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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第3章 三男

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3-3.英雄じゃない

 城の裏庭にある庭園に、高価な椅子とテーブルが置かれていた。そこにゾーラとティナ、そしてシャロンが座る。メイドがカップに紅茶を注いだ。


「い、いただきます。熱っ!? し、失礼しました。あの。こういうのって上流社会の中では作法があったりとか」


 ガチガチに緊張しているティナが、まだ熱いお茶を前にぎこちない動きをしている。


 繁盛しているパン屋の娘は、どこまで行っても庶民だ。こういう場には慣れないもの。ゾーラも人のことは言えないけれど。


「いいのよ。リラックスして、お茶とお菓子を味わえばいいの。作法なんて気にしないでいいわ」

「ありがとうございます……」

「紅茶の他にパンも用意したわ。こういうの、お口に合うかしら」

「ナーズルのパンですか?」

「ええ。この街でお店を開いている有名店。お城にもパンを卸してくれているの」


 シンプルな形のパンを、ティナはひとつ手に取って齧る。


「おいしいです。なかなか良い腕をしていますね」


 さすがに、自分の所のパンの方が美味しいとは言わなかった。


「お口に合うようで良かったわ。さ、ゾーラさんもどうぞ」

「いただきます」


 ふたりの会話を見ながら紅茶を飲んでいたゾーラも、この街のパンを貰った。

 正直、村の満足ではない設備で焼いたティナのパンの方が美味しいな。あの港町でティナの家族が店を開けば、繁盛間違いなしだ。


 しばらくお茶を味わったところで、シャロンは唐突に切り出した。


「ヨナ様とシャルロットの婚約について、話は聞いていますか?」


 これが本題。


「は、はい。聞いています。まだ婚約確定というわけではなく、考えさせてくれとヨナ様は答えたそうですけれど」

「ええ。そのようね。けれどヨナ様は、かなり前向きだっと聞いています。公爵とシャルロットはそう言っていたわ」

「まあ、それは、そうらしい、ですねー」


 どう答えればいいのかなんて、ティナにはわかるはずもない。カップを持ちながら目を泳がせる。


 仕方ない。助け舟を出そう。そのために自分はいるのだから。


「ヨナくんは、実際かなり驚いているみたいよ。もちろん公爵の誘いは魅力的だし、わたし個人としては受けるべきだと思う。けど流浪の身になった自分には、身の丈に合わない話だと思っているかも」


 復讐のことは伏せて、そう牽制した。シャロンは何度か頷いて。


「ええ。その言い分はもっとも。今の彼は、ただのヨナ。しかし彼は街の危機を救い、子爵の家に囚われていたシャルロットを救った。そう捉えることはできない?」

「……見方によってはそうでしょうね」

「彼の子孫、ジェイザックの頃の伝説では、仲間の英雄たちの活躍も語られている。魔物たちの王に囚われた姫を救い出した男が、その姫と結ばれて王になったという伝説は聞いたことはある?」


 アンリが好きそうな話だな。ジェイザックではなく、その仲間の男の話に、彼女がどれだけ興味を持つかは知らないけど。

 そういう物語もあるのは事実だ。けど。


「伝説は伝説よ。それに、ヨナくんがシャルロット嬢と結ばれたとしても、公爵の地位を継ぐことはない。次の次の公爵は、シャルロットの兄でしょう?」

「ええ。しかし婚約自体はロマンチックな伝説になぞらえて、やってみるのもおもしろい。シャルロットは乗り気だしね。そして、ヨナ様は公爵にはなれずとも、家を守る英雄になれる」

「なるほどね」


 シャロンは、ヨナ本人が婚約に乗り気ではないことを察していた。だから仲間から説得していくつもりだったのか。

 ティナを指名したのはなぜだろう。説得すれば納得させやすいと考えたのかな。それか、ヨナが一番懐いてると見たか。その推察は正しい。


 しかし、当のティナは。


「あの。ヨナ様は、ジェイザックに自分を重ねることを、そんなに好きではないと思います」


 説得に応じる人間ではなかった。少なくも、ヨナに関することでは。


「アンリさんと話して、ごっこ遊びするくらいなら良いでしょう。彼女が自分をアンリーシャに重ねることは許しています。しかしヨナ様は、ジェイザックと自分を重ねようとはしない」

「それは、なぜ?」

「父とも重なるからです」

「……そう」


 父、国王カードウスも、建国の英雄ジェイザックの子孫。血縁を理由に自分を英雄になぞらえるなら、己を虐げた父も同じく英雄の血を引いていて、英雄になぞらえるべき。

 そしてヨナは父を嫌っている。英雄視などありえない。

 自分は自分、父は父と割り切ることが出来れば良いし、実際ヨナはそうしている。


 だから彼は、英雄は英雄と割り切ってもいる。だから同一視はしない。


「なのでシャロン様。今の言葉、ヨナ様には絶対に伝えないでください。傷つきますので」


 ヨナに関しては誰よりも真剣になれる近衛兵は、シャロンをじっと見つめながら言い切った。


 一方、公爵家に嫁入りした女も、それを平然と受け止める。指を動かし、メイドにお茶のおかわりを指示してから。


「なるほど。よくわかりました。気分を害してしまったなら、ごめんなさい。けれど良かったわ。ヨナ様に一番近い人としてティナさんを選んで話を聞こうと思ったのだけど、正解だった。彼は幸せ者ね。こんなにしっかりと自分のことを考えてくれる仲間がいて」

「いえ。わたしが幸せなんですよ」


 ふたり、相貌を崩して笑みを見せた。


「彼を公爵家に入れるのは、簡単ではなさそうね」

「ヨナ様がどんな選択をするかは、彼自身が決めることですので。わたしは、見守り寄り添うだけです」

「そう。……ヨナ様が婿入りするのを躊躇う理由、他にはなにかあるかしら」

「さあ。わたしにはなんとも」

「先日、知らせが来ました。第一王子グラドウス殿下の葬儀がしめやかに行われたと」

「……」


 復讐というヨナの目的を、シャロンは把握している。公爵から伝えられているのは間違いない。


「次期王様の葬儀としては寂しいものだったらしいわ。各地から貴族を呼び寄せて行う華々しい国葬などではなく、城の中でひっそりと行われて、無事に弔われたという知らせが周りに届くだけ。参列者も家族だけ。それも全員ではない。学園内にいるきょうだいは呼ばれていない」

「そうですか」


 ティナも、今度は反応に困っているようだった。

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