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吸血鬼には白い百合の花を!  作者: 夕風清涼
19/20

♢追われる側から追う側へ!3

夕暮れの御堂筋、行き交う人々…夏休みを満喫する学生達…さすが淀屋橋…周りは人!…人!…人!!


「あ………あの…沙也架ちゃんから変身どうぞ…」


「えっ?…いえいえ、京子先輩からモードチェンジしてください!…」


「こういう時は人生の先輩を立てて、先にカッパーウーマンに変身するのが礼儀やと思うよ…」


やっぱり女の子なんだもん!こんな人通り多い場所で合羽を着るのは勇気がいるのよ!それも、漁港でもない大都会のど真ん中で……。


「HEY!どちらが先でもいいから、早く合羽を着用してくれるかい?OK?」


私たちの譲り合い精神を合羽ルックで腕組をして眺めていたケンさんがしびれを切らして口火を切る、その姿はまるで<本日獲れ立ての鯛がお勧めだよ!>の魚屋のおじさんにしか見えなかった。


「じゃ…沙也架ちゃん…一緒に変身しよか??…」


「う…うん…」


「ほ…ほんまに一緒にやで!…ただでさえこのジャージ目立ってるのに!!うち一人で着てしもたら、裏切り者!!って大声で泣くで!!」


「そんな情けないことしないよ~~~~…」


私と京子ちゃんは合羽を広げてジャージのまま作業合羽に足を通していく、♪グニュ、グニュ!とゴムの擦れる音が響き近くの歩行者が私と京子ちゃんに視線を向ける、それだけで顔から火が出そうに恥ずかしい……。


《おい!、なんかあの()ら見るからに暑そうやね!…これから道路の溝掃除かな?》


《えっ?……ほんまや!……今は溝掃除のバイトも女の子がするのかしら?…よほど時給がいいのかな?……》


《じゃさ、お前もやってみれば??》


《え~~~!嫌や!あんな格好してまでお金欲しくないわぁ~~!》


なんだか私と京子ちゃんの背後でカップルの会話が勝手に耳に入ってくる!…どうせ楽しいデートの途中に私と京子ちゃんを見つけて話のネタにしたのだろう!


「沙也架ちゃん…………泣いていい??……」


「私も……泣きたいような…………」


あの2人には私達は常にお金に困ってる可哀想な女子だと思われてしまったようだ……ほんの数時間前はあの2人なんか絶対泊まれない高級ホテルのロイヤルスイートルームに居てたなんて、悔しくて偉そうに言っても信じてくれないだろうな…。


「OK!!沙也架も京子も準備が出来たようだね!…Verygoodだ!!」


(こ…このスタイルのどこが……goodなの?……)


「いいかい?この合羽は水には強いが、少し重くて動きが鈍くなる、すぐにアイテムを出せるようにしておく事が大事だからね!…では、レッツゴー!!」


♪ボシュッ……ボシュッ……ボシュッ!!


私達3人は合羽のゴムが擦れる音を響かせて地下鉄の出入口を降りていく、私の前を歩くケンさんは、堂々とこれからの厳しい闘いに備えて気合いを入れているように見える。


「ねえ、京子ちゃん!なんだかケンさんの後ろ姿、海に立ち向かう漁師さんみたいに勇ましいね!」


ゆっくり階段を降りながら、ケンさんの勇ましい姿を伝えようと私は後ろで着いてきている京子ちゃんに顔を向けた。


「い!!!……き……京子ちゃん?…………何してるの?…………」


「ふえ?……そんなん決まってるやん!……知り合いにバレないよう変装してるねん!!」


あれだけファッションにこだわっていた京子ちゃんが……タオルを頭から被り鼻先でタオルの端をくくって歩いていた!


