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「ガーーーーッハッハッハ!! 産後姫よ、世話になったであるな!」
「すっごーい! ダディさん、若返ってすごく元気になってるねぇ! 黒あわびってすごいんだねぇ、チョンカちゃん!」
「そうじゃね、ラブ公。なんかダディさんもムッシュさんも別人みたいになりよったね!」
「はは、チョンカちゃん、俺たちにも若い頃があったのだよ。うひっ!」
「パパ・・・・・・それがなかったらイケメンだったのに・・・・・・」
チョンカたちは第六おさかなちゃんパラダイスの面々に見送られ、入口へと戻ってきていた。
ダディは髭と脂肪がなくなり、着ていた全身タイツもスカスカになっていた。ムッシュは髪も黒くなり、筋肉質な体となっていた。 二人ともチョンカよりも少し年上くらいの青年の姿になっており、病気とは無縁といった様子であった。
「・・・・・・黒あわびにそんな効果があるゆうん、ウチ知らんかったわ・・・・・・海の秘宝や言うても、口にしたもんは誰もおらんかったからな・・・・・・」
珊瑚姫は俯きながら、時折顔を赤らめてダディの方を盗み見るようにチラチラと伺ってた。
「それでは行くであるな! その前に産後姫よ、お子とご主人はどうなされた? 礼をしたいのであるな!」
「・・・・・・はぁ?」
珊瑚姫は予想外のダディの言葉に、顔を上げ目を丸くした。
「な、なに言うとるんや・・・・・・? ウチ、結婚しとらんで?」
「なんとそうであったか!! それは失礼した。いやいや、事情は人それぞれあろうというもの。一人でもお子を育てようというその覚悟、立派立派! ガーーーーッハッハッハ!!」
「いやいやいやいや!! ウチ子供なんていてへんで!?」
「ンダディ君、何度も言うが産後ではなく珊瑚だよ?」
その場にいた全員がダディを白い目で見ていた。当然であるがダディと同じ勘違いなど誰もしていない。
「ガ、ガーーーーーーーーーーーーッハッハッハ!! そ、そうであったか!! それは本当に失礼した。ワシはてっきり産後であると思っていたであるな!!」
「馬鹿ね……どんな勘違いよ……」
当の珊瑚姫は、怒るでもなく、特に強く言い返すわけでもなく、拳を強く握り締めたまま俯いていた。そして意を決したように顔を上げる。
「ウ、ウチな、人魚やけど……足乾かしたら人間の足になんねん!」
「ほう、それは興味深いであるな!!」
珊瑚姫の護衛兵たちは珊瑚姫の言葉を聞いてぎょっとした。魚だけに。
ムッシュは二人の会話を聞いて苦笑している。
「いや……うん……えっとな……お、おっさん……とちゃうんか、えっと、ダディさん……は、これからどないするん?」
「そうであるな、まだ決めてはおらぬが、ここにいるムッシュと共に旅をしようと思っているであるな!!」
「さ、さよか……ほ、ほなまた来てな!! そんときは歓迎するで。第五の奴らを倒してくれたお礼もまだやさかい……」
「ガハハ! そうであるな! ここもまだまだ調べたいであるな! またいつか会おう!!」
珊瑚姫の言葉を聞いて、護衛兵は安堵のため息を吐いた。サーカス芸を見たあの日から、珊瑚姫は上の空になっている時間が多くなっていた。
話の流れから、自分もついていくと言ってしまうのではないかと肝を冷やしていたのだ。
「それでは名残惜しいがそろそろテレポートしようか。珊瑚姫君、黒あわびをすまなかったね」
「え、ええねん。第五の奴らに取られるよりずっとマシや!! それと……チョンカ。ほんま、おおきにな。あんたが約束守ってくれて助かったわ。ラブ公……やったっけ? ラブ公のことはほんまに堪忍やで」
