実行
深夜のコンビニは来店数が少ない分楽だけれど、とにかく眠い。
慣れるだろうと思って始めたけれど、一向に身体が順応しない。
バックヤードで眠気と戦っていると、来店を知らせるチャイムが鳴った。
「いらっしゃいませー」
こんな時間に誰だよ。めんどくせえな。
そんなことを思いながらレジの前に立つ。
「金を出せ!」
「あ、いや、その、あの、ごめんなさい……」
何かのパフォーマンスなのか、あやつり人形をレジ台に乗せて言った。
顔をハンカチとサングラスで隠しているけれど、声からして男だ。
「早く金を出せって言ってんだろ!」
男が同じ服を着たあやつり人形を動かしながら言う。
「だ、だめだよ、そんなこと!」
後ろのあやつっている男が止めている。
「なんすか? 警察呼びますよ?」
大道芸なら外でやってくれ。それにコンビニ強盗の遊びだなんて洒落にならない。
「てめぇ、舐めた口きいてんじゃねぇぞ!」
上手いとは思う。たしかに人形は怒っているように見える。
「マリオ、だめだって!」
あやつり人形師が言う。
この人形マリオって名前なんだ。なんでもいいけど。
「マジでいい加減にしてください。警察呼びます」
もう俺も我慢ならない。
だからと言って、こんなやつ相手にしたらどうなるかわからない。
これは警察を呼んだ方が得策だ。
防犯用のマニュアルを覚えておいてよかった。
「力ずくでも奪ってやるよ」
マリオ人形はいつの間にか左手にナイフを持っていた。
そしてそれを俺の方に突き刺してきた。
人形に何ができるって――。
「え……」
俺の胸にナイフが刺さっていた。いや、これは包丁か?
何でもいいけど、俺を刺しやがった。
人形が頭を振って笑っている。
「あ、その、ご、ごめんなさい」
「それじゃあ相棒、金持ってトンずらするぞ」
俺はその場に倒れた。
痛い。
熱い。
苦しい。
とにかく不快だ。
「ど、どうやってあけるのかな?」
「そこのボタンだろう」
あやつり人形と話をしながらレジを開けて現金を鞄に入れている。
「次は奥だ」
「ちょっと、まってよ、マリオ!」
まるで本当に意思を持って動いているようだ。
死ぬのかな俺。
「よし、このくらいでいいだろう」
「こんなにもっていったら重いよう」
「情けない。それくらい持ちやがれ!」
「わ、わかったよう……」
そう言ってバックヤードからあやつり人形の強盗が出てきた。
「さあて、逃げるぞ!」
「ど、どこへ?」
「そんなもの、二人の明るい未来に決まってるだろ」
マリオと名付けられた人形が笑っている。
「あ、あとで、救急車呼んでおきますから」
あやつり人形師が最後にそう言ってあやつり人形の後を追うように出ていった。