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プロローグ


 城内の大広場。今にも雨が降りそうな曇天の中、アイリーンの斬首刑が始まろうとしていた。


「王妃ならび王太子に毒を盛り殺そうとした罪により、今よりバクルー公爵令嬢アイリーンの刑を執行する!」


 衛兵の死刑執行の声が大広場に響き、その直後、集まった観衆の怒涛の声が無表情のアイリーンに向けて矢のように放たれた。


(わたくしはやっていない……)


 取り調べ中、何度も叫んだ言葉をアイリーンは心の中で呟やいた。衛兵に首を抑えられ断頭台に頭を乗せたアイリーンは、何かを言いたくて言えず、苦しんでいるような顔をして立っている聖女と目が合った。そして最後の力を振り絞り叫んだ。


「わたくしは、わたくしはやっていない!」


 その瞬間、曇天を切り裂くように稲妻がはしり、目を開けられないほどの眩しい光が辺り一面覆った。一瞬の出来事だった。人々が我に返り処刑台に目を向けると断頭台が真っ二つに折れ、処刑台に刺さったギロチン刃のすぐ横にアイリーンが倒れていた。

 どのくらい経っただろうか、聖女エリスが叫んだ。


「アイリーンの死刑は取りやめにしてください。これは無実の罪で罰せられようとしていたので神がお怒りになられたのです!」


 ◇◇◇


 幼い頃より王太子の婚約者であった公爵令嬢アイリーン・バクルーは周りの者たちから蝶よ花よと可愛がられ、少々高飛車な令嬢に育った。当然王妃教育は受けていたが、なんでもすぐに吸収しやりこなしてしまい、できない者の気持ちが分からず、傲慢にも見えた。そのうえ漆黒の美しい髪にエメラルド色の瞳、誰もが見惚れるほど端正な顔立ちは黙っていると冷たく感じた。


 アイリーンが15歳の時だった。怪我や病気を不思議な力で治すという少女が平民の間で噂になった。その噂は王宮にも届き、その少女はすぐさま王宮に呼ばれた。


 その少女の名はエリス。エリスは生後まもなく孤児院に捨てられ、そこで育った。貧しくても明るく優しく育ったエリスが、聖女の力を発現したのは13歳の時だった。同じ孤児院のこどもが散歩中に野犬に襲われて大怪我をしたのだ。医者に診てもらうお金がないため、ボロボロな状態で寝かされていたそのこどもは意識もなく、このまま放置していると命が危ない状態だった。エリスは泣きながら神に祈った。


(神様、お願いします。この子の命を救ってください。怪我を治してください)


 エリスがそのこどもの両手を握り締め強く祈ると、柔らかな光がエリスから放出され、子供を包み込んだ。瞬く間にこどもの体から怪我が消え、意識を取り戻した。

 治癒の力を顕現させたエリスは、お金がなくて医者に診てもらえない平民をその力で治療し続け、1年ほど経ったとき、王宮から呼ばれたのだった。


 陛下の前でその力を見せたエリスは王宮で暮らすことになった。不本意ではあったが、王族の命令には逆らえない。その代わり時々城下に下り、平民の治療をすることを条件にしてもらった。


 アイリーンはエリスが王宮に来てすぐに会いに行った。初めて会ったのは庭園でエリスが侍従とお茶をしているときだった。


「まあ、侍従とお茶なんて。いくら平民出身といえど、陛下からお墨付きをいただいた聖女様のなさることじゃありませんわ」


 侍従は慌てて席を立ち、少し離れたところへ行った。エリスも慌てて席を立ちアイリーンにおじきをした。


「申し訳ありません。わたしが一人でお茶を飲むのは寂しいからと無理にお願いしたのです」


「そう、でもこれからは気をつけることね。わたくしはアイリーン・バクルー公爵令嬢よ。王太子殿下の婚約者でもあるわ」


「はじめまして、アイリーン様。わたしはエリスと言います。よろしくお願いします」


「………」


 顔をしかめたアイリーンにエリスは戸惑った。


「アイリーン様、良かったら一緒にお茶でもいかがですか?」


 アイリーンは持っていた扇子をパチンと鳴らした。


「わたくしはあなたに名前で呼ぶことを許可していません。いくら平民出身でも王宮で暮らすのならそれなりのマナーも必要ではなくて?」


「も、申し訳ありません!」


 エリスはうつむいたまま顔を上げることができなかった。アイリーンはそのまま立ち去り王太子の執務室へ向かった。


 アイリーンは執務室の前に立っている衛兵に目くばせをすると、すぐさま衛兵が執務室のドアをノックした。


「殿下、失礼します。バクルー公爵令嬢がお見えです」


「ああ、通してくれ」


「王太子殿下にアイリーン・バクルーがご挨拶申し上げます。お忙しいところ申し訳ありません」


「ちょうど休憩しようと思っていたところだ」


 エドワード王太子はアイリーンより2歳上の17歳で、王太子が18歳の成人を迎えると婚約式、アイリーンが18歳の成人を迎えると結婚式をすることが決まっていた。


 二人はテーブルを挟んでソファに座りお茶を飲んで一息ついた。アイリーンはティーカップ越しに王太子の顔を見ながら思った。


(相変わらず素敵な容姿。陽光に輝く銀髪、空のように澄んだ青い瞳、誠実でまっすぐな性格を表したような筋の通った鼻、ちょうどいい厚みのキリリとした唇。全部わたくし好み♡あら、やだ、わたくしったら、はしたないわ)


「あの、殿下。お願いしたいことがございますの」


「なんだ?構わない、言ってみろ」


「聖女エリス様のことですが、少々マナーが気になりました。王宮で過ごされるなら基本的なマナーを身につけても良いかと」


「聖女のことは陛下に聞かなければならない。まあ、そなたが王宮に来るついでに何気なく指南するのであれば陛下に聞かなくともいいだろう」


「わかりました。ではそのように」


 その頃庭園でうつむいて立ったままのエリスを第二王子のアーサーが声をかけていた。


「いつまでそうしているつもり?」


「第二王子殿下!殿下にご挨拶申し上げます。」


「いいよ、そんなにかしこまらなくても。通りすがりに見てしまったんだ。酷いね、バクルー公爵令嬢」


「いえ、わたしがマナーを知らなかったので、公爵令嬢が怒っても仕方ありません」


「エリスと呼んでもいいかい?」


「はい、もちろんです」


「じゃあ、僕のことはアーサーと呼んで」


「そ、そんな無理です、わたしごときが……」


「んー、じゃあ呼べるようになるまで待つよ。ところでお茶冷めたでしょ。入れ直してもらうから、一緒に飲まない?」


アーサー第二王子は側妃の子で、正妃のこどもであるエドワード王太子とは腹違いの兄弟だ。後継者教育を幼い頃から仕込まれた王太子に比べて、アーサーは気さくで自由気ままな性格だ。もちろん後継者になりたいなどと思ったこともない、アーサー自身は。



次回投稿は10/23の予定です

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