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現世で搾取され続けたスピ子さん、異世界では大聖女様になるようです~「ありがとう」と1000回唱えた水が、神代のエリクサーとして認定されました~  作者: ぽてと
【第三章】 科学の帝国と低波動カルトの襲来編

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第25話 クリスタルボウルと地下の邪教団~低波動の呪いには『神聖周波数』を!~

神聖エリュシオン王国の首都、王城の地下深くに広がる広大な大下水道。

日の光が一切届かないそのじめじめとした空間で、松明の赤黒い炎に照らされながら、怪しげなローブを羽織った数十人の集団が円陣を組んでいた。


「おお……深淵の主よ……」

「我らの呼び声に応え、今こそ現世への扉を開き給え……!」


彼らは、王都の暗部で長年暗躍してきた過激派カルト『深淵の教団』の狂信者たちである。

彼らが囲む広場の中央には、おぞましい造形をした巨大なオブジェが鎮座していた。それは、魔獣の骨と得体の知れない肉塊を繋ぎ合わせて造られた『生きた楽器(呪詛のパイプオルガン)』であった。


鍵盤がひとりでに沈み込むたび、パイプから「ゴォォォォ……」「ギェェェェ……」という、この世の者とは思えない怨嗟の叫び声が響き渡る。

ありふれた怨霊や悪霊などを呼び出すような陳腐な術式ではない。この『生きた楽器』が奏でる呪われた旋律は、空間そのものに特異な超常現象(ポルターガイストや重力異常)を引き起こし、次元の壁を物理的に削り取って『魔神』を召喚するための、極めて高度で冒涜的な儀式なのだ。


「フハハハッ! 見ろ、生きた楽器の呪詛によって、空間に亀裂が入り始めたぞ!」

教祖が狂喜の声を上げる。

彼らの足元に描かれた赤黒い魔法陣がドクドクと脈打ち、王都を破滅に導く魔神の腕が、まさに次元の裂け目から這い出そうとした――その時だった。


「ちょっとー! さっきから地下でドンドン、ギィギィって、すっごい騒音なんですけど!」


「「「……は?」」」

教団員たちの詠唱が、ピタリと止まった。


下水道の奥から、片手で鼻をつまみ、もう片方の手でランタンを持った若い女――大聖女・珠子が、ずかずかと足音を立てて歩いてきたのである。

その後ろからは、フリフリのエプロンを着て頭を抱えているアディが、「だからやめろと言ったのに……!」と半泣きでついてきている。


「な、なんだ貴様らは!? ここは我ら深淵の教団の絶対聖域だぞ!」

「聖域っていうか、ただのドブじゃん! それに何なの、あの真ん中にある気持ち悪い骨の塊! そこから出てる音が、もうめちゃくちゃ『波動が低い』んだけど!」

珠子は生きた楽器を指さして、心底嫌そうな顔をした。


「波動が低いだと……!? 愚か者め、これは魔神を呼び覚ますための、究極の呪詛の旋律――」


「音楽っていうのはね、人の心と空間を癒やすためにあるの! あんな、聞いてるだけで頭が痛くなるような不協和音を鳴らしてたら、チャクラが詰まって自律神経がおかしくなっちゃうよ!」

珠子は怒り心頭で、背負っていた大きなリュックをドサリと床に置いた。


アディは壁際に隠れながら、胃薬を噛み砕いていた。

(……まずい。あの骨の楽器が放っているのは、対象の精神を直接破壊する『呪詛の音波』だ。あんなものの直撃を受ければ、並の魔導師なら数秒で発狂するぞ……!)


「ええい、闖入者め! 生きた楽器よ、あの娘を呪いの音色でミンチにしてしまえ!!」

教祖が叫ぶと、生きたパイプオルガンが大きく脈打ち、これまでで最大の「ギガァァァァァァッ!!」という凄まじい衝撃波(呪いの旋律)を珠子に向けて放った。


「うるさーい!! 騒音トラブルにはこれだよ!」

珠子はリュックの中から、乳白色に透き通るすり鉢のような美しい器――『クリスタルボウル』を取り出した。水晶を砕いて高温で焼き固めた、現世のスピリチュアル界隈で使われる音響ヒーリング楽器である。


珠子は専用の革巻きマレット(棒)を手に持ち、ボウルの縁を優しく、しかし真っ直ぐに叩いた。


――カァァァァァァァァン…………!!!!


