわけだけど……。
「大丈夫だよ。こういう設定なだけだと思うし」
「設定ですか」
「配信者も大変なんだよ、たぶん」
「なるほど……」
執行さんは刀から手を離して、小さく頷いてくれた。
改めて。
久遠さんと永遠子さんは下の階層から来たから、状況を聞いておこう。
そう思って二人に顔を向けると、永遠子さんがむっとした表情で目くじらを立てていた。
「お二人とも! お兄様に失礼なことを言わないでください!」
「す、すみません?」
「言っておきますが設定ではありません。それにアタシに言わせたら、あなたたちの方が怪しいですけどね!」
「え!?」
まさか矛先を向けられると思っておらず、思わず声を零してしまった。
「先ほどお兄様も仰いましたが、アタシたちは配信者としても探索者としてもそれなりに経験があります。ですが、あたなたちを見かけたことはない。本当に調査の依頼を受けたのですか?」
「やめろ、永遠子」
「お兄様。ですが」
「俺も最初は疑ってたけど、管理事務所の許可なしで入れねぇだろ? ダンジョンに入れてるってことはちゃんと調査の依頼を受けてるってことだ」
「それは……そうかもしれませんが……」
久遠さんに諭されて、永遠子さんは引き下がった。
まさかこの人に助けられるとは。
でも、私たちが探索者でも配信者でもなくて、迷宮保安庁の人間だってちゃんと言っておいた方が良いだろう。
誤解は解いておいた方が良い。
だけど、私が口を開いて声を発するよりも先に、久遠さんが話し出した。
「妹が悪かったな」
「い、いえ……」
「でも、わざわざ調査で来たところ悪いが、あんたらはもう帰っても大丈夫だぜ?」
「どういうことですか?」
「ん? だって――」
ふぁさ、と久遠さんが再び髪をかき上げてドヤ顔で言う。
「下にいたミノタウロスは俺が倒しちまったからな」
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