23.0 エピローグ
放課後、高校の屋上へと上ると、浮瀬雲母は目をつむり、屋上の縁に立っていた。
「あらためて、退院おめでとう。もう身体は大丈夫みたいだね。」
僕は夕日に目を細め、彼の傍へ歩く。
校庭では、野球部やサッカー部が掛け声を出し、足元の校舎の中からは、吹奏楽部の各パートの、ばらばらに別れた演奏が聞こえる。
屋上からは、羽津病院は見えなかった。
「うん。おかげさまで。」
そのまま僕は数分、沈みゆく夕日を眺め続けた。
「浮瀬、君は…。」
それより後の言葉は出てこなかった。
「言ってごらん。」
浮瀬はまだ、目をつむっている。
僕は、校庭に響く生徒たちの声と、校舎を駆ける音楽と、建物の背に沈んでいく光を、ゆっくりと吸い込んだ。
「浮瀬、君は、『W』の一人なんじゃないか?」
渋谷事変を引き起こし、その現場にWの文字を書き残した集団。
ただ、その事件を如何に引き起こしたのか、そもそも、なんの為に起こしたのかが分からない。
被害の全体像も、世の中にはっきりとは把握されていない。
その、自然現象の様な所業を行った犯人を、世間はいつからかWizardsの頭文字を合わせ、「W」と呼び始めた。
「いいね、おしい。と、言いたいところだけど。」
すべて間違っている。
と、浮瀬は続ける。
「僕以外にはいない。僕一人で『W』。」
そうか、やはり菰宮先輩はWではなかった。
「僕の、いや。」
そこで彼は目を開き、こちらを見る。
「私の本名は浮瀬うらら- Ukise URARA - 。UU。WitchのWだ。」
僕が瞬きをする前、浮瀬雲母が立っていた場所。
僕の手の届く場所。そこに、下之宮高校の制服を着た少女が立っていた。
「隠していてごめんね。実は女なんだ。そこそこ可愛いだろう?」
確かに、僕のタイプの美少女だ。
けれど、これだけは言わないといけない。
「菰宮牡丹は、百倍可愛い。」
(24.0)
例え1つの、同じ物語であったとしても、その物語が、どこで終わるのかによって、それは、ハッピーエンドにも、バッドエンドにもなり得る。
人の人生は、「物語のエンディング」では終わらない。あとがきを迎えようが、スタッフロールが流れようが、主人公が死んでしまおうが、その物語に関わる人が、物が、生き物が、残っている限り、その物語には続きがある。
物語に続きがあるということは、その物語がハッピーエンドで終わろうが、バッドエンドで終わろうが、その喜びや悲しみは、そのとき限りのものということだ。
授業の退屈さも、放課後には解放感に変わる。
それでは次回予告。
「次回。小石井頼と、アフタートーク」