「その格好って…………ほとんど泥棒さんだよ…………京子ちゃん?……本業忘れてないよね?…………」


「忘れてなんかないわ!…でもな、こんな格好して顔までも出してたら恥ずかしいやん!……それに淀屋橋界隈はうちの大学時代の友人の職場も多いし、こうでもせんとバレてしまうから!…」


まぁ…素顔が可愛いからこのファッションじゃ辛いわよね……でも……


「でも、ほら!お仕事なんだから、知り合いにバレても解ってくれるよ♪…それに……さっきよりも周りの視線が強くなってると思うし……」


1人は顔を出した合羽ルックの女子、もう1人は合羽姿の外国人、最後の1人は合羽姿でタオルを頭から被った変な女……。


(ここは……大阪なのよね…………もしかしてお笑い芸人だと見られてる?……)


「沙也架ちゃん、うちの同期の連中舐めたらあかんで!……万が一うちがこんな格好してるのバレたら、即!SNSでビュン!とひとっ飛びで、明日には可愛い学園アイドルやった京子ちゃんからジャージ合羽の京子に陥落や!解る?この悲しみ!……」


「…………解んない……私……学園アイドルなった事もないし……」


もう好きにさせておけばいい…私はケンさんに続いて階段を降りた……なるほど、京子ちゃんの言う通りだ、階段を降りたら賑やかな地下街に大勢の人々が縦横無尽に通りを行き交っている…そんな中、珈琲店の香りに混じり何処からともなく焼き鳥の焼く匂いもしてくる、やや空きっ腹の私と京子ちゃんには堪える環境だ。


(う~~ん……これはヤバいくらいお腹にくるわ……ホテルじゃサラダだけで後は蒸しパンだけだったし……)


《ねえ?ねえ?…由香?……あの()京子じゃない?》


《えっ?…どこ?……》


《ほら、あの魚屋さんみたいな合羽を着てタオル被ってる()!!》


どうやら京子ちゃんの容姿を見て誰かが気付いたようだ、いかにも京子ちゃんと年齢が近いOL風の女性2人が私と京子ちゃんに近づいて来た。


(う!!……嘘!!………これってお約束?………ほんとに京子ちゃんが言った事になっちゃったよ!!どうする?京子ちゃん!!)


やはり京子ちゃんにもその声が聞こえたようだ、何も知らない素振りはしていても、顔を伏せてそっと私の影に隠れた事で[私は京子です!]ってばらしてるようなもんだよ。


(もう、余計にバレちゃうよ!!)


《ねえ?ねえ?…京子?……私、由香だよ♪…久しぶりに見たら何面白い事してるん?……警察クビになってお笑い芸人になるの?……アハハ♪…似合ってるよ、京子♪……》


(ちょっと、酷いんじゃない!その言い方!!)


「ワタチ、キョウコ、チガウアル……ニホンゴ、ワカラナイネ…アナタ、チラナイネ!……バイバイアルヨ……」


(京子ちゃん!!それじゃ火に油だよ!!)


「アハハハハ♪やっぱ京子じゃん!!もう、学祭の時にいつもやってたネタでしょ!ワタチ、チュウゴクワ、ヒロチマノウマレ!……アハハ♪で!どうしたん?そんな変な格好して?…アハハ♪ウケるぅ~~!」


「え……その…………し…………」


顔を赤くしてよほどこの姿で同期生と会ってしまったのが恥ずかしいのか、京子ちゃんは言葉を出せない様子だった。


(もう!ちょっとムカついた!これから京子ちゃんは命懸けの任務に就くのに!!…代わりに私が言ってやるわ!!)