「うん! うちはもう気にしとらんよっ! ラブ公が無事に帰ってきてくれたけぇ、それだけで十分じゃよ」
「……あんたらみたいなエスパーもおるんやね。ウチ、エスパーって話に聞いとっただけやったから、勘違いしとったわ」
「にへへ。そうじゃよ!」
チョンカはいつものように、太陽のような笑顔を珊瑚姫に見せた。
そしてチョンカは踵を返し西京達のもとへ歩き出す。
数日後、第六おさかなちゃんパラダイスから珊瑚姫の姿が忽然と消えてしまったのは別の話である。
「ちょー待ったってぇや!!」
いよいよテレポートをしようとしたチョンカ一行を引き止めたのは、駆け寄ってきたウルフであった。
「ウ、ウルフさん!? チョンカちゃん、ちょっと待って!」
ラブ公は竹馬を使わずに、てちてちとウルフのほうへ走り出した。
「ラブ公!! 頼むっ!! ワシも連れて行ってくれ!!」
「え!? ウ、ウルフさん……?」
「ワシ……お前と本気で友達になりたいんじゃっ!! お前はええやっちゃ……ワシ、別れとうないっ!!」
「ウルフさん……」
ラブ公の目に涙が浮かぶ。ウルフの真っ直ぐな気持ちがラブ公の心に届いたのだ。
「 友達
僕の友達はね
とても足が多くてかっこいいんだ
水中では誰も追いつけないくらい
風みたいに速いんだ
それにね
僕が困ったときには必ず助けに来てくれる
そんな僕の
大事な大事な友達だよ」
ラブ公は頬を染め、ふぅと深いため息を吐いた。詩を詠んで満足している顔である。
「ウルフさん、どう? 今の詩はね、僕の気持ちだよぉ」
「……あ? お前何言うとんのじゃ? ちょっと意味が分からんかったわ。すまん、もういっぺん言うてくれや」
ラブ公の頭の中で、体にヒビが入ったような音がする。
「え、え、えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! ウルフさん、僕の詩を聞いて何も思わなかったのぉ!?」
「詩ぃ? なんじゃそれ??」
「も、もう!! チョンカちゃんレベルだよぉ!! ……いいよ、これから僕が教えてあげるから!! ウルフさんもポエマーになろう?」
「ぽえまぁ? なんやよう分からんけどええ……で!? あっ!!」
ウルフの視線がラブ公の頭の上に釘付けになり、ラブ公は後ろを振り返った。
そこには西京が立っていたのだ。
「あ、西京! あのね、ウルフさんがね、旅についてきたいんだって!! ねぇねぇ、いいでしょ?」
「ダメ。死ね。糞団子が」
ウルフを見つめる西京の目が細められた。
ウルフは心臓の縮み上がり、その場から動けなくなってしまう。
そう、ラブ公と旅をするということは、この恐ろしいリスのエスパーとも旅をするということである。ウルフは覚悟を決めたつもりでいたが、いざこうやって睨みをきかされると、腰砕けになってしまっていた。
「ふむ。ウルフ君……」
「ひゃ、ひゃい!!」
「私達の旅に同行したいのかい?」
「ね、ねぇ……今死ねって……く、くそだん……え? え? 嘘でしょ? ねぇ?」
「クレアエンパシー」
ラブ公の体がほんのり光を帯び、一瞬で消えた。ラブ公は口を開け空を仰いでいる。
「あ、あれ……ぼく……あれ?」
「た……たのんます!! 西京はん!! ワシ、どうしてもラブ公と友達になりたいんですわ!! こんなええ奴に会うたん初めてなんですっ!!」
「ふむ……」
「あれぇ……あ、そうだ、ねぇ、西京!! いいでしょ? ウルフさんも連れて行ってあげようよぉ? ね? いいでしょ? ねぇねぇ!」
「ダメ。死ね。主な理由はお前が臭いから」
「西京はんっ!! たのんますぅぅ!!」
