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第34話 軍事国家の門前

街道の雰囲気が変わりましたわ。


 荷馬車の数が減りましたの。行商人の姿が見えなくなりましたわ。代わりに、道の要所に兵士の姿がございますの。2人一組で、街道を見ておりましたわ。通り過ぎる者をただ見ている——それだけでございますが、視線の質が違いますわ。品定めではございませんの。排除するかどうかを測っておりますわ。


 道沿いの村を1つ通りましたの。小さな村でございますわ。畑はございましたが、農作業をしている人がおりませんでしたの。井戸の前に老人が1人座っておりましたわ。こちらを見ましたの——すぐに目を逸らしましたわ。逸らし方でございますの。怖いから見ない、ではございませんわ。見なければ関わらずに済む、という逸らし方でございますの。


「物々しいですね」とクーリエが言いましたの。


「勢力圏に入りましたわ」


 ヴァルターが黙って周囲を確認しておりましたの。兵士の数、配置、視線の方向——騎士団にいた方の確認の仕方でございますわ。それから小さく言いましたの。


「装備が揃っています。鎧の状態もいい。練度が高い部隊です」


 少し間を置いてから、続けましたわ。


「……村の人間が、兵士を見ていません」


 検問が見えてまいりましたわ。




 街道を塞ぐ形で、丸太の柵がございましたの。兵士が4人おりましたわ。うち2人が槍を持って正面に立っておりますの。残り2人は少し後ろで、こちらの人数を数えておりましたわ。


「止まれ。通行証を出せ」


 わたくしは封筒を取り出しましたわ。マルクスからいただいた紹介状でございますの。


 兵士が受け取りましたわ。中を確認しておりましたの。それから後ろの2人に渡しましたわ。3人でひそひそと話しておりますの。1人が奥へ走りましたわ。


 少し待ちましたの。


 走っていった兵士が戻ってまいりましたわ。何かを確認してきた様子でございますの。4人がまた話しておりましたわ。


 紹介状が戻ってまいりましたの。


「通っていい。ただし——」


 兵士がわたくしたちを順番に見ましたわ。クーリエを見て、ヴァルターを見て——ヴァルターのところで少し止まりましたの。ゼルブルクの鎧でございますわ。それからわたくしを見ましたの。


「歓迎はしない」


「ご親切に、ありがとうございますわ」


 兵士が少し顔をしかめましたわ。柵が開きましたの。



 検問を抜けた先は、街道が一本道でございましたわ。両側に木々が迫っておりますの。荷馬車がすれ違えるほどの幅はございますが、開けた場所がございませんわ。逃げ場が少ない道でございますの。


 クーリエが小声で言いましたの。


「なんか、見られてる気がします」


「そうでございますわね」


「どこからですか?」


「左の木々の中でございますわ。2人でございますの」


 ヴァルターが前を向いたまま、低く言いましたわ。


「右にも1人います。少し後ろ。木の上です」


 わたくしは歩みを変えませんでしたの。


 正面から来たのは、馬に乗った騎士2人でございましたわ。鎧が揃っておりますの。兜に赤い羽飾りがついておりますわ——先ほどの検問の兵士とは別の、上の階級でございますの。


 馬を止めましたわ。道を塞いでおりますの。


「引き返せ。これ以上進む必要はない」


「そのように判断する根拠がございませんわ」


「我々がそう言っている」


「存じておりますわ。それが根拠にはなりませんの」


 騎士2人が顔を見合わせましたわ。それから同時に剣を抜きましたの。


 言葉より先に動いた方でございますわ——ヴァルターでございましたの。


 背中の大盾を外したのは一瞬でございましたわ。右の騎士の馬の前方、地面に深く刺しましたの。馬が急に止まりましたわ。騎士の体が前に泳ぎましたの——そこに大盾ごと体を押し込みましたわ。騎士が馬から落ちましたの。ヴァルターがその上に膝をつきましたわ。盾で押さえておりますの。動けない状態でございますわ。


 左の騎士が馬を回してヴァルターに向かいましたわ。


「ハンマー、使っていいですか?」


「どうぞ」


 クーリエのハンマーが騎士の側面に向かいましたわ。騎士が咄嗟に盾を上げましたの——ハンマーが盾ごと吹き飛ばしましたわ。騎士が馬から落ちましたの。


 木の上の1人が動きましたわ。


 わたくしはフレアアローを3本、その方向に向けましたの。


「動くと困りますわよ」


 気配が止まりましたわ。ただし——止まっただけでございますの。


 左の木々から2人が出てまいりましたわ。剣を構えておりますの。ヴァルターがまだ地面の騎士を押さえたまま、こちらを見ましたわ。


「クーリエ」


「はい」


 クーリエが槍を上空に4本展開しましたの。2人の真上でございますわ。


 2人が止まりましたの。槍を見上げておりましたわ。それから剣を持ったまま、わたくしを見ましたの。わたくしのフレアアローはまだ木の上に向いておりますわ。


 どちらも動けない状態でございましたの。


 少しの間がございましたわ。


 2人が剣を収めましたの。木の上の気配も動かなくなりましたわ。


 ヴァルターが地面の騎士から離れましたの。騎士が立ち上がりましたわ。こちらを見ておりましたが、剣は拾いませんでしたの。


 静かになりましたわ。




 ヴァルターが盾を背負い直しましたわ。それからわたくしを振り返りましたの。


「……申し訳ありません。確認が遅れました」


「いいえ」


「柵を抜けた後すぐに動くべきでした。木々の配置から——」


「いいえ、ヴァルター」


 ヴァルターが止まりましたわ。


「動き方がわかりましたの」


 ヴァルターが少し間を置きましたわ。


「……評価、ですか」


「観察でございますわ。違いますわよ」


 ヴァルターが、わたくしを見ておりましたの。しばらく、そのままでございましたわ。


「……わかりました」


 クーリエがハンマーを消しながらヴァルターを見ましたの。


「速かったですね」


「……慣れているだけです」


「あの馬の前に刺すやつ、自分で考えたんですか?」


「……訓練で習いました」


「教えてもらえますか?」


 ヴァルターが少し驚いた顔をしましたわ。


「……私でよければ」


 3人で歩き始めましたわ。


 後ろで騎士たちが何か言っておりましたの。聞こえましたわ——「報告する」でございますの。


「報告されますよ」とクーリエが言いましたの。


「存じておりますわ」


「いいんですか?」


「通っているだけでございますわ。報告されて困ることはしておりませんの」


 クーリエが少し考えましたの。


「……また来ますね、誰か」


「そうでございますわね」


 ヴァルターが前を向いたまま、小さく言いましたの。


「……次は、確認が遅れません」


 3人で歩き続けましたわ。

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