王城の影、動き出す
王城の庭園に足を踏み入れたセレスティアとルード。
夜の闇に包まれた美しい花々の間を抜け、二人は静かに歩を進める。
「ここが王の住まう城……」
セレスティアは見上げる。
白亜の塔が月光に照らされ、かつて自分が住んでいた場所の記憶が蘇る。
「懐かしいわね。」
だが、今の彼女にとって、この城は復讐の対象でしかない。
「ここからどう動きます?」
ルードが低く尋ねる。
「まずは情報収集よ。手当たり次第に暴れるのではなく、王の動向とリリアの居場所を突き止める。」
「了解です。」
ルードは頷き、庭の奥に視線を向けた。
「衛兵の配置が変わっていますな……以前はこの時間帯に巡回がなかったはずです。」
「私の処刑後、警戒が強まったのでしょうね。」
セレスティアは微笑んだ。
「でも、それは逆に私たちの存在を恐れている証拠。警備の強化は、それだけこの城に隙があるということよ。」
「……確かに。」
彼女の言葉に納得し、ルードは剣を握り直した。
その時、城の奥からかすかな気配が近づく。
「誰か来る……!」
二人はすぐに影へと隠れた。
歩いてきたのは、一人の黒衣の男。
彼は周囲を警戒しながら足を進めている。
「……気配がただの衛兵とは違う。」
ルードが警戒を強める。
その男は王宮の奥からやってきた。
彼の腰には短剣がぶら下がり、その鋭い眼光はまるで獲物を狙う狼のようだった。
(……王直属の暗殺者かしら?)
セレスティアはじっと観察する。
男はふと足を止め、何かを呟いた。
「……『影の魔女』が戻ってきた……か。」
セレスティアの目が細められる。
(……私のこと?)
彼女の存在はすでに知られているのかもしれない。
「ルード、先に奴を捕らえるわよ。」
「了解です。」
二人は静かに動き出す。
夜の王城で、最初の駆け引きが始まろうとしていた。