3-13.治安を守ろう
とりあえず、治安管理担当の兵士たちの所へと連れて行く。本部には、先日地下水路の調査でお世話になった隊長がいた。
彼を呼んでもらって引き渡す。今は公爵家代理とかの肩書は使えない状態だけど、彼なら僕たちを丁寧に扱ってくれるから。
「お前たちは、毎回何かしらに巻き込まれるな」
「ええ。まあ。偶然、そういうのに出くわすんですよね」
それから海賊騒ぎと、それによる治安の悪化の懸念について伝えた。隊長は深く頷いた。
「この付近の小島を拠点にしている海賊が最近出てきて、船を襲っている。それは当局も把握済だ。討伐計画も立てられている」
なんだ。対処されるんだ。
しかしそう語る隊長の顔は暗くて。
「正確にどの小島を拠点としているのかは、まだ把握できていない。海は広いから、いきなり出てくる奴らを探して回るのも面倒だ。それから、奴の異能だな」
「異能?」
「風を操り波を作り、海を荒れさせるらしい。それを前にどう対処するべきか、上層部が頭を悩ませている」
「異能か……」
昨日の噂好きなおばさんも、そんなことは言ってたな。既に被害を受けた船の数はそれなりになっていて、だから噂になっている。
「異能持ちの海賊というのも、変な話ですよね」
隊長に後のことは任せて施設から出る際、ティナが疑問を口にする。僕も昨日考えていたこと。
「異能を持っているなら、それを使って堂々と生きる方法もあるはずですよ。貴族に雇われることだってあります」
「うん。わざわざ犯罪者になる意味もない」
「貴族に使われる人生よりも、海の男として自由に生きることに憧れる人もいるんじゃない? 海の女かもしれないけれど。それにその海賊、貴族に雇われて支払われる給金よりも多くの額を、海賊行為で儲けてると思うわよ」
「それもそうか」
犯罪をする利点もあるんだな。だから世の中から犯罪は無くならない。
それに、貴族に使われるなんて確かに馬鹿馬鹿しいよね。犯罪者になる気持ちもわかるよ。実際、僕も王家から追われてるという意味では似たようなものだし。
「わたしたちにできることはないの? 海賊を倒すとか」
「アンリはそれが好きだね」
「今のところは、街の兵士に任せるしかないわ。あたしたちは公爵の邪魔にならないように手伝うしかないわ」
「つまり?」
「同じこと。街の治安を守るの」
なるほど。
ここからは二手に別れて街を見回る。さっきみたいな犯罪者を見つけたら捕まえるために。
「というわけで、ふたりきりね、ヨナくん」
「うん。なんでゾーラと一緒なのかな?」
「さっきみたいに、逃げていく相手を捕まえるには遠距離攻撃できる人間が必要。あたしとアンリちゃんね。そしてアンリちゃんは昨日ヨナくんと一緒にデートしてた。だから今度はあたしの番」
「今、自分もデートしたいって言った?」
「ええ。ね、市場の方に行きましょう。何か面白い物が見つかるかも」
「面白い物?」
「魔法を使って作る秘薬の材料になりそうなもの。ヨナくんの成長を止める薬のヒントが見つかるかも」
「それ、僕は作ってほしくないんだけど」
「まあまあ。飲むかどうかは別として、とりあえず作るのはありじゃない? 選択肢を広げるのは大事よ?」
「その選択肢を持ちたくないんだよ」
「いいじゃない。永遠にかわいいままのヨナくん、素敵だと思うわー」
後ろから抱きつくように体をくっつけさせて、ゾーラは僕を押して前に行くよう促した。
首の後ろに触れる柔らかい感触は考えないようにしよう。
――――
商店が立ち並ぶ区画を、アンリはティナと並んで歩く。
二手に分かれると聞いて、ふたりとも自分がヨナと組むのではと、なんとなく思っていた。けれど違ったから、釈然としない思いを抱えていた。
だからふたりとも無言だった。
「えっと。アンリさん。その服、素敵ですね」
沈黙に耐えられず口を開いたのはティナの方で。
「ええ! 昨日、ヨナとデートした時に買ったの!」
「そ、そうですか。デート……羨ましいです」
また、口をつぐんでしまった。
羨ましい、か。
「ティナは、ヨナのこと好きなの?」
「うぇっ!?」
ふと尋ねれば、ティナは慌てた声を上げて。
「そ、そんな。好きなんて滅相もないです! ヨナ様は王族の生まれで、普通ならわたしなんかがお相手できる方ではありません!」
「今のヨナは王族じゃないわ。ただのヨナだけど」
「そうですけど! ……それでもわたしにとっては、尊敬する方です。わたしの使命は、近衛兵としてヨナ様をお守りすることですから」
「結婚とか考えてないんだ」
「けっ!?」
あ、これ本当に考えたことないんだ。したくないからじゃなくて、恐れ多いから。
「そっかそっか。じゃあ、ただのヨナとわたしが結婚するのは、いいの?」
「それはっ! ……それは、ええっと。悪いことではないと思いますけど……」
明らかに、嫌だって思っているな。ヨナが他の女のものになるの、気に入らないって顔してる。
だったら自分の気持ちにも素直になればいいのに。
英雄ジェイザックが最終的に選んだのは、旅の一番最初から一緒にいた女の子なんだから。
好きって認めれば、きっと楽になるのに。
「けれど、わたしの前に、ヨナはシャルロットと結婚しそうなのよね」
「あ。はい。それもありますね。……相応しい相手だと思います。もちろん、ヨナ様のご意思が最優先ですけれど」
シャルロットに関しても、ティナは納得していない。ヨナが拒否することを望んですらいた。
自分以外のものになってほしくないから。
「仕方ない。昔の王様にはよくあったことらしいけど、側室ってことにしてあげますか」
「え?」
「わたしが正室。シャルロットが側室ってことにしましょう!」
「え。そこはシャルロット様が正室でなければいないのでは? 公爵令嬢ですよ? というか、ヨナ様も何の立場で正室と側室を娶る地位になるんですか」
「細かいことはいいのよ! わたしもヨナも将来的に英雄になって、なんか相応しい立場になるから! シャルロットにも負けないくらいにね!」
「えー……」
なんだか不満そうだな。なんでだろう。




