24 ミカエル指導
俺のヘルドランがニセモノのヘルドランに勝利したのだが、それを目撃していたのは俺とヤイミしかいなかった。
遠く離れて見ていたクラスメイトたちは何が起こったのかわかっておらず、ニセモノのヘルドランが炎を吐こうして、発火してしまったように見えたらしい。
原因はなんであれ、『解錠』の授業に続いてまたしても黒焦げになってしまったヤイミ。
今回は精神的ショックも大きかったらしく、泣きすぎて引きつけを起こしてしまっていた。
例によってタンカで保健室に運ばれていき、授業どころではなくなってしまう。
それから放課後。
俺は昨日に続いて部活動の見学をしていた。
昨日、ひと騒動あった魔導空手部がどうなったのか心配になったので、道場を覗いてみたのだが、
「よぉし、それじゃあ腕立て百回いくぞーっ! 俺様に続けーっ! いっちに、いっちに!」
ガンバレイがキャプテンとなって、他の部員たちといっしょに汗を流していた。
チンピラのような先輩たちの姿は、もうどこにもない。
そしてよく見ると、昨日ここで先輩たちに襲われかけた女生徒が、ジャージ姿で道場内にいた。
彼女は俺を見つけるなり、真っ先に駆けよってきて、
「ミカくん、昨日はありがとうございました! あのあと、ガンバレイくんにもお礼を言いにいったんです!
ガンバレイくんって見た目は怖いけど、とってもいい人ですね!
それで私、魔導空手部のマネージャーになったんです!」
なるほど、そういうことか。
ガンバレイのそばなら彼女も安全だろう。
俺はひと安心して道場を出る。
せっかくだから他の道場も見てみるかと思い、隣にあった剣道場を覗いてみることにする。
するとそこには剣道着姿のシスイがいて、真新しい木刀を片手に檄を飛ばしていた。
「剣圧による板割り、はじめーっ!」
シスイのかけ声ととともに、横一列にならんだ部員たちが、目の前に立てられた木の板に向かって、
「ちぇすとー!」
と突きを放つ。
突きがの勢いで木刀からアストラル体が放たれ、見事に板を真っ二つにしていた。
しかしひとりの男子部員だけが、板を割れていないようだった。
そしてどうやら何回もやらされているらしく、腕に限界が来て木刀を落としていた。
「貴様っ!? 生命ともいえる剣を落とすなど、それでも貴様、剣士かあっ!?」
「す、すいません、キャプテン! も、もう、腕に力が入らなくて……!」
「貴様は一枚も割れていないではないか! 剣圧による板割りは剣士にとっては必須の技! 今日は割れるまで帰れんと思え!」
「そ……そんなっ!? も、もう、限界なんです……!」
「黙れ黙れ黙れっ! 気合いが足りないから限界などという言葉が出るのだ! 気合いを入れ直してやるっ!」
シスイは問答無用とばかりに木刀を振り上げる。
雷鳴を聞いたかのように、身体を縮こませる男子部員。
しかし木刀は、彼を打ち据えることはなかった。
……ガシィィィーーーーーンッ!
「ぬっ……!? 何奴だ、離せっ!?」
振り向いたシスイは、木刀を掴んでいる俺の姿を見た途端、雷に打たれたようにビクリとなった。
「き、貴様っ、ミカエルシファー!?」
「部活の見学をしてて、風紀委員サマに会えるとは思わなかったぜ。
お前、魔導剣道部のキャプテンだったんだな」
「それがどうしたっ!? 神聖なる剣士の生命を、汚い手で触るんじゃない! 離せっ!」
「そこにいる部員を叩かないって言うなら離してやる」
「なんだとぉ!? 貴様、私の指導にケチを付ける気かっ!?」
「そのつもりはないんだが、さっきの板割りはアストラル体よるものだろう。
肉体を痛めつけたところでできるようになるもんじゃない」
「なにを申すかっ! アストラル体とはいわば、精神!
努力、気合い、根性こそがアストラル体の力を最大限に引き出すのだ!
だからこそこうやって、気合いの注入を……!」
「まったく、わからないやつだな。
殴られて出来ないことができるようになれば、苦労しねぇって」
「……そこまで申すのであれば、貴様がこの出来損ないを指導してみろ!
もしこの出来損ないが一枚でも板割りができたら、貴様の言うことに耳を傾けてやらんでもないぞ!」
「なんでそんなに偉そうなんだよ……まあいいや」
俺は木刀を掴んでいた手を離すと、しゃがみこんで『出来損ない』呼ばわりされた男子部員を助け起こす。
そして、立たせたまま身体をマッサージするように触る。
右肩のあたりと、二の腕をじゅうぶんに揉んだあと、
「よし、これでやってみろ。一枚は割れるようになっているはずだ」
しかし、男子部員は「えっ?」と呆気に取られるばかり。
「な……なにかアドバイスはないんですか?」
「なにもないよ。さっき見てたけど、お前は基礎のフォームはできてるみたいだからな」
「でもそれでも、ぜんぜん割れなくて……」
「いいからやってみろって」
「ハハハハハ! ミカエルシファー! 貴様がしたことといえば、その出来損ないの身体を触っただけではないか!
そんなことで板割りができるようになれば、それこそ誰も苦労せんわ!」
「シスイはあんな風に言ってるけど、気にするな。
お前は出来損ないなんかじゃない。練習したことを信じて、思いっきりやってみろ」
俺は自分なりの言葉で精一杯励ましたつもりだったが、男子部員は半信半疑なままだった。
それでも一応、板割りをやってみてくれた。
すると、
……スパカァァァァァーーーーーーンッ!
快音とともに、5枚もの板をブチ抜いていた。
これにはまわりで見ていた部員たちも仰天する。
「えっ……えええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「ご……5枚抜きっ!?」
「私たちだって、2枚が精一杯なのに!」
「5枚抜きといえば、キャプテンと同じ記録じゃないか!」
「う、ウソだろっ!? いままでキャプテンがいくら指導しても、1枚も割れなかったヤツが……!」
やってのけた男子部員すらも「こ、これが、俺の力……!?」とまだ信じられない様子。
シスイに至っては、
「う……うそ……でしょ……? 私がいくら教えても、できなかったのに……」
さっきまで生命だと言い張っていた木刀を、ぽろりと落としてしまう始末。
「そんなに驚くことでもない。
この男子部員に右肩のあたりに、『アストラル溜り』ができてたんだ」
「え……『アストラル溜り』って……?」
「アストラル体ってのは、絶えず魔力が血液のように循環してるんだ。
でもたまに身体の不調やストレスとかがきっかけで、滞留することがあるんだよ。
しばらくすると自然に治るものだが、その間は不調になっちまうんだ。
俺はそれをほぐしてやっただけだよ」
「そ……そんなことが、できるだなんて……」
シスイは「知らなかった」顔全体で表現している。
そのせいか、素に戻っているようだった。
「お前、驚くと普通のしゃべり方になるんだな。
堅っ苦しいしゃべり方に比べると、そっちのほうがずっといいと思うぞ」
するとシスイはハッと我に返る。
「ふっ……ふざけるなっ!
ちょ……ちょっといい顔をしたくらいで、調子に乗るんじゃないぞっ!」
そう吐き捨てて顔をそらした彼女の耳は、燃え上がったように真っ赤っかになっていた。




