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【書籍化決定】コミュ障の天才魔法使いは、王都の片隅でのんびりお店経営はじめます~魔法学園主席の少女は実力を隠して静かに暮らしたい~(旧タイトル:厭世の魔法人形屋)  作者: 八星 こはく
第一章 魔法人形屋『ルクス』

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第11話 依頼終了

「フィーネさん。わたくし、もう消えるのよね」


 クリスタを作り出した場所へ着くと、彼女は表情を消して地面に座り込んだ。


「うん。もう、終わり」

「……ありがとう」


 空中に魔法陣を描く。眩い光がクリスタを包み、次の瞬間、巨大な光の花が現れた。

 クリスタを作った時と同じ、七色の花弁を持つ花。


「さようなら、クリスタ」


 花は美しく輝いた後、一瞬で枯れた。

 ぽとり、と花の中央からペンダントが落ちてくる。ペンダントは腐り始めていた。


 遺品を核に魔法人形を作る。物には死者の魂がわずかに残っていて、それを拡大し、死者に関する知識と繋ぎ合わせ、本物同然の人間を生み出すのだ。


 黒い光を放ち始めたペンダントを手のひらにのせた。ここにはまだ、クリスタの魂がわずかに残っている。

 けれど、魂はすり減っていて、もう元の人格は残っていない。

 もう一度このペンダントを核に魔法人形を作ろうとしても、出来上がるのは化け物だろう。


(だから、ちゃんと終わらせてあげなきゃ)


 両手でペンダントを丁寧に包む。白い光に包まれて、ペンダントは完全に消失した。


「安らかに眠ってね、クリスタ」


 杖をしまい、大の字になって地面に寝転がる。そういえば昨日は徹夜だったな、ということを思い出すと睡魔もやってきてしまった。

 とはいえ、家へ帰るまでが仕事である。

 フィーネは気力を振り絞って起き上がり、下山を始めた。


◆



 屋敷に戻ると、ハイドン侯爵夫妻は庭でユーリアと共にフィーネを待っていた。二人とも泣き腫らした目をしているが、晴れやかな表情を浮かべている。


(よかった)


 フィーネの姿を見つけると、二人は支え合うようにして共に歩き出す。彼らより先に、ユーリアが全速力で駆け寄ってきた。


「フィーネ、大丈夫⁉」

「大丈夫。ちょっと疲れちゃったけど」

「ちょっとじゃないわよ! 二十四時間、全属性の魔法を使いっぱなしにしてたんだから‼」

「……平気だよ、それくらい」

「無茶しないで。私が抱えてあげるから」


 そう言って、ユーリアはフィーネを抱きかかえようとした。慌てて止めると、不満そうな顔で見つめてくる。


「それより、帰りの馬車、探してきてくれないかな?」

「……分かった」


 頷くと、ユーリアは再び全速力で走っていった。行ってらっしゃい、という頃にはもう彼女の背中は見えなくなっている。

 ハイドン夫妻は口を大きく開けて驚いていた。


「……これにて、依頼は終了となります」

「「ありがとうございました」」


 ぴったりと重なった声に、二人はきっと大丈夫だろうと感じる。二人ならきっと、娘の死を乗り越えて前に進めるはずだ。


「クリスタのためにも、私達がこれ以上沈み込んでいるわけにはいかない。ようやく心の整理がついたのは君のおかげだ」


 そう言うと、ハインツは懐から革袋を取り出した。受け取って中を確認すると、金貨と銀貨が半分ずつくらい、びっしりと詰まっている。


「あの、料金は事前にいただいてますよ……?」

「これは礼だ。受け取ってくれ」

「……そ、それでは、ありがたく頂戴いたします」


 大金をあっさり遠慮できるほど懐に余裕はないし、せっかくの好意を断るのも野暮だろう。革袋を丁寧にしまうと、ユーリアが正門の方から走ってきた。


「フィーネ! 馬車、見つかったわよ」


 行きはハインツに同乗させてもらったが、帰りまでハイドン侯爵家の世話になるのは気が引ける。ユーリアも同じように考えているはず。


「もう帰られるの? もう少し、ゆっくりしていってもいいのに」

「お気遣いありがとうございます、クラウディア様。ですが、次の仕事がありますので」


 真っ赤な嘘である。次の依頼なんてまだきていない。

 身体も疲れているし、本音を言えばあと一日くらい屋敷で休ませてほしい。しかし、フィーネ達がこれ以上長居しても、二人にいい影響はないだろう。


「それでは失礼します。お二人とも――いえ、お三方とも、お元気で」


 慣れない笑顔はぎこちなかったかもしれないけれど、二人も笑い返してくれた。また会いましょう、なんて言わない。

 もう二度と、フィーネのことなんて必要としない方がいいに決まっているから。

 二人に背を向けて歩き出す。なぜか、いきなりユーリアに手を握られた。


「ユーリア、どうしたの?」

「なんとなく」


 ユーリアの手のひらは、フィーネのそれよりも少しだけ温かい。だから、手を握られるといつもホッとする。


「おつかれさま、フィーネ。よく頑張ったわね」

「……うん」

「貴女が二人を救ったの。やっぱりフィーネは、人を救う力を持ってるんだわ」


 相も変わらず、ユーリアはフィーネのことを誇らしげに語った。


「……あの二人が、乗り越えるだけの力を持ってただけだよ」

「私はそうは思わないわ。力を持っていた人でも、きっかけがないと始まらないことだってあるじゃない」


 ねえ、と笑いながらユーリアが腕を組んでくる。フィーネが黙り込んでしまうと、彼女は楽しそうに声を上げて笑った。


「お礼も弾んでもらっちゃったみたいだし、パーッと使っちゃいましょ。帰りの馬車で欲しい物、ちゃんと考えておかないとね」


 ユーリアが呼んでくれた馬車に乗り込む。ハイドン侯爵家が所有する馬車のように上等な物ではなく、座席部分がかなり硬い。

 それでも気が緩んで、座ると眠くなってきた。


「寝てていいわよ。なにかあったら起こしてあげるから」

「……ありがとう、ユーリア」


 目を閉じ、ユーリアの肩に頭を預ける。一分も経たずに、フィーネは意識を手放した。


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