前編
飛び込んできた日光の眩しさに、私は咄嗟に額に手を当てて影を作った。目を細めて顔を上げると、当たり前だが空が広がっていた。
しかし、私はそれに衝撃を受けた。私は、顔を上げるとそこに空が広がっている事すら忘れていたのだ。
空の青がこんなに澄んでいることも、雲の形が秋に移り変わっていることも、私はたった今知った。
ここ数週間、自分がそれほど追い詰められていたのだと思うと、私は苦笑するしかなかった。
お前のせいだぞ。
私は一人の男の顔を思い浮かべ、心の中で文句を言った。
一人の友人の話をしよう。
私の同業者で、脚本家の男だ。
彼は舞台の脚本に道を絞っており、また、少し人嫌いの気があった。そのため、彼の交友関係は驚くほど狭かった。
一方で私はテレビや映画、舞台と様々な道を行き来しており、知人は数え切れないほどにいた。他人に対する好き嫌いがほどんど無く、そこそこ愛想良く振る舞えたので、付き合いは浅いものの友人や顔見知りができやすいのだった。
私は恐らく彼が最も苦手とする人種で、そんな人間とどうして友人になってくれたかというと、私があまりにしつこかったからである。
知り合いにチケットを貰った。
何の目的も無く、チケットが勿体ないからというただそれだけの理由で見に行ったのが、彼が脚本を手掛けた舞台だった。
その劇団には交友のある役者や関係者はおらず、私は購入したパンフレットを早々に読み終えて開演までの時間を持て余していた。小さな劇場に、続々と観客が入ってくる気配を感じながら、私は適度にきいた冷房の心地良さにうとうとしていた。
このとき私は二十代半ばであったが、それなりに名は売れていた。指名で依頼される仕事だけで食べていけるようになっており、言わば成功者だった。
だから私はどこかでおごり高ぶっていた。小さな劇場の、無名の劇団を私は見下していた。期待をしていなかった。
客席の照明が落ち、ざわめきが一瞬大きくなってからやがて波が引くように静かになっていく。私は閉じそうになる瞼をこじ開け、欠伸を噛み殺した。
幕が上がった。スポットライトに照らされた舞台の中央に、一人の役者が立っていた。役者は息を吸い、空気を震わせた。
その、一言。
役者が放った最初の一言で、私の中にいた睡魔が消え去った。
一時間三十分の上映時間があっという間に過ぎ、幕が下がると、割れんばかりの拍手が空間に響いた。もう一度幕が開き、役者達が達成感に満ち溢れた笑顔で礼をすると、音はさらに大きくなった。
周りの観客が惜しみない拍手を贈るなか、私はただ一人俯いて唇を噛み締めていた。嫉妬と羨望が渦巻いた、あの悔しさは一生忘れないだろう。
正直、役者の演技はあまり良くなかった。感情がのせ切れていないし、動きもぎこちない。演出なども、特筆する点は無かった。
この舞台を支えているのは物語であり、それを書いた脚本家だと、私は確信した。
世界観や言葉遣いの癖は強いが、作り込みが凄い。奇抜で大胆で、繊細。他の人間が真似できない、強烈な個性だ。
私が欲しくて、しかし得られる事は無い才能が目の前にあった。
役者達が深々と礼をすると幕が下がり、拍手も静まる。客席に明かりが戻ると、次々に観客が立ち上がった。
出口へと向かう人々を尻目に私はスタッフを探し、非常口の傍に立っている女性を見つけると駆け寄った。
脚本家に会いたいのだとせっつくように言った私に彼女は訝しげな顔をした。しかし私が名乗ると彼女は「あの脚本家の方でしたか」と納得したように頷き、先程とは一変してにこやかになった。
「運がいいですよ」
彼女が言った。
「あの方は、脚本を書き終えたら全て舞台監督に任せると言って、滅多に舞台を見に来られることが無いので。うちの専属ではないので、他の舞台などでお忙しいのでしょうね」
