4-28.あいつが沢山
滞在中はこの家に泊まっていいとオルソンに言われた。宿代が浮くならいいことだ。ただし、周りよりは立派と言っても、そんなに大きな家ではない。新たな家族となったホイにあてがう部屋はあっても、他に五人も泊める部屋はない。もふもふは、庭に繋ぐことでなんとかなるけれど。
というわけで、食事をした部屋で机を隅に移動させて、そこで寝ることになった。オルソンたち家の者は、個室のある二階に上がっていった。
「客人の扱いがこれなのねー。まあ仕方ないけれど。宿からここに通うよりは、こっちの方が楽ね」
「宿のベッドは恋しいけどなー」
「でも楽しいじゃない! 街の中だけど野宿してるみたいで!」
「アンリさんは冒険してる雰囲気が好きですものね。キアさんも、森の中よりはこっちの方が快適って思っていますか?」
「ま、森で野宿するよりはマシだよな。なあ、それよりあいつ、どう思う?」
「どいつ?」
この夕食を食べる間に、変な人とは出会いすぎた。
「誰だと思う?」
「質問に質問で返さないでよ。……ホイのことでしょう?」
「あー。それもあるな」
不正解だったらしい。
「あいつ、リーサに惚れてるな」
「うん。僕もそう見えた」
「忙しい人ねー」
「前にも言った通り、情緒が幼いのよ。だから優しくされたら、この人は自分が好きなんだと認識してしまう。自他の境界も曖昧なんでしょうね。自分からの好意を相手からの好意に錯覚してしまう」
「面倒だな。ゾーラ、リーサには好きな相手がいるって教えてやれ」
「それはあたしの役目の範囲外。でもまあ、リーサの幸せは願いたいわね。いい子らしいし。あのジェゾって男と付き合うべきよね。彼は実直そうだから」
「おう。祭りの日に告白して付き合っちゃえばいいんだ」
「邪魔は入ると思うけどね。あたしは、キアの言う"あいつ"って、ドラントのことだと思ってたわ」
「あー。確かにそれもいたか」
ゾーラも不正解だったらしい。
「あいつ絶対、リーサに惚れてるな。結婚するのはは姉のはずなのに、そっちには興味がないときた」
「でも、子供は作ったのよね?」
「おう。ヤッたのは確かだな」
「キアさん。子供もいるんですから、そういうこと言うのはやめてください。教育に悪いです」
「そういう気を遣うほど子供じゃねえだろ。とにかく、あのナーサって奴はドラントと結婚したい。ドラントはナーサに興味はないが、近づくためにヤッた。そういうことだ。家に恩を売って、リーサも貰っちまえって思ってる」
「嫌な感じねー」
「ああ。リーサには、あの男とくっついてほしいな」
「そういうのを祝福する祭りがあるのが、この街だもんね。それで、キアが言ってるどうかと思う奴って誰?」
「ナーサに決まってるだろ」
先のふたりが違うなら、この人だよね。
「確かに、あの人もどうかと思うけど。でも簡単でしょ? ドラントの立場が目当てで、本人のことは別に好きじゃない。けど、偉くなるために、その。ヤッた」
「ヨナ様!? ほらー! キアさんのせいですよ! ヨナ様が悪い子になったらどうするんですか!?」
「これぐらい知ってて普通だろ十二歳なら! てか、ヨナのことなんだと思ってるんだ。めちゃくちゃ心が綺麗な子供とかじゃないだろ! ずっと!」
「人とか殺すしね」
「それはみんなだけどね」
「だとしても! ヨナ様の未来をわたしは心配しているんです!」
「ティナ。夜だよ。静かに」
「すいません……」
「キアはナーサって人をどう見てる?」
「ヨナと同じだ。あいつはドラントの身分だけが好き。ドラントも、お腹の子供も好きじゃない。アタシはさ、あの夫婦がどうなろうと構わないんだ。けど産まれてくるガキは可哀想だと思う」
「……うん」
自分が産んだ子供を育てるような女じゃない。リーサは自分の姉をそう評していた。
本当にそうなんだろう。
だから子供は、乳母と呼ばれる人の手で育てられる。実の母は城での贅沢な生活を謳歌して、子供など顧みない。
あの子供は、所詮は嫁入りのための道具に過ぎないのだから。
ドラントだって、自分の子に熱心に向き合うような人間には見えない。
「僕の父は最低の男。母は病弱で子育ては無理だった。それでも愛情は注いでくれたと思う。……僕はまだ、愛されていたのかもね」
肉親からの愛が一切無い子供ってどんなものだろうな。
ああ。ホイはもっと酷い環境で育ったな。あれよりは文明的な育ち方をするだろう。
「不幸よね。で、子供を不幸にするような親が、将来的には街の統治をする。産まれてきた子が男の子なら、もっと未来に親からの愛情を受けてこなかった奴が城主になる。そんな奴がいい支配者になれるかしら?」
街全体の問題になってしまう。家の将来にようやく希望が持てたオルソンや、人の良さそうなリーサやジェゾの未来に暗い影を落としかねない。
とはいえ。
「ま、いいんじゃない。恵まれた境遇と言いにくくても、産まれてくる子供は祝福するべきじゃないかしら。それに、あたしたちにとってこの街は通り道。あれこれ心配することじゃないわ」
ゾーラの言うとおり。僕たちはナーサの子供が産まれる前に街を去る。そこからの未来を目にすることはない。せいぜい、風の便りで聞くだけ。
「そうですね。せめて、産まれる赤ちゃんの人生が幸福であると祈りましょう」
その言葉にみんな頷いて、それから目を閉じ眠りについた。
ナーサのお腹の中の赤ちゃん、幸せになればいいな。




