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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第5章 魔女の師

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5-29.ヴァニアの傷心

 傷口から血を振りまきながら、ゾンビはティナに向けて拳を振り上げる。ソフィを庇っているティナは避けることもできず、ドレス姿だから動き回るのも困難。けれど冷静に、テーブルの上に置かれた金属製の盆を手にして盾にする。


 ゾンビの拳が金属の板を殴った。角度を調節したため、ティナは衝撃をうまく受け流した。ゾンビは二発目を喰らわそうとしたが。


「おらっ! 止まれ!」


 肩におんぶするような形でキアが乗る。両足でゾンビの首を締めるようにしがみつきながら、ナイフを抜いてゾンビの無事な方の肩にザクザクと刺していく。

 さすがにゾンビも攻撃目標をティナからキアに変えたが、そこにアンリともふもふも突っ込んできた。


「突撃ー! やっちゃえ!」


 馬の前足がゾンビを側面から思いっきり蹴る。今度こそゾンビはバランスを崩して倒れた。一緒に地面に叩きつけられる前に、キアは飛のいて華麗に着地。


「みんな! そいつの体を押さえて!」


 僕が指示するまでもなく、もふもふはゾンビの胴を踏みつけているしアンリは上から弓を放ってゾンビの手足を地面に縫い付けようとした。キアも拘束を手伝っているしティナはお盆でゾンビの顔を押さえつけている。

 さっきキアが落とした木の枝を拾い、すぐに戻ってゾンビの四肢を切り落としていく。みんなが押さえつけているから、簡単にできた。


 四肢を失い胴体だけで身をくねらせるゾンビから、みんな一斉に離れる。


 金持ちの屋敷がゾンビに襲われたとあって、治安管理の兵士はすぐに駆けつけた。後は任せよう。


「ヨナ様! 良かった無事だったのですね!」

「おっと」


 泣きそうな顔で抱きついてきたのはソフィだった。


「怖かったです! 死ぬかと思いました。それに、ヨナ様が吹き飛ばされたのを見て……すごく、すごく怖かった」

「僕は無事だよ。死んだりしない。だから安心して」

「はい……」


 恐怖で今も震え続けるソフィを突き放すことなどできない。彼女の背中に手を回し、なでてあげる。

 それから。


「ティナごめん。そっちに走るべきだった」


 ゾンビの対応を任せたことを謝った。ティナは笑顔で首を横に振る。


「いいえ。ヨナ様の判断は正しかったです。わたしなら、ゾンビの攻撃に少しは耐えられると思ったんですよね?」

「うん。ソフィを守りながらね。すぐにキアやアンリも駆けつけるだろうから」

「でしたら。万一にでもヴァニアさんの方へ行く可能性を考えて動いたのは正解でした。わたしのことも信頼してくださり、嬉しいです」

「ありがとう。……さて」


 少しばつが悪そうな顔をしているキアたちの方を見た。ふたりとも目を逸していて。


「なんでここにいるのかな?」

「わ、わたしはほら。お留守番なんか退屈だったから。もふもふを散歩させようと思って。馬も運動させないと、体がなまるでしょ? で、偶然。本当に偶然ここに来て」

「来て?」

「もふもふの上からなら柵の向こうの様子を見れるかなーって思って。ヨナのこと見たかったのよ」

「そっか」

「で、でも! キアほど悪いことはしてないわ! 最初から覗くために木登りするって言ってたもの!」

「おい! お前アタシを売る気か!?」

「本当のことだもの!」

「うん。キアは朝も言ってたね。やめてねって言ったと思うけど」

「他人事だから愉快に見られるとも言ったぜ。ははは」


 笑って済ませようとするな。


 溜息がひとつ漏れた。


「まあいいけどね。助かったのも事実だし。みんながいてくれたから、無事に勝てた。怪我人もいないよね」

「はい! ……待ってくださいヨナ様はかなり派手にぶっ飛ばされましたけれど」

「怪我じゃないから大丈夫だよ」

「でも! どこか切り傷とか出来ているかもしれませんから! ちょっと確かめさせてください! 服を脱いで」

「大丈夫だから」


 ティナは心配性だなあ。


 けれど本当によかった。怖い思いをしただけで、誰も傷つくことなく終わったのだから。




――――




 ヴァニアは傷ついていた。


 突然のゾンビの登場にも、堂々とした振る舞いができていたと自分でも思う。


 他の貴族たちは大人も男もみんな悲鳴を上げて情けなく逃げていく中で、自分だけは余裕の態度をヨナに示せた。ヨナを狙っていた他の娘たちと、格の違いを見せつけられた。

 ヨナの戦いを誰よりも間近で見ることで、自分は他の娘とは違うと周りにアピールする。ヨナがこの町の貴族の誰と結婚するかの競争で、抜きん出ることが出来たと思った。


 ソフィも逃げなかったけれど、ヨナの従者を気取る謎の女に守ってもらっていたから、ヨナは弱々しさに呆れ果てたことだろう。仲間の足を引っ張るだけの邪魔な女だと思ったはず。


 ティナだっけ。あの貧乳女がヨナの何なのか。ヨナがそもそも何者なのか。それをヴァニアは未だに良くわかっていなかったけど、自分が彼を手に入れられるならばどうでもよかった。


 町の英雄とみなされているヨナを婿入りさせれば、家も自分の人生も安泰。名声は思うがまま。誰もが羨み尊敬する。そんな自分が出来上がる。ヴァニアはそれを夢見ていた。


 戦いの中で、ヨナがソフィではなく自分の方へ駆けた時には、全部思った通りになったと確信した。

 なのに違っていたらしい。


 戦いが終わった後、駆け寄って抱きついたソフィをヨナは拒まなかった。受け入れて優しい表情を向けた。仲間たちとも楽しげに話している。

 そこにヴァニアが入る余地などなかった。さっき娘たちに囲まれて、自分の居場所が無くオロオロしていたソフィと同じ。


 ヨナは最初から、ヴァニアのことなど眼中になかった。助けたのは、ヴァニアを信頼していなかったから。ティナを信頼したからこちらに来た。


「なに、よ……」


 口から、嫉妬にまみれた言葉が漏れた。

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