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エンドレスフロンティア  作者: 紫音
二章 過去と悪意あるイベント
32/63

第27話 探索

遅くなってすみません。

「もう良いよ止まってドゥーガ」


 首を軽く撫でて止まるように指示を出す。

 ドゥーガは私達に気を遣うようゆっくりと止まり、その場に伏せた。


「ありがとうドゥーガ」


「ありがとうございます」


 私と一緒に乗っていたリリウムとテッタの二人も一声掛けてから下りていく。

 それと同じくくらいにブレイブとクラウドが追い付いて、膝に手を当て肩で息をし始めた。


「や、やっと着いた」


「は、廃都から、全力疾走は、さ、さすがにステータスで強化されていても、堪えますね」


 私達は今、廃都から東南の方にある渓谷に来ている。

 ぱるぷんてに弓の制作依頼をした後、全員が起きてくるまでそう時間は掛からなかった。

 全員で朝食を摂って、軽く今日はどうしようかと言う話になったんだけど、クラウド、ぱるぷんて、リズがそろそろ森の外に足を運ぶべきだと主張した。

 掲示板の情報である程度、どの方角に何があるかも解り始めた。

 また、このイベントには隠しクエストがある事も解った。

 隠しクエストは色々とあるようだけど、一定のルールがあるようで、まず挑戦出来るのは一パーティーのみ、次にクエストの成功、失敗問わず挑戦出来るのは一回のみ、更に誰かが挑戦したクエストは他のパーティーは挑戦出来ない。最後に難易度がおかしい。

 ようやくすると、成功しても失敗しても、プレイヤー全体で一回しか発生しない難易度が頭のおかしい鬼畜仕様のクエストだ。

 しかし、ここの運営の初見限定クエストとか、相当な悪意の塊に違いない。正直クリアした人達はバカか変態のどちらかだろう。


 そんな理由もあり、少し遠出をする事になって誰が何処に誰と等の話し合いの末、今いるメンバーで今日のパーティーを再編成して行動することに決まり、各々探索に出掛けている。

 今日は、ブレイブ達のパーティーに入れてもらって行動することになった。


 ブレイブ達の中でテッタが一番足が遅いからドゥーガを呼び出してテッタを背に乗せて後は走ろうと言う話になったんだけど、リリウムが私も乗りたいと駄々を捏ねた為、リリウムもドゥーガの背に乗せ出発しようとしたところで、ドゥーガが私の襟首をくわえて自分の背に乗せると有無を言わさず駆け出した。

 ブレイブとクラウドの事を考えずにドゥーガが疾走するので、二人はついてくるのに大変だっただろう。肩で息をするのも頷ける。


「ありがとうドゥーガ、帰りもよろしくね」


 ドゥーガを蒼玉に戻してインベントリへとしまうと、二人も息を整え終わったらしく探索を開始した。


 クラウドを先頭に、リリウム、テッタ、私、ブレイブの順で進む。

 水のせせらぎが聞こえる獣道を歩いて行くと、渓流へと出る。話し合いの末、岩場を歩いて渓流の上流を目指す。

 mobも出なくて歩いているだけ、探索と言うには少々物足りない。

 不意に後ろからブレイブが声を掛けてきた。


「大丈夫か?」


「何が?」


 他のメンバーには聞かれないよう声のトーンを落としてるところをみると、ここ数日私の事か。

 そうは分かっていても、出切る限り弱味を見せたくない。そんな思いからすっとぼけて返す。


「……昨日から様子が変だから、何かあったのか?」


「なんにも」


 本当に幼馴染と言うのは不弁なものだ。些細な変化を感じて色々とばれてしまう。

 それでも私はなにもないと押し通す。だって、私はお姉さんだから……


「……メル」


「ブレイブ、なんにもないよ。それよりもイベントを楽しまなきゃ損でしょ」


 私がそう言うと、ブレイブも突っこみ辛いのか、それ以上聞いてくる事はなかった。前を見て歩いているからブレイブの顔は見えないけど、恐らくその顔は渋面、苦虫でも噛み潰したような顔になっているに違いない。

 ブレイブが私の事に理解が深いのと同じく、私もブレイブの事なら分かる。

 口には出さないけど、気に掛けてくれる事に感謝は絶えない。

 

 上流に近付くにつれて、mobとの戦闘が多くなる事もなく、延々と歩いている。

 それにしてもおかしい、このマップがどれくらいの広さがあるのか分からないけど、ステータスで強化されている私達は岩場だらけの悪路も散歩しているのと変わらない速度で歩いている。

