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第四章「記憶の紬」4

 レオンに任せると言ったものの、レヴィンスは不安だった。通信手段がない以上、意思疎通のできない状態で作戦を完遂しないといけない。自分たちの存在すら気づいてない味方に、自分たちの存在をアピールして、こちらの意図が伝わるように攻撃をしないといけないのだ。


 成功にはタイミングが重要だ。ヘリがこちらに向かってくるタイミングでキューブに向かって発砲。レオンの見立てではグレイブの優先事項が切り替わり、ヘリが進入できる隙が生まれる。着陸する時間もスペースもいらない。必要なのは、ヘリがレフォルヒューマンを投下できるほど降下する時間のみだ。


 たとえ自分たちが見つかるまでに殲滅が間に合わなくても、レフォルヒューマンが降り立った時点でグレイブの討伐は開始される。クレハがまだ生き残っていたら、救出してくれるかもしれない。


 幼馴染を救い、グランツェという連邦二番目の主要都市を救い、結果として多くの人の命を救う。その命運を目の前の男に託す。いままでずっと背中で引っ張てくれた親友に——。


 再度ヘリのブレードスラップ音が近づいてくる。レオンが銃を構えた。威風堂々と立つその姿こそがレヴィンスにとって今まで追ってきた背中であり、そして長年連れ添った友のものだ。だからこそ命を預けられる。命運を託せる。


 レオンが引き金を引いた。僅か三八口径の銃口から吐き出された弾丸は、不動のキューブの装甲にあたってはじかる。ただそれだけ。目立ったダメージはないように思もえた。


 それと同時にヘリの音に注視していたグレイブたちが一斉に振り向いた。レオンは発砲と同時に屈んでダストボックスの影に入ったが、奴らは熱をたどってくる。


 レヴィンスは願った。たのむ気づいてくれ。奴らの気をひいていることを。グレイブも走って寄ってきているわけではない。警戒しながらゆっくりと、獲物を刈る前の低い姿勢で寄ってくる。


「降りてくる前に、俺たち死ぬかもな」


 レオンが言った。レオンは引き金に指を置いていつでも発砲できるようにしている。せめてもの最後の抵抗をするつもりなのだ。レヴィンスも引き金に指を置いた。


 グレイブの影が見えるようになった。最初の一匹が車道を渡り終えてしまったのだ。コツコツと無機質な足音が近づいてくる。その音がダストボックスを挟んでまじかに迫ってきたその時だった。


 グレイブが急に体を反転させた。一切の間を開けずに機銃が影に染まったビルの外壁を明滅とさせた。


 レヴィンスは気が付いた。レフォルヒューマンがキューブの機械獣を破壊したのだ。気づいたときには、レオンが立ち上がっており、その手に握られた銃で発砲していた。


 最も接近してきていたグレイブの機銃に二発の弾丸が撃ち込まれる。機銃は力なく傾いだ状態となって火花を散らした。


 混乱した本体が振り向いたときには、レオンが次弾の照準を合わせていた。グレイブの喉元にへばりつくシアンの袋にヒット。機血が四散する。


「行くぞ! レヴィンス」


「おう!」


 レヴィンスは自分を鼓舞するように叫ぶと、レオンに続いて、大通りへと飛び出した。


 レオンの射撃は的確だった。先に主要武器である機銃を無力化する。サイドからまわりこんだレヴィンスがコアを撃ち抜く。完璧な連携で近場のグレイブ一機を仕留めた。


 その間にもレフォルヒューマンは続々とヘリから降りてくる。先に降りたレフォルヒュ―マンの一人が人とは思えない速度で移動し、グレイブの機銃掃射を交わしながら接近。機銃は忙しなく首を回し、レフォルヒューマンを追う。


 しかし、照準は追いつかない。レフォルヒューマンがグレイブの間近に迫り、機銃の死線が重なろうとしたその時、レフォルヒューマンは飛び上がった。空中で身体をまるめ高速で回転。滞空時間をなるべく減らす動作だ。着地した時にはグレイブの頭部が跳ね上がっていた。


