処刑された聖女、悪女として蘇る
聖女セレスティアは処刑台の上に立っていた。
彼女を取り囲むのは、かつて彼女が救ったはずの民衆。その顔には憎悪が浮かび、罵声が飛び交っていた。
「偽りの聖女め!」
「お前のせいで国が危機に陥った!」
「死んで罪を償え!」
セレスティアは何も言わなかった。
涙はすでに枯れ果て、彼女の心には絶望と、わずかな悔しさが残るのみだった。
彼女は聖女として、神の力を使い、この国と民を救ってきた。それが王と大司教の企みによって「邪悪な魔女」として断罪されることになるとは、誰が予想しただろうか。
彼女の手足は鎖で繋がれ、身にまとうのは処刑用の粗末な白布だけ。
目の前には王、かつての仲間であった聖騎士団、そして新たな「聖女」として立つ裏切り者のリリア。
「セレスティア、あなたの罪は万死に値するわ。神の名のもとに、ここで裁きを受けなさい」
リリアは清らかな笑みを浮かべながら、処刑宣告を下した。
(……私が、罪人ですって?)
セレスティアの青い瞳が怒りに染まる。
彼女は王国のために尽くしてきた。それなのに、この仕打ちは何なのか。
「私は……ただ、皆を救いたかっただけなのに……」
呟きは誰にも届かない。
処刑人が剣を振り上げ、次の瞬間、彼女の首が刎ねられた。
――――
暗闇の中で意識が浮上する。
死んだはずのセレスティアは、冷たい石の床に横たわっていた。
目を開けると、そこはどこかの地下牢のようだった。
「……生きている?」
いや、違う。
手を見れば、肌は以前よりも青白く、細い指先には黒い紋様が浮かんでいた。
鏡を見ると、かつての清廉な聖女の面影はなく、長い銀髪は漆黒に染まり、瞳は深紅に輝いている。
「これは……?」
混乱しながらも、頭の中には確かな知識が流れ込んでくる。
(私は……闇の魔術師として転生した?)
彼女の体には新たな力が宿っていた。
それは、かつて彼女が忌み嫌い、封じられていた「闇の力」だった。
微笑が浮かぶ。
「ならば……これは神がくれた復讐の機会ね」
セレスティアはゆっくりと立ち上がる。
その手から黒い炎が生まれ、牢の鍵を焼き切った。
「王よ、大司教よ、リリア……覚悟なさい」
かつての聖女は死んだ。
これからは、悪女として舞い戻る。
そして、その復讐劇が、今始まる――。