好きだろう?
騎士科B班おすすめのレストランは、噂通りだった。
いや、噂以上だった。
料理が運ばれてきた瞬間、治癒魔術科B班の時間が止まる。
「……え?」
「これ……一人前?」
「いや、三人前じゃない?」
大皿にどん、と乗った料理。
魚は丸々一尾、揚げ物は山。
付け合わせも遠慮を知らない。
治癒B班「やばい!やばい!」
「どうしよう、私けっこう頼んじゃった!」
「食べ切れるかな……」
騎士科B班が、きょとんとした顔で皿を見る。
「え?余ったら俺ら食べていい?」
「むしろ足りないかも」
治癒B班は無言で騎士科B班の身体を見た。
肩幅。
胸板。
太腿。
「……どこに入るの?」
「ブラックホール持ち?」
ぶはっ。
誰かが吹き出して、飲み物を零した。
一気に店内が騒がしくなる。
笑って、突っ込んで、皿を回して。
いつものB班の空気。
その中で、スタッフが魚料理を運んできた。
エルンストが静かに手を挙げる。
受け取った皿を、慣れた手つきで切り分けて――
何も言わず、自然に、私の前へ。
私は瞬きした。
「……これ、エルンのだよね?」
エルンストがこちらを見る。
穏やかで、揺れていない目。
「好きだろう?」
その一言が、胸の奥にすとんと落ちた。
「あ……私の好み……」
気づいたら、頬が緩んでいた。
「ありがとう!」
笑顔で言うと、
エルンストは目を細めて、ほんの少しだけ口角を上げた。
その表情を見た瞬間、
胸の奥に溜まっていた不安が、すっと引いていく。
――ああ。
この人だ。
私を見て、私の好みを覚えて、
当たり前みたいに差し出してくれる。
今日は、ちゃんと“いつものエルン”がいる。
食事の後も、買い出しは順調だった。
酔い止め、栄養剤、保存食。
あれこれ相談して、笑って、走って。
気づけば、空は夕焼け色。
寮の前で、
「じゃあ、また明日なー!」
「生きて会おうなー!」
わいわいと解散していくB班。
その流れの中で、
エルンストが、私を呼び止めた。
「少し……話がしたい」
「うん。私も……」
向かったのは、あのベンチ。
何度も座った、二人だけの場所。
「久しぶりだね、ここ」
「……ああ」
並んで座ると、
エルンストの指が伸びてきた。
髪に触れて、
耳の輪郭をなぞり、
頬へ。
そして――唇。
指に、そっと圧がかかる。
息が止まる。
その指を、エルンストは自分の唇へ当てた。
視線が絡む。
逃げ場がない。
熱が、顔に集まっていく。
「……エルンだ」
「ああ。俺だ」
その言葉だけで、
胸の奥が、きゅっと締め付けられた。
「……最近、エルンストじゃなかった」
ぽつりと漏らすと、
エルンストは静かに息を吐いた。
「寂しかった」
そう言って、
私の手を取り、そのまま自分の頬へ。
温かい。
触れているのに、確かめ合っているみたいだった。
自然と、二人で笑っていた。
遠くに行っていた人が、
ちゃんと帰ってきたみたいな、そんな感覚。
それから、たくさん話した。
騎士科の寮のこと。
増えた特訓のこと。
どうでもいいこと。
時間は、あっという間に過ぎる。
別れ際。
エルンストが、懐から小さな箱を出した。
「……アイナのことを考えて選んだ」
心臓が跳ねる。
「エルンから……初めてのプレゼント……」
震える手で、箱を開ける。
淡い青色。
小さく、静かに光るピアス。
「つけても?」
頷くと、
エルンストはとても丁寧に、耳元へ手を伸ばした。
冷たい感触のあと、
ふわりと、温もり。
胸がいっぱいになる。
守られている、というより。
大切にされている、という感覚。
幸せだった。
少なくとも、この瞬間は。




