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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第3章 三男

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3-9.海賊行為

「ジィネ様はまだ、力を制御できていません。まだまだ実戦での訓練が必要ですな。大丈夫、狙うのは薄汚い商人たちだけ。物をあちらからこちらへ移動させるだけで金を生む、怠け者たちです」

「ええ。そうね。儲けてはいけない人たち」


 貧しかった頃の屈辱を思い出す。商人という人種は、金の無い者を露骨に見下す。ジィネみたいな薄汚い子供など、存在しないも同然に振る舞う。

 汚れひとつない服で身を包み、綺麗な宝石を揺らして歩き、美味しいものを腹いっぱい食べる、金持ちの商人。彼らがやっている事は、安く買った物を、場所を移すだけで高値で売ること。


 農家や職人とは違う。ただ動かすだけで金を作る虚業。それが商人の正体だと、ある日男が話しかけて教えてくれた。


 それがガルドとの出会いだった。


 ガルドは言った。ジィネは伝説の海賊、ジーグンドの子孫だと。その身に備わった異能こそがその証拠らしい。

 詳しいことはわからないけれど、ガルドの先祖はジーグンドに仕えていたらしい。だからこの出会いは運命。


 だからふたりで船を盗み、商人たちを襲って金を手に入れ、仲間を雇って海賊団を大きくしていった。ジィネ海賊団の名前は知られ始め、皆彼女たちを恐れ始めているらしい。


 今回も、これまでと同じことをする。汚い商人から金を奪う。これは正義の行い。英雄的行為なんだ。

 さすがに、殺すのはやり過ぎだとも考えているけれど。


「ジィネ様、見えてきましたよ」

「ええ。やりましょう」

「全員! 衝撃に備えろ!」


 ガルドの号令に船員たちが動く。ジィネは目を閉じて集中する。


 直後、船の帆が大きく膨らんだ。ジィネが作った風が海賊船を押して、目標まで一直線に進めていく。

 向こうの船もすでにこちらに気づいているのだろう。それが海賊船だと把握しているのかも。慌てて逃げていく様子が肉眼でも確認できる。


 ジィネは追い風を吹かせ続けたまま、相手の船の回りにも風を吹かせる。向かい風にしたり、海面に風を吹かせて波を起こし逃げるのを邪魔した。


 想像できる範囲なら、風の方向や強弱は同時にいくつも吹かせることができる。と言っても、片手で数えられる数以上の風は、ジィネには難しかった。異能というものの限界らしい。

 それでもこちらと向こうの船を自在に操ることは簡単だった。


 海賊船の舳先には、一本の棒が飛び出ている。それは金属の板で覆われていて、さながら角のようだった。

 用途としては槍が近いのだけれど。こちらと同じくらいか、大きい船に大きな損傷を与える一本の槍だ。


 それが、狙う商船の縁を大きく砕いた。直後に船体同士も衝突。風の勢いがあって衝撃は大きく、向こうの船員たちのほとんどは派手に転んだ。

 船体も無事では済まない。こちらは鉄で補強をしているから、被害はない。しかし向こうはそうはいかない。傷ついた船を、彼らは唖然と見ていた。


「乗り込め! 全部略奪しろ!」

「おう!」


 ガルドの号令に海賊たちが応じる。

 それぞれ剣を手にして商船に乗り込む彼らを見ながら、ジィネも声をかけた。


「あの! がんばって! けど人は殺さないで!」


 その指示が完全に果たされるわけがないことは、ジィネ自身がよくわかっていた。

 戦いは真剣なものだから。


 不意打ちを食らった船員たちの中は、逃げ場のない海上で手を上げて投降する者も多かった。海賊たちは彼らを縛り上げて、命まで取ろうとはしなかった。しかし抵抗する者に関しては容赦がない。


 船が雇っている護衛や、臨時で雇ったと思われる冒険者たちは抵抗してくる。

 最初の一撃で体勢がよろけた分、不利ではあった。だから海賊たちに討ち取られた者もいた。剣で体を切り裂かれ、そのまま蹴られて海に落ちる者が数名。海面が少しだけ赤くなった。


「っ……!」


 その光景に、ジィネは思わず目を背けた。


 人が死ぬのは嫌だ。たとえ、向こうが抵抗するのに理由があるのだとしても、そんなもの見たくもない。


 意地汚い商人なんだから、海賊に狙われた時点で大人しくなればいいのに。せめてそれくらいの潔さがあってほしい。

 悪いのは、そっちなんだから。


「ジィネ様。援護を」

「え、ええ。わかっているわ」


 それでも、海賊たちは仲間だ。悪徳商人たちに正義の鉄槌を下してくれる偉大なる者たち。ジーグンドのような英雄の配下。だから守らないと。英雄の子孫たる、このジィネが。


 敵の冒険者がひとり、大きな斧をぶん回していた。近づけば傷つきそうで、海賊たちは手が出せないでいる。

 そんな冒険者に向けて風を吹かせる。真上から吹き下ろすような、普通ではありえない下向きの風を当てられた冒険者は、大きくよろめいた。斧の刃が風に煽られて、甲板に叩きつけられる。


 その隙に海賊たちが斬りかかり、殺す。死体がひとつ増えた。


「……」


 その様子をジィネはしっかり見ていた。自分が殺したも同然の相手。斧を握ったままの死体は、虚ろな目をこちらに向けていた。

 死してなお、こちらになにか言いたがっているように見えた。


「じ、自業自得よ。商人なんかの味方をするから、こうなるの」

「ええ。その通りですよジィネ様。商人は皆悪人。許されてはいけません」

「ええ。でも、人が死ぬのは……」

「向こうが抵抗するからです。かの英雄ジーグンドも、歯向かう相手は容赦なく血祭りに上げていたと言うではありませんか」

「そ、そうね。その通り……」


 震える声で、自分は正しいと自分に言い聞かせる。


 戦闘はあっさり終わった。甲板には縛られた船員と、いくつかの死体が転がっている。

 船に積まれていた金品は、見つかる限りすべて海賊船に移した。


「帰りましょう! わたしたちは今日も、正義を果たすことができました!」


 ジィネの号令で、海賊たちは己の船に戻っていく。その際、彼らは無抵抗の船員たちを小突いたり足蹴にしたりしていた。


「あ……」


 それを窘める暇もなく、彼らは船に戻った。傷ついた商船から海賊船を分離させて、離れていく。

 商船は船体が歪みでもしたのか、傾いていた。波がないから沈むことはないだろう。船員たちが自力で縄を解いて船を動かすまで、海が凪のままであればいいのだけれど。


 とにかく、これで彼らもわかっただろう。商人なんかやめてしまえばいいと。地道に汗水垂らして働いて生きるようになればいい。


 商人たちの恨みがましい視線を感じながら、ジィネはそれに背を向けた。

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