 けれど、全然上流に辿り着かないうえに、mobとの戦闘が一度もない。

 罠か、そう思った時、ふと視界を濃霧が覆った。

 隣のブレイブすら見えないほどの濃い霧だったが、すぐに晴れる。


 不味い。私達は既に罠に嵌まって……

 気付くのと同時に私の前に一人の男が現れた。

 忘れるべくもない、私の━━を前に怒りが私を支配する。


「は、はは、な、何で、何でお前が、何でお前がここにいる!!」


 気づけば、私は斧を手に駆け出していた。





「は、はは、な、何で、何でお前が、何でお前がここにいる!!」


 突如濃霧が発生して、すぐに晴れたと思えば、今度はメルが絶叫してクラウドへと斬りかかった。


「な!? いきなりどうしたんです!!」


 地を転がるように避けたクラウドを確認して、メルへ駆け寄ろうとするが、クラウドから目を離したメルはリリウムへと矛先を変える。


「よくも、よくも、私の前にぃ!!」


 不味い咄嗟の事でリリウムが反応出来てない。

 首を狙った一撃、俺はリリウムとメルの間に割り込み盾を構える。

 正面から受け止めようとすれば、間違いなく押し負けるから、下から掬い上げるように斬撃を逸らす。


 メルのアイコンを見ると、【混乱】【幻覚】二つの状態異常が表示されていた。


 なるほど、つまり今のメルには俺達がアイツに見えてる訳か。それなら俺達を殺しに来るのも頷ける。

 ち、厄介な。世界で敵にまわしたくないランキング堂々の二位にいるメルとこんなところで戦うとか、どんな罰ゲームかと。

 だけど、それだけじゃ終わらなかった。スケルトンとでも呼ぶべきmob達が地面からゲーム湧きする。

 クソゲー、メルの相手しながらこの数の敵を相手にするとかマジでクソゲー、そう叫びたいのを我慢して、俺はクラウド達に指示を出す。


「メルの相手は俺がする。クラウド達は回りのスケルトンを頼む!!」


「でも」


「状態異常を回復させれば良いんじゃ」


 無理、それ無理だから。混乱や幻覚を回復させるポーションはあるけど、敵意満タンのメル相手に飲ませるとか不可能だから。


「話してる時間がない!! 頼んだ」


 それを合図にメルが突っ込んで来る。


「死ね」


 普段言われる事のない冷淡な声音、それが俺に向かって発せられた言葉じゃないのは分かっていても辛いものがある。

 何が悲しくてメルに憎悪の目を向けられなくちゃいけないのか、まったく、世の中ってぇのは理不尽なもんだ。


「悪いけど、お前にだけは殺される訳にはいかないなぁ」


 そんなことになれば、絶対にお前を傷付ける事になるから、だから━━


「殺される訳にはいかねぇよ。約束、だからな」


 あの日の誓いは違えない。


 斬撃が応酬する。

 風を唸らせて迫る一撃は、文字通り必殺、対して俺はメルを必要以上に傷付けないように加減をしなくちゃいけない。明らかに俺の方が不利だった。

 加えて、母さんに鍛えられたメルはリアルでもクソ強い。それがゲーム内で更に強化されているときたものだ。出切るものなら今すぐ尻尾を巻いて逃げ出したいところだけど、そうも言ってられないのが現状だ。

 となると、メルを気絶させるのが一番確実な方法か。


 必殺の斬撃を紙一重で躱わす。俺の攻撃も躱わされる。互いの攻撃は相手に一度も掠りすらしない。

 そんな状態に焦れたのか、メルはインベントリから数本の剣を取り出して、俺目掛けて投擲してくる。

 アニメ投げされた剣達は地面に刺さると、地面が盛大に爆ぜる。あの剣は榴弾か何かか、あんなものに当たれば体に風穴どころじゃすまない。剣を全てを躱わすと目の前に斧を振り下ろそうとしているメルがいた。

 どうやら俺の動きを先読みしていたらしい。


「消え失せろ!!」


 ああ、まったく、舐められたものだ。


「この程度で死ぬなら、俺は今頃生きてないって、の!!」


 何処かの化生に比べればまだ緩い。そのうえ憎悪で精細を欠いたメル相手ならまだ捌ける。

 サイクロップスのような攻撃範囲がなければやりようは幾らでもあるんだよ!!


 脳天目掛けて落ちてくる斧の腹を真横から叩いて逸らし、同時にメルへと一歩踏み込む。

 左膝が金的を狙って上がってくるのを同じく左膝で相殺、斧を手放して首を千切りにきた手を掴み、そのまま地面に叩き付けそのまま腕を捻り背を踏みつける。


「悪いメル」


 母さんにクソババアと言った時にやられた技だ。

 背を踏まれたメルは抜け出そうと身を捩るが、そう簡単に抜け出せる技じゃないのは身をもって知っている。後はクラウド達が敵を倒してくれるのを待つとしよう。


「放せ!! この、何でお前なんかに!!」


 ち、聞くに堪えない。


「殺してやる。殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」


 俺じゃなくてあの男に向けられた言葉、そこには俺じゃ万言を費やしても語る事の出来ない憎悪が込もっている。

 未だに癒える事のない傷、良くはなってきていると医者は言っていたけど、こんな姿を見ると、ちっとも良くなっているように見えない。

 堪えられなくなった俺が盾のアーツである、【シールドバッシュ】を使って、メルの事を昏倒させると同時にポーンといつもの音がなる。



───────────────

隠しクエスト 渓流の隠し財宝をクリアしました。


評価 S

報酬 紅き誓約のルビー(ユニーク)