「そうなんですか」
私は相槌を打ったが、話は半分も聞いていなかった。
「それで、どこにいらっしゃるんです?」
気が急いで早口で尋ねると、「あちらです」と彼女は客席の後方を手で示した。私は彼女に礼を言うと、急いで示された方向へ向かった。
パンフレットで、脚本家が男であることは確認していた。もう客席に残っている人は少なく、後方にいる男はたった一人。一番端の席に座り、下を向いていた。
私は、脚本を書いた男が年上だろうと思っていた。あの物語を書いたのは私より年上でないといけなかった。私より早く生まれ、私より長く書き続けているのであれば、仕方がないと自分に逃げ道を作れる。
しかし、近づいて見下ろしたその男は、顔こそ見えないものの明らかに若かった。
嫌な汗が流れる。私は表情を硬くしながら、声を掛けた。
「すみません」
すると男はびくっと肩をすくめ、弾けるように頭を持ち上げた。
「……え?」
掠れた声と半分閉じられた目。どう見ても寝起きだった。様子からすると、うたた寝どころではなく、随分と深く眠っていたようだ。幕が上がっている間もずっと寝ていたのだろう。
予想外の事に面食らったが、私は気持ちを整え直し、努めて笑顔を作った。
「初めまして」
私が名乗ると、彼は首を傾げてから「ああ、あの…」と呟いた。
「舞台、素晴らしかったです。それで是非ご挨拶をしたいと思い、伺いました」
決して脚本が素晴らしかったとは言わない。私は称賛の言葉を素っ気無く贈った。気を付けていないと、声がどす黒い感情で歪んでしまいそうだった。
目の前の気怠げにしている男は、やはり私と同年代のように見えた。無精髭にくたびれたTシャツとジーンズ。エンターテイメントに寄った劇団ではあるが、演劇を鑑賞するのにふさわしい恰好とは言い難い。
こんな男があの独創的で繊細な物語を書いたのか?私は信じられない思いだった。
「…こんなにお若い方だとは思いませんでした。失礼ですが、おいくつですか?」
見た目では私より少し上だった。そうであってくれと願った。
「今年で、二十五ですけど…」
ぎちりと胸が軋んだ。
「そうなんですか、私と同い年ですね!」
明るく出したつもりの声に、微かな震えが混じってしまった。
「はあ、そうですか」
男は、それがどうしたと言わんばかりだった。男にとって『同い年の同業者』などさほど重要な事ではないのかもしれない。
色々な感情が浮かんでは消え、言葉をどう続ければいいのか分からなくなり、私は無意味に唇を舐めた。
少し間が空き、やがて男が深く息を吐いた。
「あんたみたいな売れっ子が、僕の脚本に興味を持つものなんですか」
訊かれた言葉の意味が分からず、私は戸惑った。
「…ええ。特におかしな事とは思いませんが」
答えると、男はふっと自嘲の笑みを浮かべた。
「あんたが書く話、本当にいいですよね。緻密に計算されていて、どんな話でも大勢の人の心に響く。…僕とは大違いだ」
私は、目の前が真っ暗になった。地面が突然消えてなくなったような、奇妙な浮遊感に襲われる。
確かに私は、男が言った通りの評価を受けてきた。良質な物語を創り続けている自負もあった。だが、それがこの時初めて揺らいだのだ。評論家や世間から言われて喜んでいたはずの言葉がこの男から発せられたというだけで、私が生み出してきた数々が万人受けするだけの粗悪品にすら思えた。
男の口調に皮肉や揶揄は感じられず、心から感じたことを口にしているのが分かった。だからこそ、絶望した。
他人を手放しで褒めることに。
男が私と己の作品を比べ、私に軍配を上げたことに。
己の才能に気付いていない男の鈍さに。
男が自覚していないその天賦の才の大きさに。
男の存在そのものに、私は絶望したのだった。
これが彼との出会いだ。
