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エスパーチョンカ!  作者: ちぇり
第4章
76/109

19

 チョンカ達と別れた西京達は、ウルフのスクリューによって快適な海の旅を楽しんでいた。



「おや? 魚影が見えるね。ダディ君、ムッシュ君! そろそろ起きた方がいい。面白いことが起きそうだよ?」


「ンガーーーーーーーーーーフィィィィ……ンガーーーーーーーーーーーーフィィィィィ……ンガッ!! お、西京殿……」


「ん……あひ、あっひーーーーーーーーーーー!! こら!! 乳首はやめなさ……いっつ!!」



 大人たちは、のそりと起きだした。とても子供達には見せられない姿で。



「ガーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!! よく寝たであるな!! お? 本当であるな! ようやく魚達の姿が見えたわい!!」



 水路の先を埋め尽くすように魚影が見える。その数はもはや数えることも出来ぬほどであった。その先に、青い世界が広がっているのが微かに見えた。



「ふむ、どうやらここが水路の終着点のようだね。魚影の先は見えにくいが恐らく海だろう」


「ガーーーーーーーッハッハッハ!! 魚が邪魔であるが……海の中とは!! 長生きをするものであるな!! ムッシュよ、震えておるではないか!!」


「あ、ああ……やっと今自分がどこにいるのか実感があふぅあ!! 実感が湧いてきた……」


「さて、まずは目の前の魚たちを何とかしようか」


「に、西京はん!!」



 西京達の船であるサイコガードのスピードが落ちる。後方で動力源をやっているウルフから声がかかった。



「このまま突っ込むんでっか!? さすがに殺されまっせ!?」


「何、大丈夫さ。私のサイコガードは破れないよ。構わないから今のスピードのまま突っ込みなさい」


「へ、へぃ!」


「仮に殺されるとしてもサイコガードの外にいる君だけさ」



 最後の西京の独り言が聞き取れなかったウルフはそのままのスピードを維持しつつ、槍を構えて海のほうを睨んでいる魚達の群れへ突撃する。



「うおっ!! なんじゃこの球は!!」


「なんやこら! やんのかボケが!! なんやこいつは!!」


「ベースの方から来よったぞ!? あ、おいコラ! 待たんかいやっ!!」


「ひっ!! 裸のおっさんと全身タイツのおっさんと葉っぱつけたリス!?」



 それが西京であることは、誰も分からない。

 西京にこき使われたおさかなちゃんたちは、全員が西京のサイコシャドウの餌食となっているのだ。当然全員が初見である。



「ふむ、なるほど。やはり第五おさかなちゃんパラダイスが戦闘を仕掛けてきているようだね。ベースと彼らは呼んでいるが、第六おさかなちゃんパラダイスのほとんどの兵士がここに集結しているようだよ」



 西京は通り過ぎる魚たちにクレアエンパシーをかけ、いち早く情報を手にしていた。



「ガーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!! これから海で戦争が行われるのであるな!! 血が沸くであるな!!ガハッ!!」



 再度のダディの吐血であった。赤黒い血がサイコガードを通り抜け海の水ににじんでいった。



「ダディ、あまり興奮するな。もう少しだからな。あふんっ!」



 幾匹もの魚に体当たりをしつつ、サイコガードはとうとう海へ出た。

 通ってきた道が、サイコガードの体当たりに巻き込まれた魚達の血で赤く染まっていた。







「ね、姉さん!! 後方からなんや訳分からんもんが来まっせ!!」


「なんや? ウチは今忙しいんやっ!! おうこら磯っぺ!! お前人のもん奪いに来るとはホンマにゲスいことが好きなやっちゃな!!」



 珊瑚姫は千を越える魚の兵士を引き連れ、同じほどの数の兵士と睨みあっていた。その兵士の先頭に立つのは同じく人魚の男であった。

 磯っぺと呼ばれたその男は、珊瑚姫の言葉に口角を吊り上げた。



「ゲスいとは御挨拶やんけ。黒あわびはなぁ、まだ誰のもんでもないんや! 今はまだこの海のもん……それを返事も待たずに第六が独り占めしようっちゅーんやから、お前ら攻められても文句は言えんやろ? 前々から気に入らんかったんじゃ……今日は本気で叩かせてもらうで? ここがワシの領地になったら黒あわびはワシのもんじゃ!!」


