3-24.海賊の終わり
ジィネは、いくつか間違いを犯していた。そして、それに気づかなかったか、そもそも前提を間違えて認識していた。
ひとつ。ジィネは演説が上手くない。しかし前回の失敗に懲りずに、また自身の力で海賊たちを纏めようとした。
ふたつ。財産を溜め込んでいるのはガルドが個人でやっていると思っていた。本当はジィネ以外はみんな知っていて、だから軍の指揮官の言葉に落胆したのだが、彼女は気づかなかった。
みっつ。海賊たちはジィネを慕っているわけではない。彼らはガルドによって集められた、ならず者たち。素行の悪さと貧困のせいで犯罪者になる寸前だった者が、ガルドによりしっかりと犯罪者に仕立て上げられたのが彼らだ。
海賊たちをまとめ上げたのはガルドの仕事。ジィネは海賊の象徴にすぎない。確かに異能は素晴らしいが、それだけだ。
男たちはジィネの異能よりも、彼女自身に興味津々だった。
空虚な演説をするジィネの周りに海賊たちが集まってきた。ニヤニヤと下品な笑いを浮かべて、ジィネの体を舐め回すように見つめる。いくつもの視線を受けて、ジィネはようやく何かおかしいと気づいた。
「な、なによ。わたしは船長よ」
「ガルドの手前、手は出さないでいたけどよ。お前いい女だよな」
「すぐ近くに女がいるのに触れなかったんだ。もう我慢できねぇんだよ」
「もういいってことだよな? なあ!?」
最後の呼びかけは、ジィネに対するものでもあり、仲間たちへの確認でもあった。
戸惑うジィネ以外に反対する者はおらず、海賊たちは一斉に彼女へと迫っていく。ここは船の上。逃げ場なんてなかった。
回りに風を吹かせる。眼の前にいた数人を軽く吹き飛ばすことはできたけれど、それだけだった。側面から当て身を食らわされて体がよろけたのと同時に、風も止まって男たちが殺到した。
押し倒されたジィネの服が乱暴に掴まれて、破くように脱がされていく。手足をバタつかせて抵抗するジィネだけど、男たちの前では無力だった。
欲望しか頭にない男たちで視界が埋め尽くされる。その僅かな隙間から見える空は、憎らしいほどに青かった。
男たちに弄ばれている間、ジィネはずっと小さな頃のことを考えていた。
産まれは貧しいスラム街。ジィネの母は娼婦で、父親が誰かは知らなかった。
母は美しいとは言えない容姿をしていた。故に体を高く売るなんて出来ないし、常に貧しい生活を送っていた。それでも母は優しかった。
だから、そんな母に冷たい態度を取る人たちが許せなかった。お金が無ければ、店というのは何も売ってくれない。同情は金にならない。
ジィネの、お金に対する憎悪はこうして作られていった。
極貧のうちに母が亡くなった時、最後までジィネの将来を気にかけてくれた。娼婦にだけはなるなと言い聞かせて。だったらどうやって生きればいいのかなんて、母は知らなかったから教えてはくれなかったけど。
彼女が異能に目覚めたのは、ちょうどその時。異能という言葉も知らなかった。だから、変な体質だとしか認識していなかったが、それを使って生きていくことはできた。
店の前で突風を吹かせて、店先のものを転がして奪って逃げる。つまりは泥棒だ。娼婦として生きるよりもずっとマシ。
そうやって数年生きていた中で、ジィネが能力を使ったところをガルドに見られた。
ガルドがどういう人物だったのか、ジィネは知らない。どこから来て、海賊になる前は何をしていたのか。彼は自分のことを一切語らなかった。
たぶんこの海賊たちと同類の、ならず者だったんだろう。他より少しだけ頭が回っただけ。
ジィネを見て稼げる方法を思いつき、実行した。
今となってはどうでもいいことだけれど。
ジィネへの陵辱は夜まで続いた。海賊たちが満足した頃には、ジィネは虫の息となり、船の甲板で裸体を投げ出していた。
そんな彼女の耳に、海賊たちが話す声が聞こえた。
「おい。これからどうするよ」
「とりあえず島に戻ろうぜ。軍もしばらく来ねぇだろう」
「それからはどうすんだよ」
「俺たちで海賊をやり直すんだよ。この旗は有名になった。見た奴みんながビビる。黙ってても金を差し出すだろうさ!」
「おお!」
「そうだな!」
「俺たちの時代が来るぞ!」
気の大きな男の言葉に、他の者たちも同意した。
男たちの話し合いで、ジィネはこれからも海賊の慰み者とされることになり、とりあえず小島に置かれた。
いずれ軍が再び攻めてくる。逃れるために、彼らが新しい拠点になる島を見つければ、そこに移動させられるのだろう。
翌朝、新生海賊団となった彼らは、裸のジィネを島に置いて航海に出た。だから、ここから先はジィネが知らないこと。
獲物を探した海賊たちは、コリングから出港したと思われる商船を見つけた。これ幸いと襲撃に入る。
ところで商船側も、海賊の噂は聞いていた。だから臨時で護衛の冒険者を増やして乗せていた。
彼らの中には異能持ちが複数いて、海賊を視認した直後に反撃に入った。
ジィネがいれば勝敗はわからなかった。しかし自分たちの力を過信した愚かな海賊が勝てる相手ではなかった。
ほとんど戦いにすらならず、海賊たちは全員が殺され、海賊船は炎に包まれることとなった。商船はそれを見つつ、商売のために異国へ船を進める。
海賊を討伐したことは、帰国してから報告すればいいだけ。そのためにわざわざ船を戻すことはない。商売には迅速さも求められるのだから。
こうしてジィネ海賊団は、陸にいる者が誰も知らない内に、海の藻屑となった。




