剣聖試験:試験結果
ブクマありがとうございます。
本日は感謝の2回更新です。
2回目の更新は昨晩と同じ時間帯になります。
九日目の夜。陽が沈んでからの来客は初めてだった。
「こんばんは」
「今日はアリスか、いらっしゃい。何かあった?」
「まあ、色々とね。それとこれ、はい。お土産」
アリスはどこか遠慮がちに答えると、持っていた箱を差し出した。丁寧に梱包された木製の箱の中には酒が入っていた。
「たまにはいいよね。互いに15歳になったし、ユウとも飲んだのよね。今度は私に付き合って」
「喜んで」
縁側で飲み始めてから三分後。
「だからね。なんでアラタ君は、未だに剣聖として認められていないのかなー」
「アリス、少し飲みすぎ」
「んふふ、コップ取っちゃだめ~」
彼女はすっかりと出来上がっていた。
「あまり飲んでないのに、顔赤くない?」
「えー。もうたくさん飲んでいるよ」
彼女が指をさした先。そこには一口程度の量しか減っていないお猪口があった。
「でね。さっきも言ったけど、今日は大事な話があってきたの」
「今、初めて聞いたけどね」
「アラタの事、みんな心配しているの。いつになったら剣聖になるのって」
「それは追試の結果次第でしょ」
彼女は頬を膨らませると、僕に顔を近づけてきた。
「いい加減、認めてもらいなさい。今日中、いや今すぐに、よ。噂の幽霊さんはここに居るでしょ。その人に認めてもらわなくちゃ、アラタはいつまで経っても、ただの飲んだくれよ」
その通りです、はい。
「呼んできなさい」
「は?」
「その幽霊さんを、ここに呼ぶの! そして聞いてあげる、アラタのどこが剣聖に相応しくないかをとことん聞いてあげる」
拳をぶんぶんと勇ましく振るうアリス。それの何が怖いかって、酔っているにも関わらず体のキレが衰えていない所にある。しかも、無造作に振るわれる拳が、時折僕の頬を掠めている。
僕が振り返ると柱に隠れながら、こちらを覗き込む彼女がいた。心配そうに見守る彼女に手招きすると、驚きながらも僕たちの方へと近づいてきた。
「アリス、紹介するよ。こちらが幽霊さんです」
「え?」
「は、はじめまして」
ぽかんとした顔のアリスの視線が宙に浮かぶ彼女へと向けられた。文字通り宙に浮く彼女の姿に、アリスはしばらくの間、言葉を失っていた。
「アラタがいつもお世話になっています。色々と伺いたいことがありますが、まずは本当に幽霊なのか確かめる為、抱き着いてみてもいいですか」
「だきつく? え、きゃあ!」
彼女の返事も待たず、アリスはいきなり彼女の胸元へ飛び込んだ。
「あれ、幽霊なのに触れる。でも足がない。ナニコレ、不思議~」
「ちょっと、待って、アラタ君! アリスちゃんの事どうにかして」
アリスは、はしゃぎながら彼女の色々な場所を弄り始める。それに対し、幽霊の彼女は抵抗もままならない様子で、涙目で僕に助けを求めていた。
「そういえば僕の名前、初めて呼んでくれました?」
「そんな事よりも、はやく!」
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「本当にすみませんでした……」
水を飲んだおかげで酔いが醒めたアリスは深々と頭を下げた。
「気をつけなよ、この酔っ払い」
「アラタ君、女の子にそんなひどい事言わないの」
肩を震わせたアリスを庇うように、彼女はむっとした顔で僕を見ていた。
「でもアリスちゃん、さっき言っていたけど、私が認めないと剣聖になれないってどういうこと」
「そのままの意味です。アラタが剣聖になるには、聖剣の担い手として認められる必要があります。ここに飾られている聖剣は、里のものによって代々受け継がれてきた由緒正しきもの、それを守護する貴方……すみません、お名前を伺ってもよろしいですか」
「エリカです」
「エリカさんですね、ってアラタ。なんで初めて知ったみたいな顔をしているの」
「だって初めて知ったから」
アリスは絶句しつつ、エリカを見た。
「私も聞かれなかったから、特に気にしてなかったな……。アラタ君の名前はお友達が呼んでいたから覚えたよ」
「と、とりあえず続きを話します。聖剣を守護するエリカさんに認められることで、聖剣の担い手として相応しいと資格を得たと言えるのです」
「ん、じゃあ私が認めますって言えば、今日からアラタ君は剣聖なの?」
「そうです。しかし、これだけ長い時間を過ごしておきながら、認められないということは剣聖として相応しくない面がアラタにあるということ。そこを改善しなければ、貴方に認められるような」
「認めます」
エリカは満面の笑みで頭の上に両手で丸をつくっていた。
「はい? え、でもそんな簡単に、ですか?」
「うん、私が認めないと剣聖になれないって知らなかったから。ごめんなさいね、心配かけて」
「知らなかった……。はは、なら、仕方がないですよね」
思い返してみればエリカに試験の内容まで説明した記憶はない。アリスは乾いた笑い声をあげながら、ずっとこちらをを見ている。
間違いない。彼女は怒っている、いやキレているといっても過言ではない。
「問題も解決したし、私はそろそろ帰るね」
「そこまで送るよ」
月明かりを頼りに里へと続く道を二人で歩く。夜道のせいで視界は悪かったが歩きなれた道でもあるのでお互いの足取りは軽い。
「剣聖になることができたよ」
「……」
「みんなにも迷惑かけて悪かったね」
「……」
彼女は何も言わず、僕の顔を見ながら、ただニコニコしていた。
「……本当にすみませんでした」
「気を付けなさいよ、この飲んだくれ」




