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俺(40歳成人男性)が魔法少女に?!  作者: 桃地公多浪


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第10話 暴走モード


 「おはようございます」

 相変わらず、返事のないオフィス。

 今日も出社前に舞ちゃんと悪魔退治をした。大した敵ではなかったから、そんなに時間は取られなかったが、日に日に魔力の低下を感じる。

 こんなことでは、魔法少女そのものになるという俺の夢は叶わない。

 危機感はあった。しかし、それと同時に、俺には希望もあった。

 舞ちゃんだ。俺には百合趣味もないし、部長のような女装癖もなかった。男として魔法少女を好きになって、応援してきたんだ。

 こうなった身だからこそ、今までの人生を変える意味においても、可愛い魔法少女の女の子になることを望んだ。

 一時の間違いで、そういう感情も抱いたことはある。が、本当の部分はただの魔法少女が好きなアニメオタクで、1人の男だ。幻覚と思って、安易に契約した、愚かな40歳成人男性だ。 


「田中君。少しいいかい?」


 部長が後ろから話しかけてきた。

 今日も朝から部長室行きだ。


「どうかしましたか?」


 当初は部長室に入ると緊張したものだが、今は違う。慣れた俺の態度を見てか、部長は眉をひそめた。


「最近、どうも君の魔力が落ちているな。何かあったのかい?」

「そうですか? あまり、自分には分かりません。特に何もないのですが」


 部長に見破られていたことに驚く。

 いや、淫獣がまた告げ口をしたに違いない。

 

「何かあるなら話してくれ。我々は仲間だ。似た者同士、協力し合おう」


 俺と部長は似た者同士ではない。俺には女装癖もないし、それでどうにかされたいもない。

 部長に親しんでもらえるのは嬉しいし、頼もしい。仕事としても、魔法少女としても、部長は俺よりも能力がある。そんな人に認められて、頼られれば、もっと頑張ろうと思える。俺の自己肯定感も上がる。

 ただ、本当の部長を知ってから、部長が何を思って言葉を発しているのかを考えると、途端に薄っぺらさを覚えてならなかった。


「悩みでもあるんじゃないか? んー?」


 部長は俺の横に座って、顔をのぞく。

 はずらかす俺に、部長はさらに追い討ちをかけてきる。

 妙な汗が、背中を流れた。

 

「い、いえ……」


 俺が顔を逸らした、その瞬間。

 部長が鬼の形相になった。いつも冷静で、穏やかで、マイナスの感情を表に出さない部長が、声を荒げる。


「嘘だ!! 君は私に隠している! 知っているぞ! 今日も戦ってきたんだろう」

 

 俺の驚いた顔を見て、「ほらね」と部長は続ける。


「女の子と一緒に戦って、君がだいたいフォローしたんだろう。私に隠して」

「隠していたわけでは……」

 

 部長の肩から、猫の淫獣が顔を見せる。

 またお前か。こいつは俺を監視でもしているのか。何のために? 部長の命令? だとしたら、部長は何のために? 


「なぜ私を呼ばない。私なら一撃だ」

「私で十分倒せると思ったからです。それに、それでは彼女のトレーニングにならない」

「なぜ、私にあの子のことを黙っていた」 


 部長の眼光が鋭くなる。舞ちゃんの話に触れると、刺すような眼差しになる。

 敵視、とは違う。

 俺を見る部長の目は、取り調べをする警察のそれだった。

 俺が何かを隠している。嘘をついている。それを見破らんとする疑いの目。


「そのうちご紹介しようと思いましたが、彼女はまだ中学生なので、なかなか部長と時間が合わなかったんです」


 機会があっても、俺は会わせるつもりはなかった。体のいい言葉だけを並べて逃げようとしたが、部長はそれを許さない。

 俺の物言いが気に入らなかったのか、また声を荒げる。


「私のせいか! 私のせいと言いたいのか?」

「いや、そんな風には……」


 部長室とはいえ、そこまで防音性は高くない。あまり大声を出せば、オフィスに響いてしまう。

 それでも、部長はお構いなしに続けた。

 

「嘘はやめたまえ、田中君。なら、今から魔法少女同士、顔を見せ合いにいこうではないか。ちょうど敵も現れているようだ。3人で共闘しよう」

「いや、ですので……彼女は学校に――」

「田中君! 我々は魔法少女だ! 宇宙を守る使命があるんだ! そんな意識では困るよ!!」


 やはり俺の直感は正しかったんだと思った。この様子では、舞ちゃんと会わせてもいいことにはならない。部長のほうこそ、嘘はやめたほうがいい。その言葉が喉から上がってきて、寸前で止まった。

 ここで喧嘩になったら、おそらくオフィス全部が破壊される。


「彼女も覚悟があって魔法少女になったんだろう! 我々と同じ! なら、何も困ることはないはずだ!」


 そう言って、部長は立ち上がった。


「君が彼女を呼ばないのなら、私が迎えにいく! どこの学校なのかも分かっているからね!」

「部長!!」


 部長は窓を破り、そこから身を乗り出した。

 ここは6階。普通の人間なら、飛び降りたら死ぬ高さだ。しかし、部長は違う。

 俺の制止を聞かず、部長は窓から飛び降りた。

 後に続いて窓から外をのぞくと、部長は落下しながら魔法少女に変身し、杖にまたがって空に消えていった。

 変身の際の発光に目がくらんでいる間に、俺は部長を見失った。


「まずい、まずいぞ」


 何がまずいかは分からないが、とにかく放っておくわけにはいかなかった。

 騒音を聞いて、社員が部長室に流れ込む。

 

「何事ですか! 窓が割れてるじゃないですか!」

「田中さん! 今度は何ですか!」


 皆、俺が部長をどうにかしたと思っているらしい。無理もない。

 皆が俺に持っていた溜まりに溜まった不信感が、この状況をみて確信に変わる。

 しかし、今更弁明しようとも思わない。俺はこの会社での信頼や地位は、とっくに失っているのだから。

 俺は静かに、皆をなだめるように、割れた窓を背にして口を開いた。


「皆さん、部長が窓から出ていってしまったので、私はそれを追いかけます。今日はノンリターンでお願いします」

「何言って――」


 そして、俺は魔法少女に変身した。

 この会社では2度目だ。今度は自部署の人間の前で、部長室で、俺はやった。

 その姿を見て、やはり皆は絶句する。

 破れ散った俺のビジネススーツが、窓から入ってくる風のせいで、花びらのように舞った。


「いってきます」


 外出する際の口調で、俺は皆から背を向け、窓から飛び降りた。

 空を飛んだことはない。方法も分からない。が、部長にできたなら、俺にだって――


「田中さんが飛び降りたぞ! 自殺だー!」


 地上から聞こえる4階の悲鳴。

 俺は飛べなかった。そのまま落下して、顔から地面に落ちてしまった。ただ、魔法少女に変身したおかげで、怪我はなかった。

 なぜだ? なぜ飛べない? 杖がないからか? 俺が素手だからか?

 言いたいことは山程あったが、今は時間が惜しい。俺は立ち上がって、そのまま部長を追って走った。目的地なら分かる。

 それは、舞ちゃんのいる中学校。

 今ならまだ間に合うはずだ。

 部長を、止めなくては。




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