表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/31

20 完全勝利

 俺は泣きじゃくる女生徒を助け起こす。

 シスイは悔しそうに「ぐぬぬ……!」と歯噛みをしていたが、


「ぐぐっ……! ミカエルシファーよ、貴様の勝ちだ……!

 約束どおり、再調査を……!」


 しかし背後から「ならん!」と厳しい声がする。

 見ると、風紀委員たちの群れのいちばん後ろに控えていた、影のような大男だった。


「再調査など、認めん……!」


「ふ、風紀委員長!? それは、どういうことなのですか!?」


「シスイよ、そなたには教えたはずだ。

 この学院ではCランク以上こそが、人であると……!

 Dランク以下の者の申し開きなど、豚の鳴き声同然であると……!

 アリの囁きに耳を貸す人間が、どこにおる……!」


「し、しかし、風紀委員長!

 どんなランクの者でも、処罰は真実に基づき、厳正に行なわれるべきです!

 別の被害者がいるとわかった以上、ミカエルシファーを粛正するわけには……!」


「シスイよ、そなたは己が殉ずる剣を世に広めんがために、風紀委員を志願したのであろう……!

 ならば、風紀委員長の私の判断に、絶対服従するのだ……!

 今すぐ、そこにいるFランクを粛正せよっ……!」


「せ、拙者はもちろん、風紀委員長に忠義を尽すと誓っております!

 しかしそれとは別に、拙者は我が剣を正義と信じ……!」


「くどいっ……!!」


 委員長が一喝すると、シスイは邪神の呼び声でも聞いたかのように、頭を押えて苦しみはじめた。

 やがて、前髪を垂らした幽鬼のような表情で、俺をギラリと睨みつけると、


「ミカエルシファー……! 今より貴様を、粛正するっ……!」


 とうとう、腰に携えていた木刀を引き抜いた。

 それは氷のようなオーラをまとい、雪の結晶をはらはらとあたりに振りまいていた。


「受けてみよ、我が剣っ……!

 『剣心語(カタナ)』流、『実直剣』……!

 悪を突き、善を貫き通す、正義の剣を……!

 この突きを受けた者は、三日三晩、生死の境をさまよい、己の罪を数えるのだ……!」


 これから出す技をべらべらと喋るのには、ふたつの理由がある。

 それが嘘っぱちのフェイントか、その技によっぽど自信があるかだ。


 シスイとはついさっき知り合ったばかりだが、たぶん後者のほうだろう。

 俺はヤツと事を構える覚悟を決めていたが、女生徒が俺をかばってくれた。


「ま、待ってください、風紀委員様! ミカくんを粛正しないで!

 彼は正しい事をしました! むしろ罰せられるのは、助けてもらっておきながら逃げてしまった私のほうです!

 ですからミカくんのかわりに、私を粛正してください!」


「ありがとうな、その気持ちだけでじゅうぶんだよ」


「み、ミカくん!?」


「危ないから下がってろ」


「そ、そんな!

 風紀委員様であるシスイ様の剣を受けた生徒を見たことがあるけど、本当に三日間苦しむみたいなの!

 目覚めたときはすっかりやつれてて、しばらく授業にも出られないくらいになっちゃうんだよ!?」


「だったらなおさらお前に受けさせるわけにはいかないな。

 俺だったら大丈夫、いいから下がってろって」


 俺は女生徒を後ろ手に庇いながら、シスイを睨み返す。


「お前が再調査をしてくれると言った時、コイツだけはお役所仕事じゃないと思って、少しは見直しかけたんだが……。

 どうやら思い違いだったようだな。

 さぁ、こいよ、歪んだ正義を思う存分振りかざしてみろよ」


「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 裂帛の気合いとともに、あたりの空気をも凍りつかせるほどの突きが迫る。

 切っ先が俺のみぞおちを破ろうとした直前、


 ……ガシイイイイイッ!


