聖女と悪女、運命の激突
夜の王城に、静かな緊張が走る。
黒炎を纏うセレスティアと、黄金の光を放つリリア。
二人の間には激しい魔力の波動が満ち、まるで空間そのものが揺らいでいるかのようだった。
「こうして真正面から対峙するのは久しぶりね、セレスティア。」
リリアは余裕の笑みを浮かべながら言う。
「私を処刑しながら、ずっと恐れていたのでしょう?」
セレスティアは静かに言い放つ。
「いいえ、私はあなたを恐れてなどいないわ。……ただ、この時を待ち望んでいただけよ。」
言葉と同時に、セレスティアの足元に黒い魔法陣が広がる。
漆黒の炎が轟々と燃え上がり、その熱が周囲の空気を歪ませる。
「いくわよ、リリア。」
セレスティアが手をかざした瞬間、黒炎が咆哮を上げ、一直線にリリアへと襲いかかる。
「っ……!」
リリアは瞬時に聖なる光の壁を展開する。
黒炎がそれにぶつかると、激しい衝撃音とともに弾け飛ぶ。
「さすがね……闇の力をここまで自在に操るなんて。」
リリアは息を整えながら、慎重に間合いを測る。
「けれど、私は『真の聖女』。あなたの闇の魔術には決して屈しない!」
彼女が手を掲げると、頭上に巨大な魔法陣が出現した。
光の槍が次々と生成され、無数の光の刃となってセレスティアを貫こうとする。
「――《天槍の審判》!」
黄金の槍が放たれた瞬間、セレスティアは瞬時に跳躍し、宙を舞った。
黒炎の翼が彼女の背に広がり、その姿はまるで漆黒の天使のようだった。
「そんなもの……私には通じないわ!」
彼女は手を振るい、闇の魔力を凝縮させた。
「――《冥府の抱擁》!」
黒い霧が広がり、リリアの周囲を覆い始める。
それは命を吸い取る呪詛の霧。
「くっ……この魔力……!」
リリアは即座に防御の魔法を展開する。
しかし、霧の力は彼女の結界を徐々に侵食し、じわじわと魔力を削っていく。
「あなたは今まで、光に守られたぬるま湯の中で生きてきた。でも、私は違う……。」
セレスティアの声は冷たく響く。
「私はこの世界の暗闇の中で、生き抜いてきたのよ!」
彼女が手を握ると、霧がさらに濃くなり、リリアの視界を遮る。
次の瞬間、セレスティアの姿が霧の中から消えた。
「どこ……!?」
リリアが辺りを警戒するが、突如、背後から冷たい声が響いた。
「――終わりよ。」
リリアが振り向く間もなく、黒炎の刃が彼女のすぐ目の前に迫る。
しかし――
「まだ終わらないわ!」
リリアは渾身の力で光の障壁を展開し、刃を防ぐ。
激しい衝撃が生まれ、王城の中庭が揺れる。
二人の力は拮抗し、まるで光と闇のせめぎ合いが具現化したかのようだった。
その壮絶な戦いを、ルードとガラハドは息を呑んで見守っていた。
「……これが、本当の戦いなのか。」
ガラハドが呟く。
ルードはセレスティアの背中を見つめながら、小さく頷いた。
「セレスティア様は、決して負けません。」
彼の言葉には、確かな信頼が込められていた。
そして、光と闇の戦いはさらに激しさを増していく――。