影の暗殺者
王城の庭園の奥、静寂を破ることなくセレスティアとルードは影に潜んでいた。
黒衣の男――王直属の暗殺者がゆっくりと歩を進める。
「……影の魔女が戻ってきたか。」
彼の口から漏れたその言葉が、セレスティアの耳を捉える。
(やはり、私のことを指している……)
すでに彼女の存在は何者かに感づかれている。
このままでは計画が崩れる可能性がある。
「ルード、あの男を捕らえるわ。」
「了解です。」
ルードが剣を構え、セレスティアが指先に闇の魔力を宿す。
次の瞬間、二人は一斉に動き出した。
「……!」
暗殺者は即座に異変を察知し、素早く後退する。
彼の動きは鋭く、鍛え上げられた技術が垣間見える。
「まさか……!」
ルードが斬りかかるが、男は軽やかに身を翻し、攻撃をかわした。
「さすがは王直属の暗殺者ね。」
セレスティアは静かに微笑む。
「だが、私に気づいたのが運の尽きよ。」
彼女が手を掲げると、黒い魔法陣が瞬時に広がる。
「《闇縛の檻》」
暗殺者の足元から黒い鎖が生まれ、一瞬で彼の動きを封じた。
「くっ……!?」
男は身をよじるが、鎖は彼の力を吸い取り、抵抗を許さない。
「さて……誰に命じられたのかしら?」
セレスティアは男の前に歩み寄る。
彼の瞳には、恐れと警戒が入り混じっていた。
「……貴様を討つように命じたのは……王……ではない。」
「ほう?」
セレスティアの眉がわずかに動く。
「では、誰?」
男は薄く笑った。
「……“聖女”だ。」
その言葉を聞いた瞬間、セレスティアの紅い瞳が鋭く光る。
「リリア……」
彼女の唇から憎悪に満ちた名が漏れた。
リリアは、王の命ではなく、独自にセレスティアの暗殺を企てていたのだ。
「面白いわね……聖女のくせに、ずいぶんと暗殺などに手を出すものね。」
セレスティアは笑みを深める。
「じゃあ、彼女に伝えておきなさい。」
黒い炎が暗殺者の身体を包み込む。
「――私はまだ終わっていない、とな。」
悲鳴とともに、暗殺者の姿が黒炎に飲まれ、闇へと消えていった。
復讐の幕が、さらに深くなっていく。