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第10章 — チャイムの後で

トンネル内は、懐中電灯の眩しい光と向けられた銃口で埋め尽くされた。

イーサンの隣で、マーカスは肩で息をしながら立ち尽くしていた。

サイラスは大げさな失望を装いながら、ゆっくりと両手を上げた。

「ふむ、」彼はため息をついた。「これはまた、ずいぶんと一方的な決めつけを感じるな」

「黙れ! 銃を捨てろ!」一人の警官が怒鳴りつけた。

サイラスがイーサンの方を向いた。

「精神的なレベルで、権力ってやつが肌に合わないんだ」

「今は黙っていろ」イーサンが低く言った。

ナオミ・レイエス刑事が警官たちをかき分け、銃口をイーサンに向けたまま前に出た。

彼女の表情には、疲労と激しい怒りが刻まれている。

「あんた、」彼女はゆっくりと言った。「今すぐ説明を始めてもらうわよ」

彼女の背後では、警官たちが地下トンネルの奥、倉庫の銃撃戦の現場へと駆け込んでいった。

コンクリートの廊下にアラームが響き渡る。

突然、マーカスが口を開いた。

「先生のせいじゃない」

全員が彼を見た。

少年は生唾を飲み込んだが、言葉を止めなかった。

「先生が、俺を助けてくれたんだ」

イーサンは一瞬、目を閉じた。

それは、事態をさらに複雑にすることを意味していた。

レイエスは二人を慎重に見比べ、それからイーサンの背後の壁に目を向けた。

生徒たちのファイル。

写真。

心理プロファイル。

刑事の表情が、猜疑心から即座に戦慄へと変わった。

「一体……これは何なの?」

誰もすぐには答えなかった。

もはや、単純な答えなど存在しなかったからだ。

これは単なる人身売買ではない。

「組織による捕食インスティテューショナル・プレデーション」。

体系的で、

計算され尽くした犯罪。

レイエスは地下の事務室に踏み込み、ファイルをスキャンするように見た。

「なんてこと……」

彼女の声は、先ほどよりも静かに、そして危険な響きを帯びていた。

やがて彼女は、床に落ちていたハロルド・ウィットモアの承認記録に目を止めた。

その顔に「認識」の色が走る。

「……副校長が?」

「繋がっている」イーサンが慎重に答えた。

「繋がっている?」レイエスが声を荒らげた。「ここにあるのは子供たちのファイルよ!」

サイラスが首を傾けた。

「公平に言えば、『繋がっている』というのは技術的に正確な表現だな」

数人の警官が即座に再び彼に銃を向けた。

サイラスは心外だという顔をした。

「犯罪者にもっと礼儀があった時代が恋しいよ」

レイエスは彼を完全に無視し、イーサンに意識を戻した。

「あんた、これを知っていたのね」

「一部は」

「いつから?」

「食い止めるには、遅すぎた」

その答えは、二人の予想以上に重く響いた。

レイエスは彼を注意深く観察した。

またしても、あの奇妙な矛盾だ。

イーサンの動きは犯罪者のそれではない。

話し方も違う。

彼は疲れ果て、

怒り、

そして何かを守ろうとしている。

崩れ落ちそうな欠片を、素手で必死に繋ぎ止めようとしている男の目だ。

不運なことに、彼は現在、違法な武器を手に、二人の極めて不審な男たちと共に、隠された売買拠点の中に立っている。

客観的な状況としては、最悪と言っていい。

一人の警官がレイエスに駆け寄った。

「刑事、上で遺体が見つかりました」

「数は?」

「武装した男が4人。それと、女性が一人」

ミリアム・ヘラー。

レイエスは短く目を閉じた。

「ウィットモアは?」

警官は首を振った。

「姿はありません」

だろうな、とイーサンは思った。

ウィットモアのような男は、報いが訪れる前に必ず姿を消す。

レイエスは小声で毒づいた。

その時、別の警官がトンネルの入り口から現れた。

「刑事、メディアの無線傍受で警察の動きが漏れました。すぐに公式発表の準備を」

完璧だ。

それこそが、ヴァンガードの狙いだった。

大衆の混乱。

困惑。

そして圧力。

レイエスは鋭くイーサンの方を振り返った。

「あんた、署まで来てもらうわよ」

サイラスが即座に指を立てた。

「反対意見。行かないね」

一瞬で3挺のライフルが彼に向けられた。

「サイラス、」ギデオンが疲れ切った声で言った。「頼むから人質状況をこれ以上悪化させないでくれ」

マーカスが不安そうに全員を見比べた。

「先生を逮捕するなんてできないはずだ」

レイエスは少年に同情的な視線を向けた。

「坊や、あんたの先生は売買組織の地下で軍用規格の武器を持っていたのよ」

マーカスはためらった。

「……そう言われると、確かに聞こえが悪いな」

「悪いどころじゃないわ」

事態がさらに泥沼化する前に、イーサンが冷静に一歩前に出た。

「マーカス」

少年は即座に彼を見た。

「家に帰れ」

「え?」

「今すぐだ」

マーカスは激しく首を振った。