「Hello、お嬢さん達、私の友人の京子に何かご用てすか?…京子はこれから任務で夏祭りのイベントに参加するんだよ♪夏休み期間は水の事故が多いからね!…子供達に水の事故はとても怖いと《水の戦士カッパ~ガール》に変身して教えてあげるんだよ、カッパ~ガールの正体はSecretだから、今から顔を隠して移動してるんだよ!…誰が目撃してるか解らないからね!……これも大切な仕事だよ!…以前、私の祖国ルーマニアに訪問した時もカッパ~ガールは大人気だった!…その人気が今はアメリカにも飛んで今度はアメリカに表敬訪問する予定さ!アメリカ大統領も楽しみにしてるんだよ!」


「何言ってるの?おじさん?そんな嘘!誰が信じるの?……」


「本当だよ、今の大統領は私の友人でね……ほら、私と写真に写ってるだろ?……それと、ハリウッド映画のスポンサーになった時に友人達との夕食会の写真もあるよ!……ほら!…」


さりげなくケンさんはポケットからスマホを取り出して写真を見せている、ついつい私も彼女らと一緒にスマホを覗く。


「うっそ!!マジ!!……超スーパースターばかりやん!!おじさんハリウッド映画のスポンサーしてたん?…」


「はは♪今でもそうさ!……去年ヒットした《ニューヨークに粉雪が舞う》はメインスポンサーだったよ!…監督も脚本家も出演者も私が選んだのさ……」


ケンさんは普通にスマホの写真を見せてるが被写体がとんでもない人ばかりと写っている、どの写真にもケンさんが写っているから信じるしかないだろう。


「あの映画!!うっそ!!……マジ私……号泣したわ!……」


「私なんか5回も観に行ったよ!!ラストは涙でスクリーンが見えなかった!!」


「これで解ってくれたかい?……京子は別に恥ずかしいから顔を隠してないという事を…これも私のideaなんだ!子供達の憧れのHEROの正体を暴いてはみんなが悲しがるからね♪」


「そうだったんですか……知らなかったとはいえ、京子に失礼な事をしちゃって…………ごめんなさい京……いえ、カッパ~ガール!……任務頑張ってね!応援してるから!……また、連絡してね♪」


やっぱ、ケンさんは凄い!!セレブパワーは普通のOLごとき目じゃないわね!!なんかスッキリしちゃった♪♪でも、私もあの映画好きなのよね……私も映画館で号泣した一人です!。


「ふぅ~~~~……何とか誤魔化せて良かったね♪京子ちゃん……」


「…………………………」


「京子ちゃん?……」


「うち…いつルーマニアに行ったんやろ?…………今度はアメリカ行くの?……それも…こんなコスチュームで大統領と握手して…その写真がニューヨークタイムズにデカデカと載って……世界中にうちはカッパ~ガールで売れてしまうんや…………学園アイドルから…世界のカッパ~ガールになるとは……本部長もうちも首が飛ぶかな?…………」


「だ……大丈夫だよ、京子ちゃん!…ケンさんのその場しのぎのジョークだって!……そ、それにさ!エディ―○ーフィーやジム○ャリーもお笑い出身からスーパースターになったんだし!…カッパ~ガールが人気出たら年収1000万どころじゃないかも知れないよ♪」


「沙也架ちゃん…どうしてもうちをカッパ~ガールにしたいように思えるんやけど…………」


空腹と、いつしかカッパ~ガールになってしまった京子ちゃんは、私が見る限りでも《大阪府警のメスライオン》に変わりつつあった。


「まぁ、まぁ、京子!カッパ~ガールはここまでにしておいて、先を急ごう!京子もこれ以上知り合いに会いたくないだろ?」


私達は改札口前で待機していた駅員さんに案内され、乗客の視線をもろに受けながらプラットホームの端から降りて暗い場内へと歩き出していく、次第に辺りが暗くなるにつれてケンさんも京子ちゃんも無口になっていった。


(やっぱり京子ちゃん……さっきまでと雰囲気が一変した……警察官モードに切り替わってる!!)


トンネルに入った瞬間、京子ちゃんはおちゃらけた頭のタオルを外し、片方だけ編んだ髪をさっと右手で背中の後ろに流した!


(京子ちゃん……私も……頑張るよ!…絶対守ってあげるからね!)




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