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人間は、どこまで堕ちてしまうのだろうか……
そばで撫で慰めてくれる母がいなくなり、
道徳の拠り所となる父もいなくなったとき。
その問いには、
哲学的な答えは必要ないと信じている組織があった。
必要なのは――
実験だ。
その組織に正式な名称はない。
いかなる公開資料にも存在しない。
しかし、その裏に立つ者たちは皆、
一つの冷酷な信念を共有していた。
「父と母が消えたとき、
人間の本性は露わになる」
それを証明するため、
彼らは大規模な実験を計画した。
狙いを定めたのは、
最も影響を受けやすい存在――
高校生だった。
三つの高校が選ばれた。
表向きに発表された理由は、
きわめて単純なものだった。
適応能力を研究するプログラム、
「特別教育プロジェクト」。
しかし、その本質は
まったく別のものだった。
参加する生徒は、
一定期間、家族から切り離される。
連絡不可。
面会不可。
外部からのいかなる介入もない。
生徒たちは、
組織が完全に管理する
閉鎖区域で生活する。
そこで、各生徒は
同姓の人物とペアを組まされる――
自分が最も信頼し、
最も大切に思っている相手と。
二人で一つの小さなグループを形成する。
複数のグループが集まって一つのクラスとなり、
そのクラス同士が、
他校のクラスと直接対峙する。
競争のルールは
完全には公開されなかった。
ただ一つだけ、
確実に告げられたことがある。
生き残りたければ、
適応しろ。
保護者に対して、
組織は重みのある約束を提示した。
実験終了後、
子どもたちは無事な状態で
返還される。
その代わりに、
各家庭には
300,000円
が、子どもの不在に対する
補償として支払われる。
決して小さくない金額。
多くの人が迷い……
そして最終的には、
うなずいてしまうには十分だった。
一方、生徒に対しては、
報酬が率直かつ明確に提示された。
最後まで残った50%:
300,000円
次の30%(卓越した能力を示した者):
600,000円
最優秀の10%:
1,000,000円
最上位1%:
3,000,000円
誰も、
「残る」とは何を意味するのか説明しなかった。
誰も、
「適応」のために
何を代償にするのか語らなかった。
その三校のうちの一つで、
ある朝は、
いつもと変わらぬ日常として過ぎていった。
校内放送が鳴り響くまでは。
「高校一年生の皆さん、
ご注意ください。
皆さんは選ばれました。
特別な実験プログラムへの参加者として……」
静かな教室で、
窓際に座る一人の男子生徒が
そっとペンを止めた。
彼の前には、
見慣れた記号でびっしりと埋め尽くされた
ノートがある――
手筋、局面、
複雑に絡み合う戦略の連なり。
彼はチェスを心から愛していた。
あらゆる対決は、
論理と計算によって
解決できると信じていた。
だが、彼はまだ知らなかった……。
今回、
盤上となるのは――人生。
駒となるのは……人間。
そしてこの一局では、
許されるミスは
一つもない。
最後のアナウンスが響く。
「各自、
私物を一つのバックパックにまとめ、
準備をしてください」
実験は……
正式に、
始まった。




