第1話 付き合うことになった。
恋愛のゴールって何だろう。
相手に好きになってもらうことかもしれないし、結婚することかもしれない。
私にとっての恋愛のゴールは、結婚して子どもを産むこと。
普通の家庭を築くことができれば、劇的な恋愛は必要ないと思っていた。
そんな私が葉山と付き合うことになったのは、たぶん気の迷いだったのだろう。
*
「望月って付き合ってる人いるんだっけ?」
視線の先にいる葉山は足元をぱたぱたさせて尋ねてきた。
葉山と私はかれこれ数年以上の友人である。
高校の頃はずっと同じクラスで、進学した大学も同じだった。
でも親友と言えるほどでもなく、なんとなく話をする程度の関係性。
今日は私の家に呼んで、一緒に課題をする予定だった。
本当は別の子も来る予定だったけど、バイトでこれなくなったらしい。
だから私の部屋にいるのは私と彼女のふたりだけだった。
「いないけど。ていうか葉山なら知ってるでしょ」
「大学に入って付き合い始めた可能性もあるじゃん」
私はそんな簡単に付き合うタイプじゃない。
これまでに付き合った経験は1回だけ。中学の頃から仲の良かった男の子と半年くらい付き合ったくらいけど、あることをきっかけに別れることになった。
それ以降、誰かと付き合ったことはない。
「葉山の方はどうなの」
深掘りされたくないので葉山に話を振ることにした。
はっきり言って、葉山はかなり可愛いタイプの女の子である。
とりわけ男子ウケするタイプだと思う。
少し低めな身長とかメリハリのあるボディラインとか、葉山は男子の理想を詰め込んだ容姿をしている。それにいつもほわほわしてて、話しかけやすい雰囲気を漂わせている。
だから高校の頃から男子から声をかけられているのをよく目にしていた。
「まぁ、今はいないって感じかなぁ」
「前はいたって感じ?」
「興味津々じゃん」
「そんなに私のこと知りたい?」と言って、葉山がによっと笑う。
これ以上聞いても教えてくれなさそうだと思い、私は引き下がることにした。
別に、と言ってノートパソコンに視線を戻す。
レポートの課題を斜め読みしていると、しばらくしてから葉山が口を開いた。
「望月は付き合ってる人いないわけじゃん」
さっき言ったでしょ、と思いつつノートパソコンから顔を上げる。
スマホから視線を外さないで、葉山はゆったりした口調で続けた。
「今フリーならさ、私と付き合わない?」
「……は?」
一瞬にして、部屋の空気が止まる。
「ごめん、もう一回言ってくれる?」
「いいよ」
「今フリーならさ、私と付き合わない?」と一文字も違わない言葉が返ってきた。
「え、葉山って私と付き合いたいの?」
「付き合いたいっていうか、お互いフリーなら試しにどうかなって」
葉山は私に柔らかい笑みを向ける。
「私、そういう趣味ないんだけど」
「知ってる」
「望月、男子と付き合ってたもんね」と葉山は呟いた。
「もし私と付き合っても、その、レズ、的なのってできないよ」
言葉に詰まりながら、断る理由を説明する。
私はストレートだから同性の子に欲情することはない。
高校の頃に着替えをしているときも、何とも思わなかった。
葉山のことは可愛いと思うけど、それは恋愛感情ではない。
だから私と付き合っても、恋人らしいことはできないと思う。
「それは雰囲気次第だから大丈夫だよ」
「いや、雰囲気っていうか……」
そもそも、そういう雰囲気になることはないって話なんだけど。
「なんだ、望月って身持ち堅いね」
いきなり付き合おうて言われたからと言って、すぐ返事をするタイプではない。
特に相手が同性の女の子であればなおさらだ。
「別に恋愛的に好きじゃなくっても、一緒にいて心地が良いからって理由で付き合うのとかアリだと思うけどな」
強くは否定できない。
付き合ったからと言って、将来ずっと付き合わないといけないわけではない。
思ってたのと違うってなったら別れればいいし。
でも私が葉山と付き合うのはリスクがある。
「その、もし付き合ってるのバレたら、お互い困ると思うけど」
「じゃあバレないようにしよっか」
葉山は私以外の人に聞かれないよう小声で呟いた。
部屋の空気が揺れて、ほんのりとした熱を持ち始める。
「望月と付き合ってることは誰にも言わないし、レズセを強要するつもりもない。もし望月が違うなってなったら、今みたいな友だちの距離感に戻ればいい。そういう条件で、一回私と付き合ってみるのはどう?」
葉山がゆったりとした口調で説明してきた。
視線を逸らして窓の外に向ける。
4月らしい穏やかな日差しが差し込んでいた。
「……それならまぁ、付き合っても良いけど」
「やった」
葉山は笑みを見せる。
「じゃあ私、レポート書かないといけないから」
「おっけー」
そこで私たちは話を切り上げた。
私は葉山と付き合うことになった。




