大司教の最期と王城の異変
聖堂に響くのは、ただ一人の男の悲鳴だった。
大司教マルクスは床に倒れ込み、恐怖に震えていた。
「た、助け……助けてくれ……!」
彼の瞳は怯えに染まり、全身から冷や汗が流れている。
セレスティアは静かに彼を見下ろした。
「大司教。あなたは神に祈り続けていたわね。」
「そ、そうだ……私は……ただ、神の導きに従っただけだ……!」
「神の導き? いいえ、あなたがしたのは、ただの権力闘争よ。」
彼女の指先には、漆黒の炎が宿る。
「あなたは私を処刑することで、何を得たのかしら?」
マルクスは歯を食いしばる。
「私は……王国の安寧を……」
「違うわね。」
セレスティアはゆっくりと首を振る。
「あなたは、私を排除することで、リリアを真の聖女として王国に君臨させるつもりだった。そして、自分がその後ろ盾となり、王国を意のままに操るつもりだったのよ。」
「ち、違う……!」
「本当に違うなら、どうして暗殺者を差し向けたのかしら?」
マルクスの顔が青ざめる。
「なぜ……それを……」
「あなたは、王の影に隠れて好き勝手に動いていた。でもね……」
セレスティアは微笑む。
「今ここで、あなたの野望は終わるのよ。」
彼女の手が振り下ろされる。
黒炎がマルクスの身体を包み込み、彼の悲鳴が聖堂に響き渡った。
――
ルードは聖堂の外で警戒していた。
夜の王城は静かだったが、異変を察知した兵士たちが動き始めていた。
「……まずいな。そろそろ動きを速めないと。」
彼はセレスティアが戻るのを待ちながら、周囲の動きを観察する。
そして、ふと異変に気づいた。
「……誰かいる……!」
闇の中に潜む何者か。
ルードはすぐに剣を構えた。
「そこにいるのは誰だ?」
静寂の中、足音が響く。
「……久しぶりだな、ルード。」
その声を聞いた瞬間、ルードの表情が変わる。
「……まさか……!」
闇の中から現れたのは、一人の男。
漆黒の鎧をまとい、鋭い眼光を持つ聖騎士団の男だった。
「お前……まだ生きていたのか……ガラハド……!」
ルードの言葉に、男は微笑む。
「ルード、お前が裏切り者として処刑されなかったのは奇跡だが……今度こそ、ここで終わりだ。」
その言葉を皮切りに、剣が閃く。
ルードは咄嗟に剣を振るい、激しい衝撃が周囲に響いた。
「……まさか、聖騎士団が動いているとはな。」
「当然だ。お前も知っているだろう? 王国の守護として、俺たちは聖女リリアの命令に従う。」
「……やはりリリアか。」
ルードは舌打ちする。
リリアが大司教の死を予測し、すでに動いていた。
「……セレスティア様、急がなければならないですよ。」
ルードは剣を構え直す。
「ここで足止めを食らうわけにはいかない。」
「足止め……? いや、貴様はここで死ぬんだ。」
ガラハドの剣が、一閃する。