第42話 報酬の紅茶
ポルトゥスに着いたのは、4日後でございましたわ。
4人で城門をくぐりましたの。街の音が戻ってまいりましたわ。石畳の音、露店の声、荷車の音——久しぶりでございますの。クーリエが周囲を少し見渡しておりましたわ。ヴァルターが自然に警戒の目線を動かしておりますの——習慣でございますわ。
セバスチャンが城門の内側で足を止めましたわ。
「私は外で待つ」
「左様でございますか」
「魔王が街を歩くのは、いろいろ面倒だ」
「では、この辺りで」
わたくしはセバスチャンを城門の近くの広場に残しましたわ。ベンチがございましたの。セバスチャンが腕を組んで座りましたわ。絵になりませんでしたの——黒い鎧でございますわ。
「まずマルクスのところへ参りますわ」
「はい」
「……了解しました」
ヴァルターが了解しましたと言いましたの。初めて聞く言葉でございましたわ。わたくしはそれを聞きましたの——何も言いませんでしたわ。
マルクスの屋敷でございますの。
エドワルドが出迎えましたわ。わたくしを見て、クーリエを見て——ヴァルターのところで少し止まりましたの。
「お連れの方が増えましたね」
「道中でご縁がございましたの」
「……左様ですか。今日は3名でいらっしゃいますか」
「ええ」
エドワルドが奥に案内しましたわ。廊下でございますの。窓から中庭が見えましたわ。前と変わっておりませんでしたの——手入れの行き届いた中庭でございますわ。
執務室でございましたの。壁一面の書棚、地図が広げられた机——前と同じでございますわ。マルクス卿が椅子から立ちましたの。
「よくいらっしゃいました」
「お世話になりますわ、マルクス卿」
エドワルドが茶の用意を始めましたわ。カップが3つでございますの——ヴァルターの分まで用意されておりましたわ。事前に人数を知っていた、ということでございますの。さすがでございますわ。
マルクスがヴァルターを見ましたわ。
「ゼルブルクの鎧ですね」
「……はい」
「今は?」
「旅の者です」
マルクスが少し笑いましたの。それ以上は聞きませんでしたわ。
情報をお渡しいたしましたわ。
北東の軍事国家の近況——勇者の動向、軍の動き、周辺の変化でございますの。わたくしが道中で見たものをそのまま申し上げましたわ。マルクス卿が聞きながら、机の上の紙に時折書き込んでおりましたの。
「……なるほど」
「お役に立てましたでしょうか?」
「十分です」
マルクスが立ちましたわ。棚から缶を取り出しましたの——アルヴァニア・インペリアルでございますわ。わたくしの前に置きましたの。
「これはお約束の品です」
「ありがとうございますわ」
缶を受け取りましたわ。重さがございますの——1缶、きちんと入っておりますわ。
エドワルドの用意した茶を飲みましたの。前と同じ茶でございますわ——丁寧な仕事でございますの。
クーリエがカップを両手で持っておりましたわ。ヴァルターが静かに飲んでおりますの。
しばらくして、マルクスが言いましたわ。
「一つ、情報をお渡しできます」
「何でございますか?」
「茶葉の話です」
わたくしはカップを置きましたわ。
「北の街道沿いに——洞窟がございます」
「洞窟でございますか」
「ええ。その中で育つ茶葉があります。光の届かない場所で育ちますので——通常の茶葉とは香りが全く異なります。地元では長らく食用にされてきましたが、茶葉として扱った者はまだほとんどいない」
わたくしは少し考えましたわ。
「洞窟の中で、でございますか」
「はい。ただし——北の街道は今、少し複雑な状況でして」
「複雑、と申しますと?」
マルクスが地図を少し引き寄せましたわ。北の方角を見ましたの。
「魔法使いが一人、洞窟に籠もっております。何年も出てきていない。ただ——最近、街道付近で魔獣の目撃が増えております。洞窟から出てきているようで、商人たちが困っている状況です」
「そうでございますか」
「クラリッサ殿が行くなら、知っておいた方がいいと思いまして」
マルクスが少し笑いましたわ。以前は計算してから出てくる笑いでございましたの——今日は計算より先に出てきておりますわ。
「ご親切にありがとうございますわ、マルクス卿」
「いいえ。次の情報運搬の際にも、よろしくお願いします」
「もちろんでございますわ」
屋敷を出ましたの。
夕方でございましたわ。ポルトゥスの街に灯りが灯り始めておりますの。石畳が夕陽で少し赤くなっておりましたわ。
広場に戻りますと、セバスチャンがベンチに座ったままでございましたの。腕を組んでおりますわ。
「お待たせいたしましたわ、セバス」
「セバスチャンだ。……何があった」
「情報をお渡しして、情報を受け取りましたわ」
「何の情報だ」
「北の洞窟に茶葉があるそうでございますの」
セバスチャンが少し止まりましたわ。
「……北か」
「ええ。明日出発いたしますわ」
セバスチャンが立ち上がりましたの。少し間がございましたわ——何か言いかけて、やめたようでございますの。それから前を向きましたわ。
「……そうか」
クーリエが言いましたの。
「洞窟の茶葉、どんな味ですか?」
「わかりませんわ。行ってみなければ」
「行くんですか?」
「ええ」
クーリエが少し考えましたわ。
「北、ですね」
「ええ」
ヴァルターが街道の先を見ましたの——北の方角でございますわ。それから前を向きましたわ。
「……確認させてください。北の街道は、今夜出発ですか?」
「明日でございますわ。今夜は宿をとりますの」
「了解しました」
4人で石畳を歩きましたわ。
アルヴァニア・インペリアルの缶がわたくしの荷物の中にございますの。洞窟の茶葉は、まだ先でございますわ。
夜風が少し冷たくなっておりましたわ。北の方角から吹いておりますの——そういう気がいたしましたわ。




