旅の始まり
本当はもう少し早めになる予定でしたが、色々と書きたいこと書いてたらかなり遅い出発となってしまいました。
自分のせいでダンジョン内が慌しくなってしまったので、次やる時はもっと人の少ないところで規模を抑えて試そうと内心で決意をしつつ、後で皇帝に進言してその心配はないという事を伝えるためにもいち早くハイヤル洞窟を抜ける。
ハイヤル洞窟はダンジョンの入り口こそ色々とあるが、隣国に繋がる場所はここしかないので、人通りも多く、宿場町としてそこそこの賑わいを見せている。
ここでダンジョン帰りの疲れを癒した後、定期的に出ている帝都行きの馬車や、道中で依頼をするために徒歩で帰る者など様々な人達で溢れかえっている。
(ダンジョン内なら人が少ないし、ついでに魔獣あたりで実験できたらと思ったが…あんなに大騒ぎなるとはなぁ。)
「とりあえずすぐに戻ってアルベルト様に報告したほうが良さそうですね…」
「そうですね、伝令用の早馬でも半日近くはかかるのでイーリス様なら先回りできるので問題はないかと思われます」
「よかったです。それじゃあまた上に一度飛んでからノワールを呼び出しますね」
行きの時と同じく、ヴィヴィアンをお姫様抱っこしてある程度上昇ののちに、騎乗スキルを使用してノワールを呼び出した後は、すぐさま帝都に向けて出発していく。
そのまま飛ばす事数時間、農村、キャラバン、馬車などを眺めながら帝都に向かう途中、ダンジョンで試そうと思っていた事ではあったが、予想以上の威力だったので外で試す事にする。
人目がつかない街道からかなり外れた場所にあるベルカ山岳地帯の奥地までやってくる。
本来この辺りはかなり気流が乱れているのでイーリスの場合は安定して飛行できないのだが、ノワールは全く気にすることなく飛行するあたりは流石は竜種といったところだろう。
「少し強めの魔獣を相手にしたいからノワールも探してね」
しばらく飛行すること数十分、前に見慣れた巨大な黒い蛇、セルペンテネグロを発見する。
「うん、あれがいいかな。ノワール、ちょっと挑発して広めの場所に誘導して」
「グルルゥ!」
一際声を上げたノワールはそのまま高度を下げた後、首をもたげて力を溜めた後、口からブレスを吐き出しその一撃は尾っぽの辺りへと命中する。
「シャアアアアッッ!!」
突如空からの奇襲によって混乱する黒蛇だが、すぐさま攻撃してきた相手に向かって毒液を飛ばしていく。
しかし、攻撃してきた相手はすぐさま高度をとったので全く当たる事なく毒液は落ちてきてしまう。
それでも挑発するかのように時折ブレスを放ってくるので無視をするわけにもいかず、どんどんと開けた場所へと誘導されていく。
「もう平気だよ、ありがとねノワール」
頭をなでると気持ち良さそうに喉を鳴らすのを確認した後は、その場からさっと立ち上がり、眼下の黒蛇に向かって、とある魔法を選択する。
魔法陣がイーリスを中心に浮かび上がり、複雑な文様が空に浮かび上がる。
この時に感じる体中を駆け巡る魔力のような感覚を少し抑え目にしながら一気にその感覚を開放する。
「…ふぅ。(さてどうなるかな)」
「イーリス様、いったいなんの魔法を…なっ…」
凄まじい魔力の奔流と複雑な文様の魔法陣が現れた割りに効果が現れない事に不審に思ったヴィヴィアンが話しかけたその時、頭上から何か太陽以外の光を感じて見上げると、燃え盛る火球がいくつも黒蛇に向かって落ちていくの見て声を失う。
その標的にされた黒蛇はその光景に同じく眺めてしまうが、自分が標的にされていると悟ったのか慌ててその場から離れるように移動しようとした瞬間であった。
―――ズドドォォォォンッッッ!!!
