3-18.テナンドウスの目的
公爵家でコリングの街まで視察団に同行するのは、公爵本人と護衛と使用人だけ。他の家族やカルラは連れて行かない。
そんな公爵は王家所有の豪華な馬車に乗せてもらい、テナンドウスの隣でコリングへと向かう。
道中、ふたりは無言の時間が長かった。視察団だと言うのに、テナンドウスは何も切り出さない。こちらの動きを読んでいるように。
また、後ろからも視線を感じた。この馬車の後ろにいるのは、テナンドウスの護衛が乗った馬車。彼には、普段からぴたりと付いて身辺警護をするふたりの護衛がいた。男女で、異能者だという噂だ。
二人乗りの馬車には同乗できないが、何かあればすぐに対処できるように睨みを利かせている。
「……グラドウス殿下のことは残念でした」
結局、沈黙を破ったのは公爵の方。
公爵がヨナを連れて王都を出た時点で、グラドウスの病死は公表されていた。しかしその直前で公爵はカードウス王に別れを告げていたため、公爵領に戻ってからお悔やみの手紙は送ったものの、王族へ直接言うのはこれが初めて。
グラドウスの訃報を聞いた時点で病死ではなくヨナに討たれたとは察していたのだが、もちろんテナンドウスには言わない。
「ああ。ここの所、王都は揺れている」
「そうですな。ヨナウス殿下の死に、魔物の出現。そしてグラドウス殿下まで」
「ヨナウスなど、死んでもどうでも良かった。死んだ方が良かったんだ」
吐き捨てるように言い切ったテナンドウスは、公爵からの咎めるような視線を受けて咳払いをして。
「失礼。いらぬ血が混ざったとはいえ、俺の弟だ。王の血を引く、立派な王族だった。それに公爵の弟子だったな。死んで、思うところが無くはない。だが、気になることが多かったと考えている」
「というと?」
「王都で暴れたドラゴンを、ヨナウスが倒したという噂を知っているか?」
「ええ。聞きました。混乱状態の中で起こった噂話でしょう」
「本当に、ヨナウスが生きていて、ドラゴンを倒すために戦ったのだとしたら?」
「……」
それは事実だ。噂話も、ヨナが生きていることも。
「では、病死されたというのは?」
「わからない。父に聞いてもはぐらかすだけだ。……わからないことだらけだ。兄上の葬儀も、学校にいる弟や妹は呼ばず、ひっそりとした密葬。遺体と対面することすら叶わなかった」
そう語るテナンドウスの顔には困惑と、怒りの感情が入り混じっていて。
「詳しく聞こうとする俺を、父は疎んじた。視察団に行けという名目で厄介払いしたのだろう。明らかに何かを隠している。それが許せない。この俺を除け者にして、何を考えている?」
王家を揺るがす一大事なのに、その中心にいられないこと。それが悔しいという様子だ。そうか。国王カードウスは、ふたりの息子の死の真相を子供たちにも黙っているつもりか。
テナンドウスは、それを許せない人間だ。己が何もかも把握していて、事態の中心にいないと気が済まない人間だ。
だから王になる適性はある。人間としてどうかは別として。
それから、彼の問題といえば。
「もしヨナウスが生きていれば、何か知っているはずだ。兄上の死のことも、王都をドラゴンが襲ったことも。なのに奴は姿を消した。王都にいたのは挑発するためなのか? あいつめ……卑しい血のくせに。馬鹿のくせに」
歯ぎしりする勢いで、ヨナへの恨み言を口にする。
彼はヨナが嫌いだ。馬鹿だからだ。公爵から見れば、幼い頃から歳を考えれば利発な子だったが、テナンドウスはヨナをそうは見なかった。
生まれの違いからくる偏見もあって、ヨナを物を知らない愚か者として見ていた。それが、幼さによる無知だったとしても。
ヨナは公爵の稽古の合間に、テナンドウスについて愚痴を言っていた。彼がまだ理解できない会話を他の家族として、ついていけないヨナへ見下した態度を見せる。ヨナが答えられない質問をして、閉口すると愚か者と吐き捨てる。
これをきっかけにヨナも政治を学び、そして知識を得た。そしてヨナは己が知識を得た後も、この利口な兄を決して許さなかった。
今も許していない。ヨナは隙あらば、この兄を殺そうとする。そして兄の方も弟を探していた。
「殿下。ヨナウス殿下は亡くなったのです。ドラゴンの襲撃の後、見つかってはいないでしょう?」
「隠れているか、どこかに逃げたからだ。父上もそう考えているはずだ。だからドラゴン事件の直後から、城門の検問を強化した。ヨナウスは見つからなかったがな」
「そのようですな。私も、王都を出る時に調べられました」
「なるほど。……ちなみに公爵。ヨナウスが密かに王都から脱出したのだとしたら、行き先に心当たりはあるか?」
「いいえ。全く」
「そうか……実は、俺の方でも独自に調査をしていてな」
「王都のドラゴン事件をですかな?」
「いいや。今回のポロソバル子爵家の背任の件だ」
「ほう。私の報告書だけでは不満と」
「一方の意見を鵜呑みにすることは出来ないというわけだ」
こういう時に、すぐに人をやって調べさせられる。この男は、これだから油断がならない。
「コリングの住民何人かから話を聞いて、目撃証言を集めた。子爵家に踏み込んだという、知り合いの冒険者のことだ。率いていたのは、十二くらいの少年らしい」
「そのようですな」
それがヨナだ。
住民だけではなく、兵士にも何人か聞いているのだろうな。
「ヨナウスと、風貌がよく似ていると思った」
「似たような子供はいくらでもいるでしょう」
「そうだな。風貌以外には、手がかりは見つかっていない。その冒険者の行方は、本当にわからないのか?」
「ええ。旅をしている途中と聞いております」
「……ヨナウスが生きて、王都でドラゴンを殺した後、コリングでさらに汚職貴族を殺した。そうは思わないか?」
「なんのために?」
「それがわからない。ヨナウスが消えて、父は病で死んだと発表した。そしてヨナウスらしき者が暗躍している。では、これは父上の指示なのか? しかしなんのため? わからないのが、腹立たしい」
この男は、視察団の仕事など最初からどうでも良いと考えてるのか。それよりも、見くびっていた弟が、何か大きなことをしているのが許せない。




