リメイク第二章 強き意志の力はその誰よりも弱き力
「サクラ・・・今君は魔法をどこまで使える?」
・・・突拍子もない質問がグレイシアさんから飛んできた。まほう?まほうって何だ?魔法は知ってるけどさ。ファンタジーとかに出てくるアレだろ?
「・・・はい?」
俺は聞き返した、何も分からなかったもの。
「だから、魔法は?」
「質問の意味が分からないッス」
「これ」
『バギギイイインッ!!!』
「ひゃぁっ!!こぉいっ!?」
突然俺の身体に冷気が来て、そして目の前に氷山が現れた。俺は変な叫び声を上げてしまった。
「魔法はこれ・・・レイも知ってたから、サクラが知らない訳ない」
「あ、あっ・・・」
いや魔法は知ってるけどさ、実在するかどうかは別。待て待て・・・魔法だよな、魔法で良いんだよな?こんな有り得ないのが現実に起きたんだよな?
「だから、早くやってみて・・・さっきも使ってたから」
さっき?あ、あれ?そう言えば・・・必死で訳分からなかったけど、三上に俺が殴りかかった時って・・・あれは、何だった?
思い出せ俺。確かなんかあまりに腹が立って来て、それから手がむずむずしてきて、それで・・・あーもう分からん!とりあえず魔法っぽい感じのをイメージしてみよう、グレイシアさんが普通にやってんだって事は俺も出来るって事だ。
「うーん!おりゃ!」
『ぼ、ぼぼっ・・・』
「え、これって火?」
俺はなんとなく魔法と聞いて炎の魔法をイメージしてた。そしてなんとなく手元に集中してみた。そしたらこれ、今俺の手に炎が灯ってる。別に熱く感じない・・・すげー!
「・・・」
「グレイシアさん!!俺やりました!!魔法ッスよこれ!!すげーっ!!」
俺はこれが出来た事で超ハイテンションになった。
「サクラ・・・」
「え、なんスか!?」
周囲が呆然と見ていた。あ、これアレだ!俺何かやっちゃいました?的な感じだ!!
「つかれた?」
「え?俺は別に・・・」
グレイシアさんは俺に近づいて何故かデコに手を当てた。
「熱は、無いから・・・」
うん、体温はそんなに無いだろうね、平熱・・・手元の炎は熱いと思うけど。
「はぁ、それよりどうッスか?俺の魔法!」
「うん・・・頑張った。魔法は最初のうちは使えても直ぐに疲れるから・・・今日は休んで」
え、もう良いの?俺もうちょっとやれそうだけど・・・まぁ、師匠の言う事は聞いた方がいいか。
俺はその後サムさんについて行ってここのアジト内の寝床に案内された、地下洞窟内にあるアパートって感じだ。鍵付き個室は有り難い、部屋はそこまで広くはないけど寝る分には十分か。
「この部屋を君に与えるよ、自由に使ってくれ。君の部屋の右側がグレイシア様、左がシィズ、そして向かいに私がいる。何かあったら呼んでくれ」
「分かりましたッス」
これが新しい俺の家か、一人暮らし始めたあのアパートと大差ないな、少しだけ狭いくらいだ。
あと、ベッドは無くて布団か。俺、一人暮らし始める前はずっと実家の布団だったんだよな、これはこれで懐かしい。
俺はゴロンと寝転がった。
「あれ・・・眠っ」
急に瞼が重くなって来た。あぁ、今日一日だけでなんだかんだ色々あったもんな、疲れるのも当然か・・・ここに飛んできて、シィズさんに連れられて、三上に会って、それからグレイシアさん。午前中までは大学にいたんだぜ?俺・・・
やれやれ、どうしたもんかなぁ・・・zzz
俺は一瞬で意識を飛ばした。
・
・
・
「ふぁ?」
あれ、うたた寝しようとしてたんだけどな。ガッツリ布団かぶって寝てた・・・俺、呑気な奴とはよく言われるけど、こんな状況にも関わらずこんなに熟睡したのは初めてだ。
「あれ?そもそも俺、昨日寝たのって何時だ?」
目覚ましも無い、スマホも行方不明、多分この世界に来た時にはもう無かったから向こうの世界に置きっぱかも。だから時間を確認する術が無い。
俺は布団を畳んでドアを開けた。あ、鍵も閉めた記憶ない・・・
外に出るとこの洞窟内に香ばしい匂いが立ち込めていた。これ、目玉焼きか?