「はんっ! 本音が出まくりやんけ!! 見つかった黒あわびは協定通り、見つけただけでなんも手ぇつけとらへんわ! まだウチらのベースには入れてへん!! 報告の義務があるから報告したけど……今度からほんまに黙っとかなあかんな……こんなゲスがおるとは思わんかったで!」



 海の秘法、百薬の長『黒あわび』はその貴重さ故に海に住まう物達の間で協定が結ばれていた。

 世界に十二あるおさかなちゃんパラダイスにはそれぞれ領海がある。つまりこの世界の海は彼らによって十二分割されているのだ。

 黒あわびを発見した場合、それを協議会へ報告しなければならない。

 協議会はそれを確認し、発見された領海を所有するおさかなちゃんパラダイスへ与えることとなっている。


 協議会が与えるまでは黒あわびの所有権は協議会が持っている。

 今回発見された黒あわびは協議会に報告し、現在その回答待ちの状態であった。



「あーん? 何フカシこいとんのじゃボケコラ!! 俺の部下がなぁ、お前らが黒あわびを運び入れるのを見とるんじゃ!! とぼけんのもええ加減にさらせやコラァ!!」


「はあぁぁぁ!? どこにそんな証拠があるんじゃボケが!! 証拠見せぇや!!」



 磯っぺの背後に部下の魚が近寄り、何かを耳打ちする。



「兄さん……で……あ……」


「……ちっ! 何しとんねん、あのゴミが!!」



 密談を終え、磯っぺは再び珊瑚姫のほうへ向き直る。



「証拠なんてもうええわ。ワシが聞いたんじゃ。それで十分じゃ!! お前ら滅ぼしたる!!」


「お前! ベース壊したら海がどうなるか知っとるんやろ!!」


「ギャーーーーーッハッハ!! お前そんな与太話信じとるんか!? アホとちゃうか? そんなもん知らんわい! お前ら! かかれっ!!」



 珊瑚姫がわざわざ海に出て第五の兵士を迎えていたのには、昨日チョンカ達に話した理由があった。海水の温度を保つ為にこの施設があるという話を珊瑚姫は信じていたのだ。


 第六、第五の両軍がまさに合間見えよとした、その瞬間のことであった。






「双方とも、待ちなさい」





「な、なんやあの球は!? ま、まぶしいやんけっ!」


「あ、あれは……リスと全身タイツのおっさん!?」



 第六と第五の頭上に彼らは陣取っていた。

 海面から届く日光を反射しているのか、それにては光が強すぎるが、その球は神々しい光に包まれながらゆっくりと双方の間に降臨した。

 両軍共に、突然の介入者に突撃姿勢を解き、口を開けながら頭上を見上げていた。



「ま、まさか援軍に来てくれたんかっ!? 助かったで!!」


「お、お前ら!! エスパーを雇いおったんか!? 反則やんけ!!」


「はぁーん?? ウチらは知らんでぇ? あんな奴ら初めて見たわ」


「お前今援軍ゆうとったやないけぇ!! コラァ!!」



 いがみ合う珊瑚姫と磯っぺの間の海水に、上から下へ、目にも止まらぬ速さで何かが通り過ぎた。

 ライン状に形成された無数の細かい泡がそれを物語っていた。

 その不思議な泡を不審に思い、近付いた兵隊が泡に触れる前に息絶えてしまう。



「人の話を聞くものだよ? 命が惜しければなおのことさ」


「ガーーーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!! 魚どもよ、醜い争いはやめよ!! ぶるるるるるる!!」