 俺は木刀をわし掴みにして止めた。


 それまではずっと無言を貫いていた他の風紀委員たちが「おおっ!?」と声をあげる。

 それほどまでに、衝撃的だったのだろう。


「な、なんと……!? シスイの突きを、受け止めた……!?」


「しかも、素手で……!?」


「シスイの突きは木刀部分を盾で受け止めたとしても、アストラル体の剣が貫通するはずなのに……!?」


「まさかあのFランクは、アストラル体ごと木刀を掴んでいるのか!?」


「アストラル体を掴むだなんて、そんなことができるわけがないだろう!?」


 騒然となる風紀委員たち。

 それ以上に、シスイは目をひん剥いていた。


「なっ……ばかなっ!? 正義の実直剣を、受け止めるだなんて……!?」


「なにが正義の実直剣だ、笑わせるな。こんなの、私利私欲にまみれたグニャグニャ剣だろ」


「きっ……! きさまぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」


「おっと、それ以上、力むなって。折っちまうぞ」


「笑止! この名刀、『明鏡止水』は我が一族に伝わる神樹で作られておるのだ!

 たとえ巨人の力を持ってしても、折ることなどかなわぬ!」


「そうみたいだな。でもこの木刀に宿った術式を解析したから、俺にとっては小枝同然だぞ」


「それこそ笑止っ! 折れるものなら折ってみろっ!」


「そうか? なら遠慮なく」


 俺が木刀を掴んでいる手を、軽く下にさげた途端、


 ……パキィィィィィーーーーーーンッ!!


 ツララがへし折れるように、木刀はキレイに真っ二つになった。


「そ……そん……な……!?」


 ガックリとヒザをつき、折れた木刀を拾うシスイ。

 鼻を折られた天狗みたいにワナワナと震えている。


 すると、風紀委員長が再び声を発した。


「シスイを敗るとは……!? 貴様、何者だっ……!?」


「さんざん俺のことFランクって言っといて、いまさらそれかよ」


「全風紀委員に告ぐ! 総力をもって、この罪深きFランクを粛正せよ!

 殺してしまってもかまわん!」


 すると、そこにいた風紀委員たちが、一斉に俺を包囲した。

 どいつもこいつも、シスイばりにひとクセもふたクセもありそうなヤツばかりだ。


 こりゃちょっとばかり、マジにならないとヤバそうかな……? と思っていると、


「いけませんっ!」


 光が現れた。


「ね……ネイチャン様っ!? な、なぜあなた様が、このような場所にっ!?」


 女神の化身のような大聖女の登場に、風紀委員たちは強い閃光を受けたようなショック状態に陥る。

 何かの見間違いではないかと目をこすったり、頬をつねったりしている。


 しかし幻覚ではないとわかるや、この場を掌握していた風紀委員長までもが一斉にひれ伏していた。

 ネイチャンはなぜか怒っており、風紀委員たちにぷりぷりと詰め寄っていく。


「みんな、ダメじゃない! ミカちゃんに乱暴したりしちゃ!」


「え……ええっ!? な、なぜあなた様のような偉大なるお方が、Fランクの味方を……!?」


「私はミカちゃんのお姉ちゃんなんだから当然でしょう!」


「えっ……えええええええええええーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 天地がひっくり返ったようなリアクションの風紀委員たち。

 俺はこれ以上面倒なことになっては困ると、すかさず言い添える。


「いや、ソイツが勝手に言ってるだけだ。俺とソイツは何の関係もない」


「き……貴様っ!? 偉大なるネイチャン様をソイツ呼ばわりとは、万死に値するぞっ!?」


「シスイちゃん! ミカちゃんを怒鳴っちゃいけません!」


「はっ、ははぁーーーっ!」


「さぁ、みんなミカちゃんに謝って! ごめんなさい、って!」


「ごっ……ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーいっ!!」


 まるで尻に火が付いたウサギのような風紀委員たち。

 彼らは10回ほど土下座謝罪させられて、ようやくネイチャンから解放される。


 この学院は本当にランク至上主義なんだなぁ、と俺はいまさらながらに舌を巻いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] シスイ、何かされたのかな? あんなに抗議したのに、急に牙をむくなんて、なんかおかしいぞ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