もう話す気は無いと言わんばかりに素っ気無く会釈をして帰ろうとする彼から何とか連絡先を聞き出して、その日は別れた。劇場からの帰り、浴びるように酒を飲んで数日間寝込んだのは苦い思い出だ。
それから私は、舞台関係の知り合いに連絡を取って彼が脚本を手掛けた舞台の映像を片っ端から集め始めた。あの舞台の脚本の出来がまぐれだといいと、私は未練がましく願っていた。
だが、本当は気が付いていた。あの物語は、まぐれなどで生まれる代物ではないと。
それでも私は、数少ない彼の作品を見た。
何か粗はないかと、欠点を探した。
だが、彼の作品はきっちりと創られていて、出来にむらも無かった。彼は、彼自身しか思いつかないような物語を書き続けていた。
しかし、彼の作品には一つ問題があった。作品自体の出来はいい。ただ、扱い辛いのだ。物語は素晴らしいが、その世界観や空気を舞台で表現するのが難しそうだと、映像を見て感じた。大抵の劇団が、脚本を表現しきれていない気がした。
彼が脚本を書いた舞台を見たいと言った時、業界の関係者も皆、口をそろえて言っていた。「凄いが、使いにくい」。
彼が無名で、作品数も少ない理由は恐らくそれだろう。脚本はいいが、劇団の方がそれを持て余してしまうのだ。よって、仕事があまり来ない。持て余してしまう脚本をわざわざ使おうとする劇団は少ない。
私が売れているのは、彼と正反対だからだ。私の書く脚本は、大衆向けで使いやすい。あとは運だろうか。
彼の感性は、努力したら得られるものでは無かった。努力すれば何でも叶うというならば、私はとっくに脚本の作風を変えている。私がキャッチ―な作品を生み出すのは、それしか書けないからだ。
勿論、努力は大事だ。だが同時に、どう頑張っても太刀打ちできない『才能』という壁は存在する。
私は凡人だが、今までそれを気にした事は無かった。同年代で私ほど売れている人間はいなかったし、成功しているなら問題ないと思っていたのだ。だが初めて、同い年の天才が現れた。そして私は突き付けられたのだ。凡人は、あくまで凡人だった。
しかし私は諦めが悪い。才能が無いのなら努力をしなければならない。ならばあの天才を利用しようと考えた。彼の傍にいれば、天賦の才を持った人間の感性を少しは吸収して自分のものに出来るかもしれない。
思い立ったが吉日と、私は彼に連絡をし始めた。同じ脚本家としてぜひ友人になりたいと訴えた。
彼は殆どを面倒くさそうに断った。しつこいと、拒絶されたこともあった。だが私は粘り強く彼に話しかけた。観劇に行った先で出逢えば、飲みに行こうと誘った。思えば、よくストーカー扱いされなかったものだ。
それを続けていく内に、彼の態度は少しずつ軟化していった。諦め、とも言う。彼は私の誘いに応じてくれるようになり、会話も私が一方的に話しかけるものではなくなった。
「あんた、本当にしつこいな」
彼はそう言って苦笑いをした。そこに、初めの頃に見た嫌悪は無かった。私の粘り勝ちである。
友人と呼べる関係になると、私は彼に様々なことを訊いた。
例えば、自分の脚本の舞台をほぼ見に行かない、行ったとしても寝ているのは何故か。
「お前、仕事ないから時間はあるはずだろう」
私が軽口をたたくと、彼は肩をすくめた。
「書いたものに興味は無いんだよ。劇団に預けたら終わり。僕の中ではもう違う人の作品なんだ」
「脚本家としてそれはどうなんだ」
「よくないんだろうな」
彼は他人事のように言った。違う人の作品だと思うのなら尚更しっかり見ろ、と私は小言を言った。
例えば、脚本家という職業を選んだのは何故か。
「あんたはどうなんだよ」
彼が尋ね返してきた。
「単純だ。ただ、脚本を書くのが好きで、楽しかった」
それだけだ。だが、好きだからこそ他人に負けたくないと思う。
彼はふうんと頷いた。
