ガチムチ❤️にんぎょひめ
第四話は人魚姫。
パロディ昔話では初手から最強でしたので、少しテイストを変えてあります。
筋肉は減りません。
どうぞお楽しみください。
昔々ある海の底に、人魚の姫が住んでいました。
ある日嵐の夜に海の上に上がってみたところ、大きな船が大波に揉まれているのが見えました。
するとその船から落ちる人影。
「大変! 助けなきゃ!」
しかし人魚姫がたどり着く前に、
「はぁーっ!」
大きな人影が海に飛び込みました。
そして、
「たぁーっ!」
落ちた人を抱えると、荒れ狂う海面を蹴って船へと戻りました。
「何今の……。人間……?」
目を疑う人魚姫の耳に、嵐を突き抜けて声が聞こえます。
「安心しろ! たとえどんなに天が荒れようと、王子であるこの私が、いや私の筋肉が! お前達を死なせはしない!」
「!」
その言葉に胸打たれた人魚姫は、急いで海の底の魔女の元に向かいました。
「魔女さん魔女さん!」
「何だい人魚姫。お前さんがその目をしてる時は碌な事がないんだけど……」
「私、筋肉を鍛えたいの!」
「は?」
人魚姫は今嵐の海で見てきた事を魔女に話しました。
魔女は大きく溜息を吐きました。
「……あぁ、それはガッチ王子だろうね。ムチン王国の第一王子で、百年に一度の筋肉を持つという傑物さ」
「うん! すごい素敵だった!」
「だったら人間になって会いにいきたいとかじゃないのかい? 何でまた筋肉なんか……」
「だって素敵だったんですもん! 海を蹴ってばーんって船に戻って!」
「それ人間?」
魔女は説得を試みましたが、何を言っても聞こうとしない人魚姫にとうとう折れ、お口で溶けて海では溶けないプロテインと、トレーニング方法を教えました。
「ありがとう魔女さん! 私頑張る!」
「早いところ新しいものに興味を移す事を祈ってるよ」
しかし魔女の願いも虚しく、人魚姫はトレーニングを続け、むきむきと成長しました。
しかも筋肉の才能にも恵まれ、人魚姫の身体は素晴らしい仕上がりを見せました。
「魔女さん」
「だ、誰だい!?」
「人魚姫よ」
「そんな! 声まで変わって!」
野太くなった人魚姫の声に、魔女は驚愕しました。
「これから王子様に会いに行くわ。スクワットのお陰で尾びれは足に変化したし、呼吸法トレーニングのお陰で陸上でも呼吸できるようになったから」
「……」
魔女は頭の中で「そうはならんやろ!」「なっとるやろがい!」と一人ボケツッコミをして冷静さを取り戻すと、おずおずと人魚姫に告げました。
「あ、あのね人魚姫……。一般的な人間の男は、そんなガチムチの女より、以前のお前さんのような女らしい体つきが好きなものなんだよ……」
「そんな……! じゃあ私の今の姿は王子様には好かれないかもしれないの!?」
「そうなんだ……。お前さんがここまで仕上げてくるとは思わず、強く止めなくて悪かった……」
「そんな……。でももしかしたらこういうのが好きっていう可能性もあるのよね!?」
「う、うーん……。かなり分の悪い賭けだけど、なくはない……?」
すると人魚姫は力強く海面を見上げました。
「なら行くわ! フラれたら今までの努力は水泡に帰すけど……」
「そうなったらすぐ海に戻っておいで。何としてでも元の身体に戻る薬を作ってみせるから!」
「ありがとう魔女さん!」
「後できるだけ喋らないようにね! その野太い声は、かなりの減点になるだろうから!」
「押忍!」
「それが一番駄目!」
こうして人魚姫は海底を蹴って、矢のように水面へと飛び出しました。
上空から辺りを見回した人魚姫は、近くに船を発見しました。
「あの船に聞いてみましょう。王子様、有名人みたいだし」
人魚姫はその足が水面につく瞬間に素早く蹴りを繰り出し、船に向かって駆け出します。
その時に舞い上がった激しい水飛沫に、船の乗組員が悲鳴を上げます。
「た、大変です! 何か凄まじい力を持ったものが、こちらに近付いてきます!」
「……凄まじい力、か。楽しみだ」
報告を受けた大きな人影が、むくりと身体を起こします。
何とも都合の良い事に、その筋骨隆々の人影はガッチ王子その人でした。
「あれか……」
人魚姫が蹴立てて来る水飛沫を認めると、王子は海面へと飛び降り、
「ふっ!」
水面を駆け出しました。
「あ! あのお姿は!」
向かって来る王子を目にした人魚姫は、その胸に飛び込まんと一気に跳躍しました。
「む! 突撃!? いや、殺気がない……!? む!? 女性!?」
戸惑いながら王子は人魚姫を抱き止めました。
スマートにお姫様抱っこの姿勢に移行すると、ダイラタンシー実験のように高速で足踏みをして水面に立ち続けます。
「君は、一体……?」
「……」
出会えた嬉しさ、お姫様抱っこの恥ずかしさ、何より魔女のアドバイスのため、人魚姫は声を出せません。
「素晴らしい筋肉だ……! 惚れ惚れする……! どんな食事を? トレーニングはどんなものを?」
「……!」
自分の努力を認められたようで、人魚姫は今にも口を開いてしまいそうになります。
それでも(声を聞かれたら嫌われてしまうかも……!)と必死で口をつぐみます。
「……もしかして喋れないのかな……?」
「……! ……!」
王子が落胆しているのを見て、人魚姫は焦りました。
何とか思いを伝えようと、必死に考えを巡らせます。
「!」
何かを思いついた人魚姫は、王子の胸を指で押します。
「何だい? 僕の大胸筋がどうかしたかい?」
「! !」
うんうんと頷くと、次に首周りを撫でます。
「咽頭筋群何か気になるのかい?」
「! !」
人魚姫は続けて額の辺りを指で触ります。
「皺眉筋はあまり鍛えていないんだけど……」
「! !」
大きく頷くと、最後に頬に触れました。
「そこは頬筋……。わからないな。僕の筋肉の発達を知りたいなら、上腕二頭筋とか大腿筋を触りたがるはず……」
「……!」
人魚姫は意味が伝わるよう、必死で祈ります。
すると、
「待てよ……。大胸筋、咽頭筋群、皺眉筋、頬筋……。頭文字を取ると、『だいすき』……!?」
「!」
祈りは天に通じました。
「こんなに筋肉愛のある告白は初めてだ……! 結婚してください……!」
「……!」
かくして人魚姫と王子は結婚する事になりました。
なお声は、
「ハスキーで素敵!」
「嬉しい!」
と何の問題もありませんでしたとさ。
がちむちがちむち。
読了ありがとうございます。
折角なのでガチムチを二倍にしてみました。
何故か? わかりません。
最後は白雪姫で締めたいと思います。
よろしくお願いいたします。