「ふむ……」
「え、い、今死ねって……え!? く、くさ、くさいって……う、嘘でしょ? ねぇ!」
「クレアエンパシー」
ラブ公の体がほんのり光を帯び、一瞬で消えた。ラブ公は口を開け空を仰いでいる。
「あ、あれ……ぼく……あれ?」
「ふむ、ウルフ君。私達の旅は過酷だよ? なにせエスパーだからね。とても君が耐えられるようには思えないが?」
「そ、そこをなんとか!! 絶対に弱音は吐きまへんっ!!」
ウルフは頭(体)をくにゃりと西京の方へ倒し地面にこすり付け、土下座のような姿勢をとった。
「あれぇ……あ、そうだ、どうしてなの西京!? チョンカちゃんもシャルちゃんも絶対守ってくれるよぉ!! ね? だからウルフさんも連れて行ってあげようよぉ? ね? いいでしょ? ねぇねぇ!」
「ダメ。死ね。いや、ラブ公が尻を振って踊ったら同行を許可しよう」
「え!? 本当!? そんなことで許してくれるのぉ? よぅし、僕頑張る!! ……あれ? 今死ねって……え?」
「ラブ公。どんなことがあっても、十秒その場所から一歩も動かずに尻を振りきったらという条件だよ? いいかい?」
「う、うん!! 僕どんなことがあっても動かないっ!!」
「ラ、ラブ公……お前……」
ラブ公は腰(?)に手を当て、西京の方へ尻を突き出した。
「ウルフさん、見てて! 僕頑張るからね!!」
そしてラブ公は勢いよく、プリプリと左右に尻を振り始めた。
「ふんふんふんふんっっ!! 西京! こ、これでいいの?」
「そうだね。いいかい? 十秒だよ? それ、パイロキネシス」
ラブ公の足元の地面が熱により徐々に輝きを伴い赤くなっていく。
「あっっっっっ!? あつ、あーーーーーー!! 熱いっ!! 熱いよぅ!! ふんふんっあーーーーー!!」
通常であれば触れた瞬間に、反射的に体が反応してしまいそうな温度に達している地面の上で、ラブ公は痛みに耐えながら必死に高速で尻を振った。
「あーーーーーーーーーっっっ!! ふんふんふんふんっ! ま、まだぁ!? もうとっくに十秒すぎたでしょ!? ね、ねぇ!!」
西京は、尻を振るラブ公を見つめるウルフへと向き直った。
「さて、ウルフ君。同行は許可しよう」
「え!? ほ、ほんまでっか!? せやかてラブ公──」
「ただし」
自分の言葉を遮るように西京の言葉がかぶせられた。何か条件があるのだ。ウルフは生唾を飲んだ。
「我々はテレポートで地上へ上がる。そしてンダディ君とムッシュ君とはそこで別れることになるだろう。私達も再び旅立つよ。君は自分の足で私達についてきなさい。待ったりはしない。いいね? 追いつくことが出来たら改めて同行を認める。それが条件さ」
ウルフは再び泣きながら尻を振るラブ公へ視線を送る。そして両目を閉じ考え込んだ。
「……分かりました!! ワシ、その条件飲みますっ!! 絶対に追いつきまっさかい!!」
「ふふ、いいだろう。では期待しているよ」
「あーーーーーーーーーーあああああーーああーーあーーーーーーっっっっっっ!! ぜ、絶対十秒過ぎてるよ!? ねぇ、ねぇ!! ふんふんふんふんふんふんっっあーーーー!」
「クレアエンパシー」
ラブ公の体がぼんやりと光を放ち、尻を乱暴に振っていた勢いで体勢を崩し、地面に尻餅をついてしまった。
「ふぁ……あれ? ぼ、ぼく……あ、あつーーーーーーーーーーーーぅぅぅぅっっっっ!! あ、あーーーーーー!! 何これ!! なんでっ!? あーーーーーーー」
「ラブ公、ワシも絶対旅についていくさかいな! 待っててくれや!」
ラブ公は横転し熱い地面から逃れ、尻を押えながらジタジタしていた。そして西京のサイコキネシスにより強制的にチョンカ達のもとへ連れて行かれてしまった。
