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2.怪しい雲行き

 エリスは謁見室で陛下と王妃に会っていた。


「聖女エリス。王宮の暮らしはどうだね」


「はい、快適に過ごしております」


「エドワードから聞いておるが、バクルー公爵家のアイリーンにマナーを教わっているとか」


「はい、丁寧にご指導いただいております」


 王妃が口を挟んだ。


「アイリーンは厳しすぎることはありませんか。あの者は歯に衣を着せぬ物言いをしますからね」


「はい、大丈夫です。公爵令嬢様はとてもまっすぐで見習うところがたくさんございます。わたしのようなものに指導していただき感謝しております」


「さすが聖女ですね。お優しくて謙虚で……少しアイリーンにも見習って欲しいものですね」


「王妃。アイリーンはエドワードの婚約者だ。口を慎め」


「あら陛下、まだ正式に発表はされておりませんわ」


 そこにエドワードが現れた。


「陛下、お呼びと聞きましたが」


「うむ、近々聖女の披露目式を行う予定じゃ。そこで次期国王であるそなたに、聖女のエスコート役をと思ってな」


「しかしながら、わたしには婚約者のアイリーンがいます。アーサーにお願いしてみては?」


「何を言うのです、エドワード。聖女は国にとって特別な方。次期国王たるそなたがエスコートしなければ貴族に示しがつきません。そうですよね、陛下」


「うむ。バクルー公爵には事情を話して令嬢に伝えてもらおう。それで良いな」


「……仰せのままに。他に用がなければ忙しいのでこれで」


「お待ちなさい。エリスはダンスは踊れて?」


「はい、バクルー公爵令嬢様に教わっておりますが、まだまだ未熟です」


「そう、それならエドワードに教わるといいわ。基本は覚えたでしょうから、あとは殿方と実践する方が早く慣れるわ。エドワードいいわね」


「……わたしで良ければ。執務に追われているので、夕食後に執務室に来てください。わたしはいつも執務室で食を取っているので」


「はい、わかりました」


「では失礼します」


 エドワードは足早に謁見室を出た。エリスも両陛下に挨拶をして、いつものガゼボで待っているアイリーンのもとへ急いだ。


「アイリーン様、お待たせしました。第二王子殿下もいらしていたのですね」


 アーサーの顔が一瞬ほころんだのをアイリーンは見逃さなかった。エリスもまた、はにかむような笑顔をアーサーに向けていたのを、アイリーンは微笑ましく感じた。


「で、父上、陛下は何の話だったの?」


「えと、わたしのために披露目式を開いてくださるそうで」


「へー、じゃあエスコート役が必要なんじゃない?」


「あ、それが、エド…王太子殿下に…」


「兄上が!なぜ?」


「殿下、陛下がお決めになったのでしょう。」


「兄上には公爵令嬢、あなたがいるではありませんか!」


「聖女様がこの国の重要人物であることを多くの者に知らしめるための行事です。この国の独身男性でもっとも位が高いのは誰かご存知でしょう。王太子殿下がエスコートするのは当然です」


「しかし……」


「第二王子殿下はエリス様が蔑まれても構わないとおっしゃるのですね?」


「……」


 アーサーは唇を噛み締めてうつむいた。


「あの、アイリーン様。王妃様のお計らいで王太子殿下とダンスの練習をすることになりまして……」


「なんだって!なぜ兄上ばかり……」


「……では、わたくしはお役御免ということですわね。用もなくなりましたし、わたくしは失礼しますわ」


「アイリーン様……」


「あ、そうそう王太子殿下はわたくしの婚約者であるということをくれぐれもお忘れなきよう、聖女様」


 そう言い放つとアイリーンは振り返ることもなくその場を去った。


 エリスは夕食を終えるとエドワードの執務室に向かった。アイリーンのことを考えると気が重かった。執務室の衛兵にお辞儀をしてエドワードに取り次いでもらえるようお願いをした。衛兵はエリスに微笑み、一礼をしてからドアをノックした。


「聖女様がお見えです」


「通してくれ」


「王太子殿下にご挨拶申し上げます」


「そこのソファに座って少し待っていてくれ。この書類に目を通したら始めよう」


「お忙しいようでしたら明日でもかまいません」


「毎日こんな状況だから、いつでも同じだ。悪いがあまり時間は取れないので毎夕食後に半時ほどのレッスンで構わないか?」


「十分です。わたしのために申し訳ありません」


 エドワードとエリスは披露目式までの間、夕食後の半時毎日ダンスの練習をすることになった。

 そのうち王宮に妙な噂が立つようになった。アイリーンがその噂を聞いたのは、二人のレッスンが始まって10日経ったときだった。アイリーンが久しぶりにエドワードとお茶を飲もうと王宮を訪ねたとき、侍女たちが話していたのだ。


「王太子殿下と聖女様お似合いだと思わない?」


「毎日二人きりで過ごしているんでしょ。何もないわけないよね」


「そうそう、楽しそうな声や、あのクールな王太子殿下の笑い声が聞こえるそうよ」


「わたしは聖女様の艶っぽい声が聞こえたって聴いたわよ」


 アイリーンは立ち止まって聴いていたが、その言葉に憤りを感じ思わず叫んでいた。


「あなたたち、侍女の分際で王族の噂話をするなんて死にたいの!」


「も、申し訳ありません!」


「そこに跪きなさい!王宮の侍女として品位の下がるおしゃべり、言語道断!名を名乗りなさい!陛下に報告して即刻処分してもらいます!」


 侍女たちは顔を真っ青にして震えながら床に頭をつけた。そこへアーサーが現れた。


「何事なの、バクルー公爵令嬢?」


「この者たちが王族を愚弄する噂話をしていたのです」


「ああ、兄上とエリスのことだね。僕も耳にしたよ。兄上の側にはいつも執事と護衛が付いているからあり得ない話だね。君たち、二度と馬鹿げた話しないように肝に銘じてね。もう行っていいよ」


「あ、ありがとうございます」


 侍女たちは一礼をすると小走りで去って行った。


「殿下、殿下がお許しになられたのでわたくしは何も言えませんが、甘すぎませんか。さらに噂が広がったらどうします?」


「まあまあ、根も葉もない噂話だから、すぐに消えちゃうよ」


そう言ってアーサーは手を振り笑いながらアイリーンのもとを離れて行った。


次回の投稿は10/29の予定です。

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