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【書籍化決定】コミュ障の天才魔法使いは、王都の片隅でのんびりお店経営はじめます~魔法学園主席の少女は実力を隠して静かに暮らしたい~(旧タイトル:厭世の魔法人形屋)  作者: 八星 こはく
第一章 魔法人形屋『ルクス』

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第10話 お時間です

「フィーネ、そろそろよね?」

「うん。もう、連れて行かなきゃいけない」


 庭に設置されている時計を確認し、フィーネは一歩踏み出した。その途端、クリスタを庇うようにクラウディアが彼女を抱き締める。


「クラウディア様、お時間です」


 魔法人形を作成してから、もうすぐで約一日。別れの時間だ。


「……フィーネさん。どうにか期間を延長することはできない?」

「できません」

「お金ならいくらでも払うわ、お願い。あと少しだけでもいいの。一週間だけ、ううん、一日、一日だけでもいいから……」

「できないんです」

「……どうしてもなの?」

「はい」

「いっ、一時間でも?」


 無理です、と冷ややかな声で言い放ち、じっとクラウディアを見つめる。情に流されてはいけない。

 仮にあと一時間時間を伸ばしても、彼女は全く同じことを繰り返すだろう。


「……嫌。連れて行かないで」

「おかあさま、わたくしは……」

「嫌っ‼ 嫌なのっ‼」


 駄々っ子のように叫んで、クラウディアがクリスタを抱き締める。無理もない。彼女の口から真実を告げられたくはなかったのだろう。


(仕方ないけど、強硬手段に出るしかないな)


 懐から杖を取り出し、素早く空中に魔法陣を描く。草が伸びてクラウディアを拘束した。


「土属性魔法も使えるのかっ⁉」


 ハインツは驚きに満ちた眼差しをフィーネに向けた。昨日見せたのは風属性の魔法だから、フィーネが風属性の魔法使いだと思っていたのだろう。


「一応、全属性使えますが……それと、この魔法はただの拘束用ですので、ご安心ください」


 呆然とした表情で黙るハインツとは対照的に、クリスタは拘束された母の姿を見て叫んだ。


「おかあさまっ!」

「大丈夫。痛くない魔法を使っているから」


 動揺したクリスタの手を引く。目が合うと、クリスタは物分かりのいい表情で頷いた。


「……さようなら、おかあさま、おとうさま」

「待ってっ‼ クリスタ、待って……!」

「……フィーネさん、一瞬だけいい?」

「一瞬だけだよ」


 クリスタの手を解放する。するとクリスタは拘束されたクラウディアのもとまで走り、草で縛られた彼女をそっと抱き締めた。


「もう一度、会えてうれしかったわ、おかあさま」

「嫌よ、わたくしはまだ、まだ貴女と……」

「おかあさま。わたくしはもう、死んでいるの。おかあさまだって知っているでしょ?」


 クラウディアは応えず、苦しそうに呻いて地面を睨みつけた。そんな彼女の頬に、クリスタがキスをする。


「大好きよ、おかあさま。わたくしがいなくても、ちゃんとご飯は食べてね」

「……クリスタ」

「おとうさま、おかあさまをよろしくね」


 母親に背を向け、クリスタはフィーネの手をとった。その瞬間、待って‼ ともう一度クラウディアが叫ぶ。

 しつこいとは思わない。当然の反応だ。


(そしてここで強引に連れ去るのが、私の仕事)


 クリスタの手を握ったまま、クラウディアに背を向けて歩き出す。それでも、クラウディアの叫び声は止まらない。


「待って、待ちなさい……っ‼ 返して、その子をどうする気なの……⁉」


 きっと彼女にとって、叫ぶこと自体が重要なことなのだろう。クリスタが偽物だということは理解しているのだから。


 たぶんこれは、別れの儀式のようなもの。


 だったらフィーネも、その儀式を全うせねばならない。憎まれ役になるのは覚悟の上だ。


「返しなさい、この……っ、人殺し……っ‼」


 パアンッ、という乾いた音が聞こえて慌てて振り向く。

 そこには、呆然とした顔で赤くなった頬をおさえるクラウディアと、彼女を睨みつけるハインツの姿があった。


「いい加減にしろ」


 地を這うような低い声に、クラウディアがびくっと身体を震わせる。ハインツはフィーネに視線を向けると、深々と頭を下げた。


「妻の無礼な発言を許してほしい」

「え? あ、いえ……気にしていませんから、大丈夫です」


 彼女は錯乱状態にあった。それに、全くの濡れ衣というわけでもない。


「クラウディア。今のお前の姿をクリスタが見たら、どう感じると思う?」

「……旦那様……」


 ハインツが口にした『クリスタ』が指すのが魔法人形ではないことはフィーネにも分かった。


「私達は、クリスタが誇れる親であらねばならない。それに、次に生まれる子供のためにも、私達は前を向かなくてはならない。そのためにフィーネさんに依頼したんだ」

「おかあさま」


 クリスタは再びクラウディアに歩み寄ると、赤くなった彼女の頬を撫でた。そして、にっこりと笑う。


「痛いの痛いの、飛んでいけ!」

「クリスタ……」

「あのね、おかあさま。わたくし、おかあさまの笑顔が大好きなの。だから最後は、笑ってほしいな」


 覚悟を決めたように、クラウディアが息を吸い込む。そして、泣きながら笑顔を作った。


「愛してるわ、クリスタ」

「わたくしも愛してるわ、おかあさま」

「……そして……さようなら、クリスタ」


 震えながら、それでもクラウディアは別れの言葉を口にした。


「うん、さようなら、おかあさま」


 今度こそ本当に終わりだ。

 クリスタの手を握って歩き出す。彼女は振り向かない代わりに、瞳から大量の涙を流していた。


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