「……絶対、追いついたるさかいな……!!」
「パパ……本当に行くの?」
次の日の朝、旅立つダディとムッシュを見送る為に、チョンカ達はシャルロット達の家の前にいた。
ムッシュは若い頃の服を引っ張り出して身に着けているが、ダディはよれよれの全身タイツのままであった。
「シャル……すまんな……パパはどうしても、ダディと旅立ちたいんだ。それに心配事がなくなったからね」
ムッシュは西京の方を見てそう言った。心配事とはシャルロットのことであろう。
「ふふ、シャルロット君のことは任せてくれていいよ。立派なエスパーになってくれるはずさ」
「西京さん、本当になんと礼を言っていいやら……」
「本当であるな……世話になったな……西京殿」
「ふふ、構わないさ。楽しかったしね。それにこの子達もいい経験が出来たと思うよ」
西京はチョンカとシャルロットの頭を撫でてやる。二人ともくすぐったそうにしているが嫌がる様子はない。それを見てムッシュは、やはり西京になら任せてもいいと思ったのだ。
「シャル、勝手なパパを許してくれ……なに、パパもシャルと同じくらい若返ったんだ! 互いに旅が終わればずっと一緒さ」
「パパ……パパ……パ……う、うわああああああーーーーーーんっ!!」
とうとうシャルロットは泣き出してしまい、ムッシュの胸に飛び込んだ。ムッシュは優しく撫でてやる。愛しい妻と自分の愛娘の頭を。
「おっさん、もうおしっこ我慢しちゃいけんよ? っていうか色々我慢しちゃいけんけぇね!!」
「ガーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!! チョンカ嬢よ、既に便意は我慢しているであるな!! それに、我慢はいいぞ? チョンカ嬢も何かを我慢してみるであるな!!」
チョンカは呆れたように少し笑う。どうしようもない人だなと、そう思うがどうしても嫌いになれなかった。
「ムッシュよ!! して、どこへ行こうというのであるな!? 昨日なにやら思いついたと言っておったが?」
「ああ、そうだな。西京さん、俺達はこれから南の方へ行こうと思います」
「ふむ。なるほどね」
「な、なんと!! 南であるか!? き、貴様もしや!!」
満足いくまで撫でた後、最後にシャルロットの頭をポンポンと撫でてからムッシュは立ち上がりダディのほうへ向き直った。
「お前の奥さんと娘さんを紹介しろ。その後ここに戻って調査の続きだ!」
「い、いかんっ!! それはいかんぞ!! ワシはもう家に戻る気は──」
「ダディ、駄目だ。……一緒に謝ってやる……俺たちの夢を追うのはそれからだ。……もう一回やり直しに行くぞ」
「ム……ムッシュ……」
ダディは頭を垂れた。ムッシュの押しに負けてしまったのである。
こうと決めたらてこでも動かない、頑固なムッシュの性格を思い出したのだ。
「それじゃあ西京さん、チョンカちゃん、ラブ公君! また会おう!! シャル、みんなに迷惑をかけるんじゃないぞ!!」
「ガーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!! また会おうぞ!! ぶるるるるるるるるる!!」
「シャルのお父さんも、おっさんも元気でね!! シャルのことはうちに任せてやーー!!」
長年住み慣れた家を出て、昔の友と二人で、ムッシュは旅立っていった。
チョンカはラブ公と共に飛び跳ねながら大きく手を振った。
そして隣で涙を流しながら自分の服の端をつまむシャルロットを見て思ったのだ。
いつかあの二人のように、もっともっと絆の強い友達になりたいなと。




