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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第3章 三男

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3-8.ジィネ

 ジーグンドは二百年ほど前に活躍したとされる海賊。


 元は王都に住む裕福な商人の長男として生まれた。しかし彼は金持ちの息子ゆえの傲慢さが度を過ぎていた。街に出ては悪い友人を作り、悪事に身を染めた。

 父が彼を見限り、後継者として弟を選ぶのに時間はかからなかった。


 その選択は正しく、また間違っていた。父の意向を知った直後に、ジーグンドは父と弟を殺して、財産を抱えて逐電した。


 数年後、このコリングの街の近海にて、彼が率いる海賊団の姿が目撃された。

 船は一隻。船員は二十人あまり。ジーグンドは悪人を引きつける危険な魅力に溢れた人物だったらしく、団結力は高かった。


 最初は歴史上の多くの海賊と同じように、目についた襲えそうな船を攻撃して、略奪した。船員たちも容赦なく殺したらしい。髑髏に剣が刺さったシンボルを掲げた彼の船を、船乗りたちは大いに恐れた。


 しかし、やがて事情が変わった。このライディアル王国と海を挟んだ向こうにある国の間で戦争が起こると、ジーグンドはすぐさまそれに適応した。

 敵国の近海にまで乗り込んで、向こうの船を襲う。やることは同じ、略奪と殺戮だ。


 しかし敵国の物資を奪って人を殺せば、戦時中ならばそれは英雄的行為だ。アウトローな雰囲気もあってらジーグンドは一躍庶民の英雄となり、その噂は王族にまで伝わった。

 王から表彰を受け、国家に承認された海賊となったジーグンドは、さらに略奪を重ね、そしてある日死んだ。彼を脅威と見なした向こうの国が、船を攻撃して沈めたからだ。


 海の藻屑となった英雄に国民は悲しんだが、やがてそれも過去となり、今では歴史上の人物として扱われる。戦争をしていた国とも和平が成立して、今は国交も回復。このライディアル王国の主要交易相手の国となっている。


 当然、その交易船を襲うのは犯罪行為で、海賊は国家の敵だ。ジーグンドの行為は今では許されない。


 ところで、ジーグンドにはいくつかの伝説が残されている。

 異能が使えたとか、船員として魔物を従えていたとか、地図にない島を拠点にしていたとか、流浪時代には冒険の末に伝説の武器を手に入れていたとか。

 女海賊との間に子をなしたとか。


 それらはほとんど、噂好きの民衆が話している間に作られた虚像に過ぎないとされている。一方で、伝説を否定する証拠もないために、熱心に信じる者もいる。

 英雄の宿命とは、そういうものだろう。



 そして海には、今も伝説を信じている者たちがいる。



――――



 コリング港の沖合いに、一隻の船が浮かんでいた。

 波は穏やかで、陽の光を浴びた海面がキラキラ光っている。空も雲一つ見当たらない快晴。


 見晴らしの良い天気だけれど、船からは陸地は見えない、それほど沖合に来ているわけで、海上警備を担当する治安管理兵たちも、ここまでは来ない。

 つまり、海賊たちの狩場というわけだ。


 船はマストが二本ついている帆船。船体の縁を、所々金属で補強してあり、頑丈そうな見た目だ。一方でサイズはさほど大きくはない。

 異国からの貴重な物品や金目のものをたっぷり積み込んでいる商船とくらべて小型だが、小回りは効くし速度も出やすい。海賊にはこういう船こそ都合がいい。


 船には、剣に貫かれた髑髏の旗が風を受けてはためいていた。船の帆もしっかり膨らんでいる。


 現状、平和な航海だ。


 荒れ模様とは無縁そうな様子の海を見つめる者がひとり。周りの船員と比べれば、小綺麗な格好をしているのが、この海賊船の船長。

 しかし海賊としては、かなり風変わりではあった。


 船長は、二十にもなっていない小娘。服装が綺麗だから、より可憐な姿に見える。長い髪が、船の動きに合わせて揺れていて、女であることを隠しもしない。

 船で働く他の海賊たちは男ばかりで、彼女の存在が場違いだという印象を強くしている。彼女自身も自覚があるようで、少し居心地悪そうだった。


 そんな彼女に話しかける者がひとり。こちらは海賊にふさわしい、屈強な体つきの男。


「ジィネ様、獲物になりそうな商船を見つけました」

「どんな船なの、ガルド?」


 ジィネと呼ばれた船長の少女と、ガルドという海賊の副官。ふたりは揃って獲物の方を見る。

 水平線の上にある小さな点。向こうはまだ、こちらに気づいていないだろう。


「国旗から判断するに、異国の船ですな。さほど大きくはありません。我々のと変わらないでしょう。容易く制圧できますよ。ジィネ様の力があればね」

「容易く、ね。前のようなことは繰り返したくないわ。汚い手段で金を儲ける商人から、金品を奪うだけ。船そのものや命を奪うようなことはしないと、約束したじゃない。それがジィネ海賊団のやり方だって」

「ええ。その通りですとも。しかしあの船が転覆したのは、ジィネ様がりきみ過ぎたから。異能の調整がうまくいっていれば、彼らは無事でした」

「ええ……そうね」


 先日、異国の国旗を掲げた商船を襲ったのは失敗だった。


 その船の抵抗は必死だった。船主の男は決して荷を奪われまいと、部下を鼓舞して戦わせた。

 ジィネは味方の援護をするために、風を海に吹かせて波をうねらせ船を揺らした。向こうの船員に、こちらはそれだけ強い力を持っているとわからせるために。


 いつもはそれで、相手は諦めた。けれど今回は違ったし、ジィネもやりすぎた。


 人員を残して船の制御をしていた海賊船とは違い、乗り込まれて必死に抵抗していた船はついに転覆。

 海賊たちは自分の船に戻り、少しではあるが奪った物品を数える暇があった。その間に、商船は沈没した。


 船員たちが溺れているのを、ジィネは見ることしかできなかった。船は彼らを見捨てて離れていったから、安否は知らない。


 なんとか助かって、真っ当に生きていると信じたかった。

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