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【書籍化決定】コミュ障の天才魔法使いは、王都の片隅でのんびりお店経営はじめます~魔法学園主席の少女は実力を隠して静かに暮らしたい~(旧タイトル:厭世の魔法人形屋)  作者: 八星 こはく
第一章 魔法人形屋『ルクス』

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第4話 魔法人形屋の魔法

「では、今から魔法人形を作ってまいりますので、クラウディア様はお風呂にでも入っていてください」

「……お風呂?」

「クリスタ様は、いつものお母様に会うのを楽しみにしていますから」


 フィーネが伝えると、クラウディアは頷いて立ち上がった。その肩をハインツが素早く支える。


「ユーリアはお客様についていてあげて。私は魔法人形を作ってくるから」

「了解」


 頷いたユーリアと別れ、屋敷の裏にある山へ向かう。山の中腹あたりまでくると、フィーネは感知魔法を用いて周囲に人がいないことを確認した。


 懐から杖を取り出す。魔法学園入学以前から愛用している、ヤーデの木で作られた細身の杖だ。杖の先端には、黄金色の琥珀が埋め込まれている。


 杖で空中に魔法陣を描く。杖の先端から放たれた琥珀色の光が、輝く魔法陣を空に描いた。

 風が吹いて、フィーネの前髪が揺れる。普段は隠れている黄金色の右目が露になった。


「ごめんね、クリスタ」


 謝罪の言葉を口にして、浮かび上がってきた土の中央にペンダントを投げる。彼女が三歳の誕生日にもらったという遺品だ。

 土はペンダントを包むように丸くなっていく。完全な球体になったところで、球体は内側から七色の光を発した。


 魔法人形の作成には、通常の属性魔法ではなく、複数の属性を組み合わせた魔法が必要になる。そのため、七色の光が混ざり合うのだ。

 土でできた球体を中心とした、七つの花弁を持つ光の花。


 美しい、なんて思うのは人間だけなのだろう。

 周囲の鳥や獣達が一斉に騒ぎ出す。まるで、神のような振る舞いを咎めるように。

 最後にもう一度魔法陣を描く。すると、眩しく光りながら花弁が散り、光が消えた瞬間、一人の少女が現れた。


(こんなところ、やっぱり依頼者には見せられないな)


 人間の形をした偽物、土でできた人間。

 神や生命に対する侮辱と捉えられても文句は言えない。

 けれどフィーネは、この人形が人を救うことがあると知っている。


「初めまして、クリスタ様。私はフィーネ・フェルナーです」

「……だあれ? おかあさまは?」

「貴女に会えるのを楽しみにお屋敷で待っています。私と一緒に行きましょう」


 手を差し出すと、クリスタはそっとフィーネと手を重ねた。手のひらが温かいのは彼女が生きているからではなく、フィーネの熱魔法によるものだ。


(人は、冷たい人形を人間だとは思えないから)


 何度も試行錯誤を繰り返し、限りなく人間に近い魔法人形を作れるようになった。だからフィーネは、誰よりも魔法人形が偽物だということを知っている。


「早くおかあさまに会いたいわ!」


 ぶんぶんとフィーネの手を振り回しながら、クリスタが大きな歩幅で歩き出した。しかし、クラウディアに会わせる前に伝えておかねばならないことがある。


「クリスタ様。お母様とお会いできるのは一日だけです」

「……わたくしが死んでしまったから?」

「はい」

「そう。わたくし、病気で死んじゃったのね……」


 魔法人形は通常、死因の記憶は持たない。しかしクリスタの場合、病気で寝込んでいた記憶がある。死因の推測は容易だろう。

 少しの間黙り込んだ後、クリスタは満面の笑みを浮かべた。


「だったら、早くおかあさまのところへ行かなくちゃ!」


 魔法人形は自らの死因を覚えていない。ただ、死んだことは理解している。

自らの死をあっさりと受け入れられるのは、彼女が偽物だから。フィーネが、そんな風に作っているからだ。


 どれほど人間に似ていても、生前の記憶を有しているとしても、魔法人形は偽物だ。しかも、フィーネによって都合よく作られた人形。

 言葉遣いや思考回路が本物とそっくりだとしても、本人ではない。


(ごめんなさい、神様)

 いつか地獄に落ちてしまってもいい。それでもフィーネには、この魔法が必要だったのだ。


◆



「おかあさまっ‼」


 中で待っていられなかったのか、クラウディアは屋敷の正門前に立っていた。入浴を済ませ、髪を整え、着替えを済ませた彼女は別人のようである。

 なによりクリスタを見て涙を流す姿は、廃人のような先程までの姿とは百八十度違う。


「クリスタ……っ‼」


 折れそうな足で走ってきたクラウディアが、勢いよくクリスタを抱き締める。泣いている母を見つめ、クリスタは不思議そうな顔で首を傾げた。


「おかあさま、どうしたの? どこか痛い?」

「違うの、クリスタ。貴女に会いたくて、ずっと、ずっと……」

「わたくしもよ! そうだわ。ねえ、おとうさまもきて!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、クリスタは呆然と立ち尽くしていたハインツを呼んだ。ハインツはああ、と返事をし、慌てて彼女のもとへ駆け寄る。

 一瞬だけ目が合った時、彼は化け物を見るような眼差しでフィーネを見ていた。


「お疲れ様、フィーネ」


 ぽん、と右肩を叩かれる。


「……ありがとう、ユーリア。でも、ここからが本番みたいなものだから」


 魔法人形の作成にもそれなりに魔力を使うが、魔法人形の操作にはさらに魔力を使う。

 その上、通常の攻撃魔法と異なり、繊細な魔力操作を常に求められるのだ。

 少しでも魔力操作を間違えてしまえば、依頼者にトラウマを与えかねない。そのため、なるべく魔法人形からは距離をとらないことにしている。


「おかあさま、おとうさま。お庭で遊びたいわ。だめ?」


 無邪気に笑ったクリスタが両親の手を引く。ちら、と窺うようにこちらを見たハインツに頷きを返し、フィーネ達は庭へ移動した。


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