第198話:『おばちゃん、“水の気配を感じる”』
風切りの崖を、
守護の影に守られながら進む一行。
風は鋭く、
崖の縁では草が横倒しになり、
空気が切り裂かれるような音が響いていた。
ユウトは影に守られながら叫んだ。
「おばちゃん!!
影が……
風を押し返してくれとる!!
すごい……!」
トモエは前を見据えたまま言った。
「うちの影は“守る影”やからな。
こういう時こそ本領発揮や」
カザミは風を読みながら言った。
「この崖は、風の谷を出る者への“最後の試練”。
でも……
あなたたちはもう風に認められてる。
だから風も……
あなたたちを傷つけない」
リリアは影の後ろで震えながら言った。
「でも……
風、強すぎるよ……!」
カイルは風の流れを観察しながら言った。
「大丈夫です……
影が風の“乱れ”を吸収しています……
これは……
とても珍しい現象です……!」
セイルは静かに言った。
「守護の影は……
“外からの力”に強い。
風のような自然の力を受け止めるのに向いている」
エルミナは祈るように言った。
「……どうか……
影があなた方を守り続けますように……」
シアはトモエの影を見つめた。
「トモエ。
あなたの影は……
まだ完全じゃない。
でも……
“守る心”が強いからこそ、
こうして姿を保てている」
トモエは影に向かって言った。
「ありがとうな。
もうちょい頼むで」
影は静かに頷いた。
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◆ ◆ ◆
◆ 崖を越えた先に広がる“静寂”
風切りの崖を抜けた瞬間──
風が止んだ。
空気が静まり返り、
草は穏やかに揺れ、
まるで別世界のようだった。
ユウトは息を呑んだ。
「……おばちゃん……
急に静かになった……
なんか……
空気が変わったみたいや……」
カザミは頷いた。
「ここから先は……
“水の領域”。
風の力が弱まって、
水の気配が強くなる」
リリアは辺りを見渡した。
「水の領域……
なんか……
空気がしっとりしてる……」
カイルは地面に触れながら言った。
「湿度が上がっています……
これは……
水鏡の湖が近い証拠です……!」
セイルは静かに言った。
「水は……
心の“深さ”を映す。
風とは違う試練が待っている」
エルミナは祈るように言った。
「……どうか……
水があなた方を受け入れますように……」
シアは空を見上げた。
「水鏡の湖は……
“心を映す湖”。
影の底とは違うけれど……
心の奥を覗かれる場所」
ユウトは胸に手を当てた。
「うち……
影の底で自分の心を見たけど……
まだ……
全部見えたわけちゃうんやろか……」
トモエはユウトの肩を叩いた。
「大丈夫や。
あんたはもう強い。
水が何を映しても……
うちは隣におる」
ユウトは笑った。
「……ありがとう、おばちゃん」
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◆ ◆ ◆
◆ 水鏡の湖への道
崖を越えてしばらく歩くと、
空気がさらに湿り、
風の音が消え、
代わりに“水の音”が聞こえてきた。
リリアが耳を澄ませた。
「……水の音……
川の音じゃない……
もっと……
静かで……
深い音……」
カザミは頷いた。
「水鏡の湖は……
風の谷とは違う静けさを持ってる。
風が歌う場所なら……
水鏡の湖は“心が沈む場所”」
カイルは地図を確認しながら言った。
「湖まではあと半日ほどです。
ただ……
途中に“水の霧の森”があります」
ユウトは首をかしげた。
「水の霧の森……?」
セイルは説明した。
「水の精霊が作り出す霧が漂う森。
霧は心を映し、
迷いを増幅させる」
エルミナは祈るように言った。
「……どうか……
霧があなた方を惑わせませんように……」
シアはトモエに言った。
「トモエ。
あなたの影……
“守護の影”は霧に強い。
霧は心を揺らすけど……
守る影は揺らがない」
トモエは影に向かって言った。
「頼りにしとるで」
影は静かに揺れた。
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◆ ◆ ◆
◆ 水の気配が“形”になる
森の入口に近づいたとき──
空気が急に冷たくなった。
ユウトは肩を震わせた。
「おばちゃん……
なんか……
寒い……
水の気配が……
強くなっとる……」
リリアは腕を抱えた。
「空気が……
重い……
風の谷とは全然違う……」
カザミは真剣な表情で言った。
「水の精霊が……
あなたたちを見てる。
風の精霊とは違って……
水の精霊は“静かに観察する”」
カイルは周囲を見渡した。
「霧が……
出てきています……
これは……
水の精霊の“前触れ”……!」
セイルは静かに言った。
「水は……
心の底を映す。
影の底とは違うが……
“隠している感情”が浮かび上がる」
エルミナは祈るように言った。
「……どうか……
水があなた方を拒みませんように……」
シアは森の奥を見つめた。
「来るよ。
水の試練の“前兆”が」
その瞬間──
霧が渦を巻き、
森の奥に“何か”が現れた。
ユウトが息を呑んだ。
「おばちゃん……
あれ……
人影……?」
トモエは目を細めた。
「いや……
ちゃう……
あれは……
水の……
“影”や……」
霧の中に立つ影は、
人の形をしているが、
輪郭が揺れ、
水のように透き通っていた。
カザミは震える声で言った。
「あれは……
“水の心の影”……
水鏡の湖へ向かう者の心を映す存在……」
セイルは静かに言った。
「水の試練が……
始まった」
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第198話では、
風切りの崖を越えた一行が
“水の領域”へ足を踏み入れ、
水の試練の前兆と対面する回
が描かれました。
今回のポイントは、
• 風の谷を正式に出発し、新章へ移行したこと
• 水鏡の湖の性質(心の底を映す)が示されたこと
• 水の霧の森という新たな舞台の登場
• “水の心の影”という不穏な存在の出現
という、次章の核心へ向けた重要な伏線が多く含まれています。
次回、第199話では
水の霧の森で、“水の心の影”が一行の心を揺さぶる回
が描かれます。
これからも、おばちゃんの物語を
どうぞよろしくお願いいたします。




