表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厭世の魔法人形屋~隠居希望の最強魔女、ゆっくり暮らしたいだけなのに、いつの間にか英雄になってました~  作者: 八星 こはく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/6

第1話 魔法人形屋『ルクス』

「フィーネ、起きて。もう朝よ!」


 大声と共に、がばっ、と勢いよく布団をめくられる。窓から差し込む朝日が眩しい。慌てて布団に手を伸ばした手は、呆気なく掴まれてしまった。


「お・は・よ・う。寝坊は駄目って言ったでしょ。もう朝ご飯もできてるのよ?」

「……うう、おはよう、ユーリア」


 眠い目をこすりながらなんとか挨拶を返す。するとユーリアは、笑顔でフィーネの頭を撫でた。

 ツーサイドアップにした桃色の髪の毛、サファイアのように澄んだ瞳。おまけに声まで可愛いこの美少女はユーリア・フォン・コルネリウス。フィーネの親友である。


「今日は朝からステーキだから、元気出して!」

「……朝からそんなに食べられるかなあ」

「食べられるわよ。フィーネ、いつもたくさん食べるじゃない。それに、いっぱい食べて大きくならないとね」

「私、もう二十二歳なんだけど」

「大丈夫。きっとまだ成長期よ」

「食べるから、あとちょっとだけ寝せて……」

「だーめ!」


 腰に手を当てて大声を出すと、ユーリアは片腕でフィーネを荷物のように持ち上げた。


「歩ける、自分で歩くから!」

「私が運んだ方が早いもの」


 暴れて落とされるわけにもいかない。フィーネは諦めて、おとなしく運ばれることにした。

 姿見に映ったフィーネは、ユーリアにいじられる程度には小柄な身体をしている。

 成人女性とは思えない背の低さと華奢な身体。腰まで伸びた白銀の髪には寝癖がついており、前髪で右目が隠れてしまっている。


(こんな私が、今日からは『ルクス』のオーナーだなんて……)


 溜息を吐くと、すぐにユーリアが反応した。


「フィーネ。辛気臭い顔してたらお客さんが逃げちゃうわよ。接客中は笑顔を心掛けること!」

「……善処はする、けど……」


 再び溜息を吐いたフィーネの不安を吹き飛ばすように、ユーリアはお手本のような笑みを浮かべた。


「さあさあ、食べて食べて!」


 居間のテーブルには、先程ユーリアが言っていた通りフィーネの朝食が用意されていた。

 焼き立てのパンとバター、それから牛肉のステーキ。ステーキには林檎と蜂蜜をベースに作られたフルーツソースがかけられている。


「パンはおかわりもあるからね」


 そう言いながら、ユーリアはフィーネの髪を櫛でとき始めた。その間に、フィーネは急いで食事を腹の中へ詰め込む。


(今日のステーキ、いつものより絶対高い……)


 脂がたっぷりとのった牛肉は柔らかく、歯を立てるとあっという間にとろけてしまう。なのに、くどさは全くない。

 フルーツソースとの相性も抜群で、いくらでもパンをおかわりできそうだ。


「美味しい?」

「……うん」

「じゃあ大丈夫。美味しい物を美味しいって感じられるうちは平気だから」

「だといいんだけど……」


 ユーリアはこう言うものの、フィーネは不安しかない。とはいえいつまでも文句を言うわけにもいかず、無言で朝食を食べ終えたのだった。





 現在、フィーネはユーリアと二人で二階建ての家に暮らしている。石造りの立派な家は、ユーリアの希望を聞きつつ、昨年フィーネが注文した物だ。

 先月、ようやくこの家が完成した。王都に家を建てるにはそれなりに金がかかり、手元にはほとんど金が残っていない。だから――というわけでもないのだが、ユーリアから熱心に勧められ、フィーネは店を開くことにした。


「お客さんくるかしらね」


 楽しそうな声で言いながら、ユーリアが一階のカーテンを開ける。大きな窓から朝日が差し込んで、店内が一気に明るくなった。


(明るすぎる気もするけど、お店としてはこれくらいがちょうどいいんだろうな)


 家の二階部分が居住スペースで、一階は店舗だ。二階もユーリアのおかげで綺麗に整理整頓されているが、一階はさらに徹底的に掃除され、塵一つ残っていない。


「……初日からお客さんはこないんじゃないかな。宣伝もあんまりしてないし」

「でも、街中にちらしを貼ったじゃない。中央ギルドにお願いして、各地のギルドにも掲示してもらったし」

「それはそうだけど……」

「大丈夫よ。絶対需要はあるわ。だって、フィーネにしかできないことだもの」


 きらきらとした瞳で見つめられると、彼女を騙しているような気分になってしまう。


(ユーリアが思うほど、私には才能がないから)


 本当はこんな店を開くつもりもなかった。でも、これ以上彼女をがっかりさせたくない。


「……うん。できる限り、頑張ってみるよ」




「暇ね」

「うん……」


 オープンから約二時間。気軽に入るような店ではないから仕方ないものの、来店者ゼロではやることが全くない。


「私、外でちらしでも配ってこようかしら」

「えっ、も、もしユーリアがいない時にお客さんがきたらどうするの?」

「フィーネが接客するのよ。オーナーでしょ」


 そんな……とフィーネが絶望しかけた時、チリン、とベルが鳴った。慌てて会話をやめ、入口へ視線を向ける。

 中に入ってきたのは、焦げ茶色の髪をした品のいい紳士だった。服装から察するに、かなり身分の高い人間だろう。


「ほらほら、フィーネ、挨拶」


 耳元でユーリアが囁く。ユーリアがやってくれればいいのに、と思いながら、フィーネはぎこちない笑みを浮かべた。


「……ようこそ、魔法人形屋『ルクス』へ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