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第四章「記憶の紬」2

 レオンはレヴィンスと一緒に行動していた。レオンの所属する分隊は、訓練ボットを追ってビル群の隙間へと入った。車一台が通るのにやっとな狭い路地を奥の方まで追ってようやく訓練ボットを制圧。


 目抜き通りへと戻って次のターゲットを探していたタイミングで奴らは現れたのだ。


 グレイブの追尾は凄まじいものだった。ビルの影にすぐ姿を隠したというのにあっという間に追いつかれてしまった。後方にいた仲間から撃たれ死んだ。容赦のない銃声と、悲鳴がビルに反響して何度も押し寄せてくる。仲間が倒れても奥の方へ進んだ。ビル四棟がつくる少し開けた場所に出て、ようやく隊は迎え撃つ態勢に入る。しかし、姿を現したグレイブは仲間を次々に撃った。


 レオンが拳銃を訓練モードから実弾モードに切り替えた段階で二人が死に、グレイブに照準を絞った段階でまた一人。そして機銃がそばに立つレヴィンスに向いた段階でようやくレオンが発砲。幸いか、その一発がグレイブのコアを撃ち抜いて、殺戮犬はようやく停止した。


 首をぐるりと覆っているコアからシアンの血を流して、先ほどまでの殺戮がウソだったかのように停止している。


 生き残れたのは運がよかったとしか言いようがない。グレイブが姿を現した時、たまたまレオンの位置が一番遠かった。そして拳銃を実弾モードに切り替えて構えるまで、僅か五秒。その間にも三人も殺されたのだ。そして、生きている仲間はレヴィンス以外いなくなった。


 レヴィンスが生き残れたのも奇跡に等しい。


 レオンは頽れた機械犬のまえで、魂がぬけたように固まるレヴィンスの肩を叩いた。


「おい、レヴィンス。すぐ移動するぞ」


「みんな死んじまった……」


「そうだな。でも、今嘆いても仕方がない。早く移動するぞ」


「なんで、そんなことが言えるんだ。さっきまで協力してた仲間じゃないか」


「訓練のためだけに組まれた隊だ。気にするな。それにここはもう戦場だ。気を保っていないと死ぬぞ」


「おまえ、クレハでもそんなこと言えるのかよ」


 その名前が口からこぼれた瞬間、レオンの拳はレヴィンスに向かっていた。きつく握りしめた拳がレヴィンスの頬骨を殴打する。


 クレハという名前は、いま一番聞きたくなかった名前だ。レオンは、尻餅をついた状態で唖然とするレヴィンスの胸倉をつかみ上げる。


「いま、気にしたって、どうにもならないだろ。 自分が生き残ることに集中しろ」


 意気消沈だったレヴィンスの目が段々と自分に焦点が定まってくる。レオンは、レヴィンスの腕を引っ張って無理やり立たせた。


「行くぞ。さっきの銃声でグレイブが集まってくる」


「行くって、どこに?」


「生き残っている分隊がいるかもしれない。合流できたら生存確率も上がる」


 レオンは、他の隊との通信を試みる。だが、反応を示す隊はない。


「ジャミングされたみたいだ。どうやら機械獣は、とことんやる気みたいだな」


 敵地のど真ん中で孤立し、被害状況もまったくわからない。レヴィンスを連れてどこまで生き残れるか……。


 歩き出そうと一歩踏み出そうとした時、不意にクレハの笑顔が頭に浮かんだ。目の前が真っ暗でも、自分のことを照らしてくれた明るい笑顔。失いたくない。いつも傍に居てくれた。レオンにとって太陽のような存在。


「くっそ!」


 焦燥に駆られる。だが、抑えなければいけない。機械獣がどこに潜んでいるかもわからない状況で、無鉄砲に動けば確実に死ぬ。


 冷静になれと自分に何度も言い聞かせた。それで、落ち着けばどれだけ楽か。状況は思うように動かない。


 進もうとした道の先にグレイブがいた。いつ現れたのだろう。余計なことを考えている隙に接近されてしまったか。


 機銃の赤いレーザーポイントがレオンの胸を照射する。


(死んでたまるかよ。こんなところで死ねるわけがない)


 銃身のスライドを引いて銃を構える。引き金を引くと同時、向こうの機銃が発砲炎を吐き出す。レオンが死を悟った瞬間、左腕を強く引っ張られた。下の方から引きずり込まれるような引っ張られ方にレオンは否応なく倒れてしまう。


 レオンが撃った弾は、グレイブの左側をかすめ、グレイブの弾は、レオンを貫くことなくビルの壁面に衝突。一瞬何が——、と思ったがレヴィンスが引っ張ったのだと、遅れて理解した。レオンの思考が追いついてきたころには、レヴィンスが屈んだまま銃をグレイブに向けていた。銃声が三回響く。


 銃弾が命中するたびにグレイブは何かに強打されたように体をよじり、三発目の弾が命中すると力なく頽れた。


 レオンがあっけにとられていると、レヴィンスが立ち上がり、レオンに手を差し出す。


「おまえ、人を殴るほどの説教しといて、先に逝くとかなしだからな」


 一度は死を覚悟した。せめて相打ちならレヴィンスが生き残れるだろうと思って、撃とうとしたのだが、蛇足だったか。


 レオンは、レヴィンスの手をとり、立ち上がった。


「おう。ありがとよ」

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