その瞬間。

地下下水道のじめじめとした空気が、一瞬にして『ピシッ』と凍りついたように静まり返った。


クリスタルボウルから放たれたのは、現世のスピリチュアルで「DNAを修復する奇跡の周波数」と呼ばれる『528ヘルツ』の絶対神聖音波。

それがドーム状に広がり、生きた楽器が放った呪いの衝撃波と真正面から激突した。


パリィィィィィンッ!!!!


「なっ……!?」

教祖の目が飛び出た。

珠子のボウルが奏でる「ただの綺麗な澄んだ音」が空間に響き渡った瞬間、呪詛の音波はあっけなく霧散し、さらにその神聖な共鳴レゾナンスを受けた『生きた楽器』そのものが、まるで薄いガラスでできていたかのように、粉々に砕け散ってしまったのだ。


「バ、バカな……! 我らが十年の歳月と怨念を込めて作り上げた呪いの兵器が、たった一つの音色で粉砕されただと……!?」


壁際のアディは、あまりの光景に膝から崩れ落ちていた。

(……信じられない。水晶の共鳴を利用した、空間そのものの『絶対浄化周波数ホーリー・レゾナンス』……!! 邪悪なマナの波形を完全に相殺するどころか、音波の届く範囲すべての事象を『光属性』へと強制調律チューニングしているというのか!?)


「よし、少し空気が綺麗になったね! じゃあ、仕上げにもう一回鳴らすよー! 空間の邪気を完全にデトックス!」

珠子はマレットで、今度はクリスタルボウルの縁をぐるぐるとこすり始めた。


――フォォォォォォォ…………。


高く、深く、どこまでも澄み切った倍音が、地下空間に反響していく。

その音が魔神を召喚するための魔法陣に触れた瞬間、陣を描いていた赤黒い血の魔力が「シュワァァッ」と音を立てて蒸発し、ただの綺麗な水へと変換されてしまった。

次元の裂け目から出かかっていた魔神の腕は、「アッ、なんか眩しいんで帰ります」と言わんばかりに、スッと裂け目の奥へと引っ込んでいき、そのまま空間のヒビは完全に塞がってしまった。


「あ……ああ……我らの悲願が……」

教祖が絶望の声を上げるが、彼の顔には不思議と怒りはなかった。


クリスタルボウルの神聖な音波を直接浴び続けた教団員たちは、次々とその場にへたり込み、ボロボロと大粒の涙を流し始めていたのだ。


「おお……なんて美しい音だ……。私の淀んでいた魂が、洗われていく……」

「魔神など、もうどうでもいい……。私はただ、この心地よい音色に包まれて、実家の母の味噌汁が飲みたい……」

「争いは虚しい……すべては愛、ワンネス……」


王都を恐怖に陥れるはずだった過激派カルト集団は、数分間の『音響ヒーリング』によって、完全に毒気カルマを抜かれ、全員が悟りを開いた聖者のような顔で合掌し始めてしまった。


「うんうん、みんな良い顔になったね! やっぱり、波動を整えるには音が一番だね!」

珠子は満足げにクリスタルボウルをしまい、リュックを背負い直した。


「さーて、騒音も解決したし、サロンに戻ってお店開けよっと! アディちゃん、帰るよー!」

「……ああ。お前がたった一つの楽器で、国家転覆の危機を『ただの騒音苦情』として解決してしまった事実を、どうやってルークスたち自警団に説明すればいいのか……もう胃薬のストックがないのだが……」


その後、自ら王都の衛兵に「私たちが悪かったです」と涙ながらに出頭してきた教団員たちを見て、王城の騎士団長が混乱のあまり寝込んだというが、珠子は知る由もなかった。


トンデモ・スピリチュアルの圧倒的な「場の浄化力」は、ついに音波兵器にまで到達した。

だが、安息も束の間。

アディの過去の因縁――魔導科学の粋を集めた「帝国」の脅威が、すぐそこまで迫っていたのである。

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