凄まじい爆音が響くこと10回。1000mまで高度を一気にあげていたのにも関わらず、その衝撃はお腹に響くほどの衝撃だ。
砂煙などが落ち着いた頃合になってその場を見てみるとそこにあった光景は山となったいた場所は完全に破壊され更地と化していた。
(うへぇ、少し抑え目にしてこれか。範囲攻撃魔法では最大、最強である大賢者専用ジョブ魔法【メテオフォール】がこちらではどれだけ派手なのか試してみたかったが…正直抑えたのにここまで派手だとは思わなかったな。)
「少しやり過ぎちゃいました。」
「そ、そうですね…かなり奥地なので調査に来る人は居ないと思いますが…全く疲れた様子がありませんが、先ほどの魔法は発動しようと思えば何回できるんでしょうか?」
「【メテオフォール】ですか?そうですね、全力で出して7回ってとこでしょうか?基礎能力は聖騎士なのでそんなに魔力量が多くないんですよ。」
「な、七回…メ、メテオフォール?それって確か大賢者専用の最上級魔法では…」
「どうやら暗殺者のジョブスキルも使えるみたいです。これを知ったのは最近なんですが」
「驚きました…オスカル様を1対1で勝つだけでも凄いのにここまでとは…アルベルト様にはなるべく濁して報告した方がいいですね…」
「すいませんお願いしますね。」
その後、陽が沈みかけた頃に帝都の王城へとたどり着く。
王城についた後は、ハイヤル洞窟の出来事と、ベルク山岳地帯の爆音の事を濁しながら報告し、そして明日発つ事も同時に伝える。
「そうか、明日遂に発つんじゃな。よし、それではヴィヴィアンよ。そなたに監視の任を解き、イーリスの傍付きになることをここに正式に命じる。その身をもって帰ってくるまでわが国の客人を守るのだ。」
「承知いたしました。わが身が滅びるその時までイーリス様をお護りすることをアルベルト様、そしてアズラ神に誓います。」
「うむ、よろしい。イーリスよ、他に何か必要な者はあるか?」
「そうですね。それじゃあ、長旅になるので、旅の必需品関係をお願いします。(やっぱ予想通りヴィヴィアンは監視役だったわけか。いくら国の恩人でも国の最高戦力に打ち勝つ相手に監視をつけもしないなんてありえないもんな。)」
「わかった、明日発つまでには必ず用意しておこう。さがってよいぞ。」
執務室から出て、次はソフィの自室へと向かっていく途中…
「ヴィヴィアン、一つだけ大事な事を言わせて。ヴィヴィアンは身を持って護るつもりかもしれません。でも、短い間に知り合ったとしても私にとってはヴィヴィアンは大事な人です。さっきの誓いを反故にしなさいとは言いません、けど絶対に自分を犠牲に…危ない時は絶対に一緒に撤退するって誓ってください。」
「イーリス様…わかりました。最後まで何があっても共にすることをここに宣誓します。」
「よろしい!…ふふ、それじゃあいきましょう」
ソフィの自室に着いた後は、明日発つ事を伝える。
「そう…予定を早めるのね、わかったわ。それじゃあ明日はお見送りするわね!それじゃ今日はもう少し夜更かししようかしら…最後にもっとたくさんお話しましょう!」
「勿論!いっぱいお話しましょう!」
「それじゃあ今日は私ね、こないだあったことなんだけど……」
こうして夜を共に過ごしていくのだった。
夜が明け、陽が昇り、朝食を取った後旅の必需品等を受け取り、インベントリに仕舞っていく。
この時にもやはり驚かれたが、イーリスの規格外さに慣れてきていたのか、最初ほど騒がれる事もなく準備を完了させる。
「戻ってきた時はいっぱいいっぱい話しを聞かせてね!」
「そなたの無事を祈っているぞ」
「イーリスさん!次は負けませんよ!」
その他、訓練場でイーリスの美貌に魅せられた者達がここぞとばかりに告白のような事をするが、困っていたイーリスを見かねて近くに居たオスカルの鉄拳によって黙らされてしまうのだった。
「皆さん今まで短い間でしたありがとうございました!各地全てを回ったら絶対に帰ってきます!待っててください!」
「「「うおおおおおお!!!!「だから五月蝿いぞお前ら!!それではイーリスさんお待ちしています!」
「はい!いってきます!!」
こうして別れを告げた後、冒険者ギルドへと立ち寄っていく。
登録してからまだ依頼を一度も達成していないので、最初の目的地『アグニス王国』行きの護衛依頼がないか探しているとちょうど後2人ほどの空きがある依頼書を見つけるので、依頼書に2人分の開きを書き込み、受付で受注。今日出発とのことなので、さっそくその商人と冒険者に合流する。
「Dランク冒険者イーリスです。」
「同じくDランク冒険者のヴィヴィアンと申します。」
「おぉ、出発しようと思った日になっても後2人が中々埋まらないから延期するしかないと思ってたが助かったよ。これからよろしく頼む」
「はい、お願いします」
少し肥えた裕福そうな男性が今回の依頼人のようだ。
次に一緒に依頼をこなす冒険者達が6人いるが、全員同じパーティーのようだ。
「ん?おいおい、最後の2人はまさかの女2人かよ。せいぜい足手まといにならないように頑張ってくれよ」
「…えぇ、邪魔にならないように頑張らせてもらいます(おまえらが邪魔にならんように頑張れってんだ…)」
内心で悪態を付きながらもそれを今言うと面倒な事になるのは避けられないのでそのまま抑える。
護衛対象の馬車の数は4台ほど、そのうち小さめの2台で前と後ろに冒険者達が乗り込む。イーリス達は後方だ。
「よし、それじゃあさっそく出発だ」
軽い打ち合わせの後にすぐさま馬車を出発させてハイヤル洞窟へと向かっていくのだった。