「嫌だ」

「マーカス」

「こんなことがあったのに、何もなかったフリをしろって言うのか!?」

少年の声に、隠しきれない恐怖が混じった。

それでいい。

恐怖を感じるということは、ようやく現実が彼を打ちのめしたということだ。

「あんた、みんなに嘘をついてたんだな」マーカスが静かに言った。

イーサンは弁明しなかった。

自分の世界観が崩壊したばかりの16歳の少年に、納得させられる言い訳など存在しないからだ。

やがてイーサンは、優しく言った。

「お前を守ろうとしていたんだ」

先に目を逸らしたのはマーカスだった。

それはイーサンが予想していた以上に、彼の心を痛めた。

レイエスもまた、その一瞬を見逃さなかった。

興味深い。実に関心深い関係だ。

誰かが口を開く前に、イーサンのポケットでスマートフォンが振動した。

「非通知」。

そのタイミングの良さに、イーサンの背筋を氷が走った。

レイエスが即座に気づいた。

「……出なさい」

イーサンは一瞬ためらい、それから通話ボタンを押した。

歪んだ声が、平然と戻ってきた。

『生き延びたな』

レイエスは即座に部下たちへ逆探知の指示を出した。

イーサンは他の者たちからわずかに離れた。

「何の用だ」

受話器の向こうで、低い笑い声がした。

『祝福を言いにきたのさ』

「何のだ」

『君は正式に、物語の一部となった』

イーサンの目が細められた。

周囲では、警官たちが壁一面の生徒ファイルを撮影し、マーカスは階段のそばで完全に自分を見失ったような顔で立ち尽くしている。

声は続いた。

『警察は君を疑っている。教え子は君を恐れている。君の学校は侵食された』

沈黙。

『実に見事な物語の進展ナラティブ・プログレッションだ』

イーサンの顎に力がこもった。

「フィクションのように語るのをやめろ」

『あらゆるシステムはフィクションだよ、ヴェイル先生』歪んだ声が冷静に答えた。『学校、政府、法律……人間が共同で信じることに決めた物語に過ぎない』

また、あの哲学だ。

冷酷で、

超然としていて、

危険。

「レナはどこだ?」

今度の沈黙は長かった。

やがて、

『……彼女、君のことを聞いていたよ』

その一言が、よろめくほどの安堵感となってイーサンを打った。

生きていた。

まだ、生きている。

声は、彼の反応を楽しんでいるようだった。

『彼女は、君が助けに来てくれると信じている』

イーサンはスマートフォンを握る手に力を込めた。

「助ける。必ずだ」

また、静かな笑い。

『その自信こそが、私が君を選んだ理由だ』

――プツリ。

通話が切れた。

レイエスが即座に歩み寄ってきた。

「逆探知できた?」

近くの警官が首を振った。

「捨て駒のサーバーを経由しています。追跡不能です」

だろうな、とイーサンは思った。

レイエスがイーサンを凝視した。

「電話の主、あんたのことを個人的に知っているわね」

イーサンは答えなかった。

恐ろしいのは……

彼女の指摘がおそらく正しいということだった。

3時間後。夜明け直前、イーサンはようやく自宅に戻った。

都会のスカイラインが、近づく朝の光を受けて淡い青色に染まっている。

全身の筋肉が悲鳴を上げていた。

アパートの廊下は、頭上の古い蛍光灯が点滅しながら立てるノイズを除けば、静まり返っていた。

その時、イーサンは自分の部屋のドアがわずかに開いていることに気づいた。

即座に脈拍が落ち、「警戒モード」に切り替わる。

また誰かが中にいたのだ。

イーサンはコートの下から静かに拳銃を抜いた。

アパートの中は暗く、静まり返っている。

あまりにも、静かすぎた。

彼は慎重にドアを押し開けた。

動く気配はない。

キッチンは手つかず。

リビングもそのままだ。

だが、窓際の本棚が無残に破壊されていた。

床中に本が散乱し、

ページは引き裂かれ、

引き出しはひっくり返されている。

組織的な捜索の跡。

意図的な破壊。

今度は、彼を怯えさせようとしているのだ。

回りくどい方法ではない。明確なメッセージだ。

その時、イーサンの耳に届いた。

奥の部屋から、かすかな床板の軋む音が。

彼は廊下を音もなく移動した。

銃を構え、

鼓動を一定に保つ。

寝室のドアが半分開いていた。

イーサンはそれをゆっくりと押し――

――そして、動きを止めた。

窓際に、ナイフを手にした覆面の侵入者が立っていた。

そしてもう一人、背後の闇から音もなく現れた。

プロだ。

待ち構えていたのだ。

二人のうちの一人が、マスク越しに冷静に語りかけてきた。

「ヴェイル先生」

都会の明かりを受けて、ナイフの刃が鈍く光った。

「君を思いとどまらせるのは、どうやら非常に骨が折れるようだ」

次の瞬間、二人の襲撃者が同時に躍りかかってきた。

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