「あれ?早いわねサクラくん」
このアジト内にある調理場でシィズさんが目玉焼きっぽいのを作ってた。
「シィズさん?あの、今って何時ッスか?」
「朝の六時よ、昨日の夜からサクラ君ずっと爆睡してたからね、呼びに行っても反応無かったからそのままにして布団被せておいたのよ。あ、それとうたた寝するにしても、ちゃんと布団くらい被りなさいよ、風邪ひくわよ?」
朝から説教されちゃった・・・俺いつも寝ると布団がどっかに飛んでっちゃうんだよなぁ。
「あ、なんかすんませんッス・・・」
俺はヘコヘコと謝った。
「ん?あ、シィズさん!!火ッ!!」
「あ!!ヤバっ!!」
シィズさんの焼いていた目玉焼きのフライパンからすんごい煙と匂いがして来た。焦げたなこれ・・・
「あー、俺手伝うッス・・・」
「ありがとねー」
シィズさんは多分みんなの分を焼いていたっぽいから、俺は皿を並べたりしてた。
「よ、よし!な、なんとかなったわね!!」
うん、意外と見た目はそこまで酷くならなかった。シィズさんはどうやら目玉焼きは塩胡椒派らしい。崩れてしまった黄身周辺に黒い小さな点が散りばめられてる。
「さてと、じゃ俺はグレイシアさんたち呼んで・・・うわぁっ!!」
「どしたの?うわぁっ!!」
俺とシィズさんは同時に叫んだ。気がついたら目の前にグレイシアさんが立ってたもの。
「音もなく現れないで下さいよ!!心臓に悪いじゃ無いですか!!」
「・・・ごめん?けど、普通に歩いて来たから、聞こえなかった?足音」
忍者かと思うくらいに何も聞こえませんでした。
「ん、いい匂いしてるな。目玉焼き作ったのか?」
サムさんは普通に部屋から出てきた。
「そうよ、さぁ召し上がれ!これだけ食糧があれば意外とここでの生活も行けるわね。よし!じゃいただきます!!」
さて、食べるとするか。腹も減ってるし・・・あむ、
・・・辛、塩辛っ!!水は?何処だ?ここにあったか・・・ふぅ、シィズさん、どんだけ塩胡椒入れたんだ?
「シィズ、作ってくれるのは嬉しいが・・・何だろな、お前裁縫の腕は超一級なのにな」
「そんな褒めないでよサム、照れるじゃない」
いや誰も褒めてなくね?サムさんは顔を真っ青にして水をガブガブ飲んでる。
てか、シィズさんってシズ先輩と同じで裁縫得意なんだ。て事はこの異世界には同じ顔の存在がいたりするのかなぁ。
「塩辛い・・・」
グレイシアさんは逆におもむろにに言ってきたなあ。
「けど・・・私は好きだから」
あらそうですか・・・グレイシアさんは普通に平らげてる。互いに味覚音痴か?
まぁ、ご飯もあるから乗っけて食べれば何とかなるか。つーか、ご飯に目玉焼きと味噌汁って完全に日本の朝ごはんじゃねーか。異世界の食文化って割と日本的なの?
てな訳でご馳走様、何とか食べ終わりました。そして俺はまたグレイシアさんと修行する事になった。
「今日は普通に純粋な戦闘力の訓練するから。武器は好きなの選んできて」
俺は適当に共用してる訓練剣を持ってきた。一応は本物だ、ちゃんと刃がついてる。手に持つとずっしりとした重さが来た。
「とりあえずこれでオナシャッス・・・で、グレイシアさん。武器は?」
俺が質問したと同時だった。
『ピキィィン・・・・』
グレイシアさんの手元に氷の剣が一瞬で作られた。
「わーお・・・」
「これで行くから、反撃するならいつでも・・・んっ!」
グレイシアさんはその氷の剣を持って一気に迫ってきた。俺はと言うと・・・
「ほへ? ひゃぁぁぉっ!!」
普通に反応が遅れて危うく真っ二つにされかけた。
「気、抜かない・・・次行くから」
「うおおおっ!?」
グレイシアさん、どう言う運動神経してんだ!?こんなんどうやって反撃しろっつーんだ!
「逃げてばかり・・・ほら」
グレイシアさんはわざと攻撃の速度を緩めてくれた。よし、これならやれるぜ!!
「とりゃー!」
『パシ・・・』
「あれ?」
「あれ?」
俺とグレイシアさんは同時に同じ言葉を言った。俺は普通に攻撃したんだ。剣を振り下ろした、それだけだ。けどグレイシアさんは、その攻撃を避けるでも弾くでも無く、指2本で受け止めてしまった。
「・・・・」
「・・・・」
どうしよこれ、戻せば良いのか?
「サクラ・・・これ、全力?」
「い、いや一応は手加減したと言うか、なんて言うか・・・」
「それなら・・・問題ないから。けど、殺す勢いでやらなきゃ」
「は、はーい」
「次、全力でやってみて・・・」
俺はもう一度剣を構え直した。そして大きく上に張り上げて・・・
「うおりゃーーーーっ!!」
「着いたぞーーーーっ!!」
なんだーーーーーーーっ!?
急にサムさんの大声が聞こえて、俺はバランスを崩してすってんころり、地面に激突した。
「のへー・・・」
「さ、サクラ君?何してるんだ?それよりもだ、一人到着したぞ。今、ジョシュの定食屋に匿っている状況だ。それで、一つ気になる情報を掴んでな、その男、サカガミ サクラを知っていると言っていたらしい。もしかしたらサクラ君の知り合いかもしれない」
な、何だって?俺は顔が痛いのをよそにガバッと起き上がった。
「俺を、知ってる奴!?」
「そうだ・・・グレイシア様、彼を少々連れ出しても良いですか?」
「問題ない。修行、もう少し考え直したいから・・・」
「感謝します、サクラ君。付いてきてくれるかい?」
「はいッス!!」
俺はまたあの定食屋へ向かった。