「人の世も魚の世も同じだな。あっひーーーんっ! わ、若かりし頃の俺なら止めていたかもしれないが、今は目的があってな! 好きにさせてもらう!!」


「な、なんや、えらいところに来てしもうたで……ワシ、無事に帰れるんやろか……」



 魚たちは動くことが出来なかった。両軍のトップ共にあっけに取られてしまっているのだ。武器を構えてはいるがどうすることもできず、指示を待っていた。



「珊瑚姫君、我々に黒あわびを譲ってはくれないかな?」


「……なっ!! なんやて!? 黒あわびやて??」



 話を切り出した西京の言葉に、更に珊瑚姫は驚いた。

 彼らの要求は唯一つ、ラブ公の身柄の確保であったと記憶していたからだ。



「おぅこらリス!! 何勝手なことをほざいとるんじゃ!! 突然出てきよってからに!! お前らは一体なんなんじゃ!?」


「ふむ。私は西京といってね。旅のエスパーさ。武装は解かなくていいが、私の命令を聞きなさい。命を繋ぎたいのであればね。さぁ、珊瑚姫君。どうするね?」



 珊瑚姫は動くことが出来なかった。

 昨日西京の力の一端を見ていたからだ。

 しかし磯っぺは違う。



「何なめたことぬかしとるんじゃコラ!! お前珊瑚姫に雇われとるんとちゃうんかい!? 黒あわびが欲しいゆぅんはどういうこっちゃ!? コラ!!」


「そ、そや!! なんであんたらに黒あわびをやらなあかんねんな!! どうゆうつもりやねん!!」



 二人は魚たち共通の独特の口調で西京を問い詰めた。そして二人は見たのだ。

 西京達を包むサイコガードの後ろに黒いオーラが立ち上ったのを。



「命は……とても儚い……吹けば消える蝋燭の火のように……ふふ、君たちは戦場にいながら、それを分かっていないようだ。どうやら君たちは互いに兵隊という武力を以って睨み合っているようだね」



「あ……?」


「そ、それがなんやねんな……」



「いや? それを失う可能性を少しだけ見せれば話し合いの席についてくれるかと思ってね。海中では使えないと思っていたが先程違う使い方を思いついてね……うまくいったので君達にプレゼントしよう」



 西京の左手がまばゆい光を纏った。その光にその場にいた全員が防御姿勢をとる。エスパーの攻撃がくることは誰の目にも明らかであった。



 サイコガードの中で西京のマフラーがはためいた。



「パイロキネシス」






 揺れた。


 確かに揺れた。


 海中でありながらその場の全員が揺れを感じたのだ。


 ボコンという空気が漏れ出るような音と共に、両軍の前線にいた兵士を巻き込む形で円形状に幾億の大小の泡が突然発生した。


 泡は漏れ出た空気などではない。西京のパイロキネシスによって沸騰、蒸発したことにより発生した気泡であった。

 凄まじい熱量が海水を部分的に、兵士もろとも沸騰させたのである。



「う、うおっ!! なんやこれ! あ、あつっ! 退避!! 退避ぃぃぃぃ!!」


「あ、あかん!! これは……う、うそやろ!? こんなことが……!!」



 焼け焦げるといった表現は正しくない。ここは海中、水の中である。

 不幸にも巻き込まれた両軍の魚兵士たちは、成す術もなく煮えくり返り次々と腹を向け、持っていた武器と共に海面へ浮かび上がっていく。



「に、西京さん……すさまじいな……これがエスパーか……うっほうほ!!」


「ガーーーーーーーーーッハッハッハッハ!! 相手の命を奪いに戦場に赴いたのだ。自身の命を失う覚悟など出来ている者たちばかりであろう!!」


「ワ、ワシ……もう逃げさせてもろうてもええやろか? に、西京はん!」


「ダメだよ」



 両軍とも前衛が総崩れとなり、後ろで見ていた者の中には逃走する者たちも見られた。珊瑚姫も磯っぺも乱れた態勢を整えることを忘れてしまうほどに、その心中は恐怖で染めあげられていた。


 一目見て理解したのだ。

 西京が使用したパイロキネシスは唐突に、しかも防ぎようがないのだ。さらには西京の言葉を考えれば規模は意図的に抑えられていると見るべきである。そしてその西京達を包むサイコガード、あれを破ることも恐らくは不可能と見るべきだ。そうでなければ両軍合わせて二千を越す兵士の前に堂々と出てきたりはしない。


 二人ともが、そしてその後ろに控える兵士たちのほとんどが、この一瞬の出来事に戦慄を覚えていた。



「さて……」



 西京の言葉に耳を傾けない者など、その場にはもういなかった。

 聞き漏らせば命が失われかねない。



「それでは二人とも、黒あわびについての話を続けようか。今度は我々も参加させてくれるかな? 平和的に話し合いをしようじゃないか」



 銃口を頭に突きつけれらながら行う話し合いを、果たして話し合いと言うのであろうか──

 大人達のフィーバータイムは始まったばかりであった。

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