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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第3章 三男

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3-6.アンリの買い物

 元幽霊屋敷だった物件は、立地は申し分ないもののパン屋として開店するにはかなりの改装が必要。それがティナの両親が口にした感想。ティナが言ってたことと全く同じだった。

 あらかじめわかっていたことだし、改装費用は公爵家が出してくれるという約束もしている。というわけで、早速作業に入ることに。


 パン窯を発注して、カウンターの位置を移動させて、内装を作り替えて。同時に二階の住居部分も生活できるように家具や日用品を揃えなければいけない。


 それから、この街で売れる商品の開発もしないと。

 ティナが先日、僕やシャルロットと一緒に行った市場に、家族を案内すると言った。


 僕も同行しようかと思ったけれど。


「ヨナ! 今日はわたしとデートしましょう!」


 アンリに止められた。


「デート?」

「この前はティナと一緒に行ったのよね! わたしも行きたい!」

「あれはデートじゃなくて」

「とにかく行きましょう!」

「えー」


 店舗内で掃除をしているキアたちに目を向けた。


「いいんじゃないか? 気晴らしは必要だろ」

「そうね。行ってきなさい」


 成人組ふたりに背中を押されてしまった。気晴らしってなにさ。


「そういうこと! さあ行きましょう!」

「うん。わかった」


 ふたり並んで、大通りを歩く。

 活気がある町並みにいると、自然とこちらの気分も良くなってきたのは事実だ。


 公爵領に来る兄を忘れたわけじゃないけれど、今はアンリに付き合ってあげよう。


「どこか行きたい所ある?」

「もふもふの餌になる草と、そこに混ぜる豆とか買いに行きたいわ!」

「そっかー」


 デートっぽい買い物ではない気がする。


「でもその前に、色々見て回りたいの! 港町って面白そう!」

「うん。それはたしかに」

「あの服屋さん面白そう! 行ってみましょう!」


 どこかの異国の民族衣装を扱っているらしいお店に突撃するアンリ。


 この国の人間とは少し印象が異なる風貌の、外国人と思しき初老の女の店員に話しかけて、少し会話して。


「へえー。おばさんの国では、こういう刺繍が伝統的なのね! わたしにもできるかしら。あ、着てみていい? ありがとう!」


 一瞬で距離を詰めていた。すごいなあ。


 陳列されている服には、確かに色とりどりの刺繍が施されていた。よく見れば花の柄だ。

 店員さんによれば、季節ごとの花を服にあしらうことが、彼女の祖国の文化とのこと。この刺繍をいかにうまくできるかが、良いお嫁さんになれる条件とのこと。


「ヨナ! 見て! 似合ってるかしら?」


 一度店の奥に引っ込んでいたアンリが出てきた。

 花柄の刺繍があしらわれた短めのスカートと、やはり刺繍がついているベストを身に着けている。


 異国の伝統衣装に見を包んだアンリは上機嫌そうに、その場でくるりと一回転。スカートがふわりと広がった。


「うん。きれいだよ」

「やった! おばさん、これ買うわ!」

「いいの?」

「友達になったんだもの! いいでしょ! あ、おばさん。今度そこの幽霊屋敷だった所、パン屋さんになるのよ! もう幽霊は出ないから安心して買いに来てね!」


 と、圧倒的なコミュニケーション力を見せつけ、パン屋の宣伝もする。すごいなあ。


 異国の綺麗な服を着て上機嫌なアンリと、その後もいろんなお店を回った。


「へえー。これ、あなたの国の神様なのね!」

「こんな野菜見たことないわ! あなたの国でしか取れないの?」

「この置物の動物はなに? こんな動物が、あなたの国にはいる!? すごい!」


 みたいな感じで、港町の人たちとどんどん友達になっていった。


 興味が出たものは買うこともあって、自然と僕が荷物持ちの立場になった。


「面白い街ね、ここ。住んでる人もみんないい人だし!」

「そうだね。アンリの人柄もあると思うけれど」

「ふふっ。パン屋さんのこと、大勢が知ってくれたみたいだし。きっと繁盛するわ!」

「アンリの友達だから来るって客も多いかも」


 アンリ自身はパン屋さんで働くわけじゃないから、関係性としては微妙かもしれないけれど、それでも店の名前は広く伝わった。その手柄は間違いない。

 さっき買った民族衣装のまま、僕の前をスキップしながら歩くアンリ。次はどこへ行こうかと周りを見回していると。


 突然、悲鳴が聞こえた。


「待って! 泥棒! 誰か捕まえて!」


 若い女の必死な声。見れば、男が何かを抱えて走っていた。あっという間に僕たちの横を通り抜け、遠ざかっていく。

 ひったくりかな。


「よーし。わたしに任せて!」


 伝説の弓使いに憧れるアンリは、背負っている弓に矢をつがえて狙いを定めた。どんどん遠ざかっていく背中だけど、アンリは全く焦らない。


「とりゃー!」


 放った矢は男の背中に刺さった。致命傷にはならないけれど、痛みは相応にあったはず。


 悲鳴が聞こえて男は倒れて、周りにいた人たちが彼を取り押さえた。


 男はなおも暴れている。随分と必死だなあ。アンリは次の矢をつがえて狙いながら歩み寄っている。男の周りに人がいるために射ることはできない。誤射はまずいものね。

 その代わり、近くに行って今も狙っていると見せつけることで戦意を喪失させる方針にしたらしい。


「おじさん! じゃなくてお兄さんかな!? とにかく! そういうのは良くないわ! アンリーシャの名のもとにひれ伏しなさい!」


 子供の言うことだから、アンリの言葉には迫力なんかなかった。けれど男はアンリの姿を見て。


「あ、ああ……。なんてことを……」


 涙を流してうなだれた。


 なんでだろう。

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