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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第4章 次期城主

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4-29.老人の語らい

 サイクロプスの封印の書を回収した城門の警備隊長は、その日の夜には城まで送り届けていた。

 城主か、その配下に直接手渡して適切な保管をお願いする。下っ端の役人や使用人では不安だ。そう伝えた彼を出迎えたのは。


「ご隠居。お久しぶりです」

「うむ。今回の件、ご苦労だった」


 息子に家督を譲った先代城主だった。ドラントから見て祖父に当たる男。

 隊長とは、長年の付き合いがある。歳も近い。


 城主自ら対応するよりも、こちらの方がやりやすいだろうという配慮が感じられた。


 城内にある立派な応接室に通されて、酒を振る舞われた。隊長は封印の書を差し出し、ご隠居はそれをしっかりと受け取る。


「長年の不安が解決して、さぞ安堵していることだろう」

「はい……ようやくです。あの盗賊団たちが恐れ多くも城に忍び込んでから、もう五十年。村を作っていたと聞いた時には肝が冷えましたぞ」


 街の片隅で生きてきた、食うに困った者たちや、金持ちの暮らしに憧れた者。彼らが徒党を組んで城へ忍び込んだ。城の前で騒いで兵士の気を逸らす陽動役まで何人もいる、大規模な窃盗団だった。

 奴らの半数は殺されるか捕まるかした。城の宝物も奪い返した。しかしこの書だけが持ち去られてしまった。


 盗賊団の頭領は、これが何か知っていたらしい。これみよがしに掲げながら逃げるのを、兵士たちは積極的に攻撃することはできず、追うしかなかった。

 やがて森の中で見失った彼らは、小さな集落を作るには十分な人数だった。


「あの時の騒ぎは今でも忘れない。宝物だけでなく、禁術庫まで荒らすとは。……亡き父も狼狽えていた。明日にでも、祖先の墓に報告しに行くとしよう」

「それがよろしいかと。私も、当時の上官の墓へ参ろうかと考えていました」


 その後も穏やかな老人たちは、懐かしい時代の思い出話に花を咲かせた。


 あの頃は街で起こる犯罪こそ多かったが、楽しかった。お互いに若さに満ち溢れていた。


 ご隠居は、ふうと溜息を漏らす。


「この街の将来はどうなることやら。ドラントに、城主の大役を任せていいものだろうか」

「お孫さん、ですか?」

「ああ。馬鹿な男だ。没落した貴族の娘に手を出して孕ませるとは。城主の子ならば、然るべき家の娘と婚約するものなのに」

「詳しくは知りませんが、大変なようですな」

「そうなのだ。当のドラントは、娘を孕ませた覚えはないと言っている」

「ほう?」

「元からの知り合いで、共に飲むことはあったらしい」


 次期城主ともあろう人間が、没落して庶民と変わらない立場になった娘と飲む、か。


 まあ、ありえない話ではない。貴族といえど、庶民の店で飲むことはある。若いうちは特にそうだ。堅苦しい世界から一時でも逃れたい時はあるだろう。

 そこで庶民の友と知り合うことも、無くはない。庶民と金持ちが関係を持つのは避けるべきという意見もあるし、それも理解できるが。


 ドラントはそうして、娘と知り合ったのだろう。そして酔った勢いで一夜の過ちを犯し、孕ませた上で責任を取ろうとしていない。


「娘は神に孕まされたとか、そんなことを言う始末だ」

「神か」


 この街の古い伝承。セイホラン様の伝説のひとつ。神と女の間に子が産まれたというもの。実際にそんなことがあるのか、分別のある大人ならば単なる伝説と片付けるようなもの。

 大真面目に語る者は笑われるのがオチだが、ドラントはそう言い張っているらしい。


「娘と結婚したくないのかといえば、そうでもないらしい。あの家との関係は持ちたいと。しかし子については認めようとしない」

「わけがわかりませんな」

「まったくだ。あれが次の城主になるなど。この街のこれからどうなるのか。不安だ」

「そう心配することもないでしょう」


 隊長はどこまでも穏やかに、諭すように言う。


「私たちだって、あれくらいの歳の時は馬鹿だった。そうではありませんか」

「……うむ。そうだったかもしれんな」

「もちろん、ドラント様には直すべき所は直してもらわないと。しかし、これからです。支配者に相応しい男になっていくものですぞ」

「そういうもの、だろうか」

「はい。それに、至らぬ者であっても、それを支える周りがいれば、なんとかなるものです。私の部下たちはみんな優秀で、いつも助けられてばかりです。もちろん兵士たちは城主となったドラント様も支えてくれる。民たちもです。若い者たちが、熱意を持って祭りの準備をしているのを見かけます」

「祭り、か……」

「ええ。楽しみでしょう。ああいう者がいる限り、街は安泰です。城主であっても、それを支える民あってのもの。民が優秀ならば、街はなんとかなります。老い先短い私たちは、それを見守るだけです」

「そうか……そうだな」


 ご隠居は微笑みを見せて、隊長のグラスに酒を継ぐ。



 用事を終えて、隊長は帰るために部屋を出た。

 それと同時に、逃げるように離れていき、廊下の角に姿を消す人影を見た。


 視界に入ったのは一瞬だったが、間違いない。ドラントだ。


 何をしていたのやら。ご隠居にはああ言ったが、支配者は愚か者よりも聡明な方がいい。


 民は優秀なのに、どうしてああいう者が上に立つことになるのか。隊長は呆れた顔をしながら、城から出ていった。

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