達成条件

状態異常になったプレイヤーを死亡させる事なく、敵を全滅させる事。


失敗条件

状態異常になったプレイヤーの死亡。

状態異常になったプレイヤー以外の全滅。


───────────────



 達成条件えげつないな。メルを倒したら強請失敗かよ。

 ユニークアイテムが手に入るとはいえ、難易度高過ぎ、なのは今に始まった事じゃないか。


「はぁ」


「ブレイブ、メルは……」


「ん、お疲れクラウド、メルなら気絶させただけだ問題ない」


 いや、色々と問題あるな。メルが向けた憎悪は本物で、只ならなぬ事情がある事を感じているだろう。

 見れば、三人が三人とも聞きたそうな顔をしていたけど、俺もそんな気分じゃない。


「取り敢えず、帰るか」


「そうしましょう」


「うん。そう、だね」


「分かりました」


 気絶したメルをおぶって歩き出す。

 俺に続くようにクラウド達も歩き出した。





 私が次に目を覚ますと、既に拠点の中で、空は真っ暗になっていた。

 おかしい、霧が視界を覆った後からハッキリとした記憶がない。ただ、言い知れない怒りを感じていた事ぐらいしか思い出せない。


 既に皆も寝てるのか穏やかな寝息が聞こえてくる。私がいないでご飯どうしたんだろうか? まさか、食べてないなんて事は、有り得そうで恐い。

 隣で寝るリズとシェスカを起こさないように二階から一階に下りて、そのまま外へと出る。


 少し肌寒い夜風が私を撫でる。

 誰が着替えさせたのかは分からないけど、リズの作ったパジャマは暖かいから丁度良い。

 黙って夜空を見上げる。リアルとは違った星空、でも、リアルの空よりもとても綺麗なそれは、何故か、何でだか分からないけど、涙が出そうになる。


 いけない。ここ最近、情緒が不安定だ。原因は分かっているけど、私にはどうしようもない。

 目尻に浮かぶ涙を手の甲で拭っていると、不意にドアが開く音がした。


「こんな夜更けにどうしたんだ?」


 声のした方を見ると、ブレイブが眠そうに欠伸をしながら出てくる。


「ちょっとね。外の空気が吸いたくなっただけ」


「そうか」


 私の隣に立ってそれだけ言うと、それっきり口を開く事はなかった。

 暫く互いに無言のまま、空を見上げて、先に口を開いたのは私だった。


「ねぇ、ブレイブ」


「なんだ?」


「霧が晴れた後から記憶が無いんだけど、何があったの?」


「お前が状態異常の【気絶】に掛かって意識を失ってたお前を守りながら多数のmobと戦ったくらいだな」


 ああ、嘘だ。ブレイブの雰囲気、一挙一動からそれが嘘だと分かってしまう。


「そう、なんだ」


 でも、ブレイブが私に嘘をつくって事は、きっと私の為なんだろう。だから、私はそれで良い。勇気の好意に甘えよう。


「ごめんね、役に立たなくて」


「そんなこともあるだろ。気にすんな」


 笑い私の頭をワシワシと撫でるブレイブ、その手を払おうと思えば払えた。だけど、私は払わなかった。


「そう言えば、クエストの報酬なんだった?」


「ん、ちょっと待って、えっと、無垢な希望の水晶クリスタルだって」


 希望、ね。ユニークアイテムみたいだけど、どんな基準で作っているのか、少し気になる。


「…………そっか、俺は紅き誓約のルビーだった。やっぱり全員違うんだな」


「他の皆は?」


「クラウドが碧い自由のペリドット、リリウムが黒き正義のブラックオニキス、テッタが蒼い慈愛のサファイアだったな」


 誓約、自由、正義、慈愛、そして希望、他のと合わせると無垢は色を表しているのか。


「そうなんだ……」


「ああ……」


 そして、また会話がなくなる。

 自分が思っていた以上に弱っていたのかもしれない。胸中で今日だけと言い訳をしながらブレイブへと寄り掛かる。

 一瞬驚いたように身体を強張らせたけど、すぐに受け入れてくれた優しさに感謝する。

 今日だけ、明日には、またきっと、いつもの私になれるから、だから今日だけは甘えさせて。


「ありがとう」


 小さく呟いた言葉は夜風に消えていく。

 その日は夢を見る事はなかった。


月末月初で忙しくなってきてます。次の更新は一週間以内にしたいと思ってます。

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