 他のグレイブの機銃がターゲットを絞るころには、レフォルヒューマンはすでに移動し、狙いをつけてくるグレイブのサイドにまわりこんでいた。今度は機銃を先に切り飛ばすのかと思いきや、レフォルヒューマンは、移動した勢いをそのままに光の刃をグレイブの胸からいれ、そこから機銃までをまっすぐ両断した。


 あまりの思いっきりの良さにレヴィンスは唖然とした。


 そうこうしている間にも、残りのグレイブも他のレフォルヒューマンが倒し、その場は鎮圧された。


 一人のレフォルヒューマンがレヴィンスに近づき声をかける。男の声だった。


「あんたが、グレイブの気をひいてくれたのか?」


「いや、俺じゃなくて、レオンが」


「レオン? お前以外に人間は見えねえが?」


 レヴィンスは、はっとしてあたりを見回した。そういえば飛び出してから最初のグレイブを倒して、そのあとレオンの姿を見ていない。


 乱戦が始まってからまだ一分と経っていない。いったいどこへ?


「とりあえず、仲間がいたってことなんだよな?」


「ああ」


「どこ所属なんだ?」


「パウロ軍大学、航空科所属だ」


「航空科……。ジェームは乗れるか?」


「ああ、まだ俺は試験を通ってないが、問題ない。乗れる」


「なら、早く戻った方が良い。パイロットが不足してるんだ」


「まってくれ。レオンも航空科なんだ」


「だったらオレが連れ戻す。ジャミングは解除されたんだ。位置情報だって出るだろうよ。それに、地上はオレたちに任せろ。あんたは自分の主戦場で戦え」


 男の口調に押されて、レヴィンスは手を引くことにした。


 広場に降りてきたヘリにレヴィンスは乗り込む。一番手前の席についた。


 レオンは、いったいどこへ行ってしまったのか。決まっている。


 広場を制圧できることを予想したレオンはその場を離れ、クレハの救助に向かったのだろう。レオンは三年前と何も変わっていない。レオンは無謀だとわかっていても、たとえ希望がなくても身内が危険にさらされれば助けに向かってしまう奴だ。三年前、巨大な機械獣にエーデルが襲撃された時、一人で家族のいる家に向かおうとしたように。


 気づかなかった。家族がいなくなったレオンにとって、クレハはただの親友でも幼馴染でもない。かけがえのない大切なもの。彼にとっては家族と変わらない。失いたくないという強すぎる思いが、レオンをそうさせたんだ。


 ヘリは離陸した。レヴィンスは胸ポケットから情報端末を取り出す。地図にレオンの位置情報を表示させ、」操縦席へ向かう。


「戻る前に向かって欲しいところがある」


「仲間の回収か?」


「そうだ」


「残念だけど、このヘリは大きすぎるからね。道路に着陸できない。いま小型のヘリが向かっているから大丈夫さ」


「そんな流暢なこと」


「そう。そんな流暢なこと言っていられない。事は一刻を争う」


 そこでレヴィンスに疑問が生まれる。そういえば、なぜこんなにも早く救助が来たのだろう。普通、都市内の住人の非難が先だ。まだ、グレイブが現れて一時間もたっていない。その短時間で全ての住人を安全な場所に避難させることは不可能だ。


「なんでこんなに早く俺たちを救助しに来たんだ。普通。グランツェの住民を避難させるのが先だろ」


「不思議なことに有人街は襲われていないんだ。だから、住人の非難を優先させる必要がない。我々人間は有人街への侵入経路を塞いでいればいい。その間にレフォルヒューマンがあの犬どもを駆逐してくれる。だけど、脅威はそれだけじゃないんだ。厄介な奴が都市に接近してきてしまった。すぐパイロットが必要だ」


「厄介な奴ってなんだよ!」


 パイロットの回りくどい言い方にいらだったレヴィンスは叫んでしまっていた。しかし、パイロットは声色を変えずに答える。


「ギガセンテ。三年前エーデルを襲撃したあの機械獣だよ」

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