「僕は違うな。僕にとって、物語を書くという行為は息をするのと同じくらい当たり前の事だった。吐き出していかないと頭が一杯になって苦しかったから、ずっと書いてた。それをだらだら続けていたら、何となく脚本家になってたんだ」
彼らしいと思いつつ、憎たらしかった。世の中は本当に不公平だと思った。
例えば、舞台一本に絞っているのは何故か。
もっと色々挑戦したらいいのに、と言うと、彼は珍しく眉を吊り上げた。
「言っとくけどそれ、相当な厭味だからな」
私は何気なく放った言葉を思い返し、素直に謝った。彼はすぐに普段通りの無表情に戻り、「まあいいけど」と言った。
「興味が無いわけじゃない。だけど僕は、舞台が好きなんだよ。演劇は、生き物みたいだろ?僕の作品を使ってもらうなら、生き物がいいと思ってるんだ」
舞台が生き物、というのは同意だった。細かくカット割りをして撮影する映画やテレビとは違い、舞台は一発勝負だ。独特の緊張感があった。
「そう言うわりには、自分の舞台で寝ているけどな」
「矛盾はしてないぞ。舞台で作品を使ってもらうのと、僕がその作品を見ないのとは全く別だ」
彼はいけしゃあしゃあと言った。私は呆れて溜息を吐いた。
居酒屋で安い酒を飲みながら、私達はこんな話をした。彼はいつもシャツやパーカーに、ジーンズを履いており、たまに無精髭を生やしていた。時々剃るのが面倒になるらしい。
彼に対して私は無口な印象を抱いていたが、酒が入ると饒舌になった。素面の時も、無口という程ではない。だが基本的に無表情で、親しくない相手には無愛想だった。そして人付き合いが悪い。友人など、恐らく私を入れても片手の指で足りる。
話していると、彼の才能を節々に感じて何度も嫉妬した。己の才能に無自覚な様子に苛立った。だがそれなりの時間を共にしている内に、いつの間にか彼を利用しようという気持ちは消えていた。
彼は、唐突に独り言を呟き始めたと思ったらそれが物語だったという事がよくあった。息をするように面白い物語を生み出す彼を、私は間近で見てきた。その度に、彼はもっと評価されるべき人間だという思いを募らせていったのだ。
結局、私は彼が創る物語が好きだった。出会ってから二年近く時間はかかったが、私はそれを認めた。どす黒い感情を抱き、才能の差に絶望し、それでも彼の作品が好きだった。
お前の作品はもっと脚光を浴び、称賛されるべきだ。ある時、いつものように酒を飲みながら私が熱弁すると、彼はふて腐れた表情で顔を背けた。これは彼が照れた時の癖だった。
「売れっ子作家に言われると、皮肉られてるとしか思えない」
「いや、本当にそう思ってる」
私は力説した。「やめろ恥ずかしい」彼は手で払う仕草をした。
「僕はこのままでいいんだよ。前はもっと色々な事を考えてしまっていたけど、今はこれで十分満たされている」
その時、彼は穏やかな表情を浮かべた。その様子に納得がいかず、私は唇を噛み締めた。
名前が売れる時。それは実力も勿論必要だが、運がかなり重要であった。私も、脚本家として仕事を初めて数年で売れたのは運よく有名な映画監督の目に止まったからだ。
運さえあれば、彼は有名になれるだろう。その時、今の私の地位が危うくなるかもしれないが、彼がこのまま燻っている方が私にとっては問題だった。
知り合いの批評家の一人に、彼の作品が好きそうな人物がいる。
もしその人に作品が気に入られて高い評価がつけば、彼の名前は広まるだろう。それほどに影響力がある批評家だった。
その批評家はあからさまな胡麻擂りを嫌う。なので私は、「この作品が面白かったので」とあくまで自然に彼が脚本を書いた舞台のチケットを渡した。彼の脚本を使えていると私が感じた、数少ない劇団の公演だった。
結果は、狙い通りだった。
批評家は舞台を絶賛した。特に脚本は、私でも過剰ではないかと思うほどに褒めちぎった。
彼の脚本を使おうとする劇団は少なく、使いこなせる劇団はさらに少なかった。だがそれは小から中規模の劇団の中では、という話で、有名な監督や演出家、役者が揃う劇団が彼の脚本を使えば、相乗効果を発揮して素晴らしい作品になるだろう。そしてきっと、彼の名は今までとは比べ物にならないほど多くの人に知れ渡るはずだ。
だが、それを彼は喜ばなかった。
不機嫌そうな声で電話がかかってきた。呼び出された場所へ向かうと、彼は私の胸倉を掴んできた。
「何であんなことをしたんだよ!」
彼が怒鳴るなど、初めてだった。
「あんなこと?」
私はしらばっくれようとしたが、それを許さないとばかりに胸倉を掴む力が強まった。
「いきなり仕事の依頼が増えておかしいと思ったら、偉そうなおっさんが僕の事を気持ち悪いくらいに褒めてる記事を見つけて!よく読んだら知り合いの脚本家に勧められて見に行ったって書いてあったんだよ!あんな有名な批評家と知り合いでこんなくだらねえことする奴なんて、あんたくらいしかいないだろ!」
「くだらなくなんてない。言っただろう、お前はもっと評価されるべきだって」
「ふざけんな、僕がそんなことを望んでいるとでも思っていたのか?」
「ああ、思っていたよ」
怒鳴ろうと息を吸い込んだ彼が、動きを止めた。
「……なんだって?」
私は静かに言った。
「お前は以前、『このままでいい』って言っていたな」
「ああ。だから……」
「あの時お前は、穏やかに笑っていた。だがそれが、何かを諦めたような顔にしか見えなかったんだ」
「そんな顔してないし、思ってもいない」
「嘘だな」
即答する。
「お前はただ、今以上を望み挑戦する事を諦めて、ぬるま湯に浸かっていようとしているだけだ」
彼は目を見開き、胸倉を掴んでいた手が力が抜けたように落ちて離れた。
「……だったらどうした。あんたに関係ないだろ」
「ないな、でも腹立つんだよ」
声が震えた。
「才能があるくせに、簡単に諦めようとしたから」
我慢が出来なかった。
確かに私は、彼の脚本が評価されない事に苛立ってはいたが、ここまでするつもりは無かったのだ。
だがあの時、彼が柄にもなく穏やかな顔をしたのが、許せなかった。
私は首をたれて声を絞り出した。
「いらないのなら、くれよ……」
お前の才能は、私が欲しかった。彼が使わないのなら、私が使いたかった。そうしたらその才能を最大限に活用するのに。
ふと我に返って顔を上げると、彼は呆然としていた。これも初めて見る顔だった。自分が発した言葉を思い出し、私は羞恥で顔を赤らめた。目が合うと彼はハッとし、気まずそうな顔をした。
「なんと言うか……お互い柄にもないことをしたな」
彼の言葉に、私も居心地悪く頷いた。大人になってからこれほど感情的に人とぶつかった事など、数えるほどしかない。
「ああもう、なんだろうな。あんたと会ってから柄にもないことばっかだ」
息を吐き出しながら彼は天を仰いだ。
「…あんたが言う才能とかは僕にはよく分からないけど、とりあえず悪かったよ」
「ああ。こっちも、勝手なことをしてすまない」
しばらく沈黙が流れ、それからどちらととも無く笑い出した。
「なあ」
笑いながら彼が言った。
「依頼された仕事を受けてみようと思うよ。ひとまず今の仕事を終えてからだけど」
「そうか」
「すぐにあんたみたいな売れっ子になるかもな」
彼は冗談交じりに言ったが、それは簡単に現実になりそうだ。今は舞台だけだが、映画やテレビに彼が興味を持てば、私は絶対に勝てないだろう。
しかし、私は晴れやかな気分だった。
彼が有名な脚本家の一人になる一歩を踏み出すことを、私は心の底から嬉しく思った。
後編へ続く




