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第三章「記憶の芽吹き」2

 クレハがレオンをはじめて連れて行ったお店は、基地から徒歩圏内で行けるサンドイッチのお店だった。翌日はそこより少し離れたステーキのお店。その翌日はパスタ料理。頭を刺激するようなスパイスの効いたスープ料理のお店。徐々に車で行くような、遠くのお店にも行くようになった。クレハの知る限りのお店にレオンを連れて行った。レオンは、どのお店に行っても美味しそうに食べてくれた。


 和やかな日々が過ぎていった。そんなある日、突然レオンが食事以外にも出かけたいと言いだした。理由は、もっと人のことを知りたいからということらしい。


 それは別に問題ない。出撃の順番が当分廻ってこないレオンを基地の外へ連れ出すことは何も問題がないはずだ。ただ、一つ難点がある。


 それは、レオンの格好だ。レオンは、機械化してからのほとんどを基地内で過ごしてきたため、つなぎのような軍服しか持っていない。その格好で外の料理店に向かうというのは、他の軍人さんもやることなので、庶民からも見慣れた光景である。ただ、さすがに娯楽施設となると話は別だ。わいわいきゃっきゃするような所にアサルトライフルの似合う軍服姿で、しかも機械化したせいで人よりも明らかに筋骨隆々に見える男が現れれば、そこにいる一般の人たちは何ごとかと思うだろう。さすがにパニックを起こさせることはないだろうけれど、悪目立ちは避けられない。




 ……ということで、クレハは、レオンをお出かけに誘う前に、服を買いにアパレルショップを訪れた。男性服エリアに行って服を物色する。上半身はそこまで特殊な体格ではないから白地のティーシャツに黒系のシャツジャケットでいいかなと手に取ってみる。生地がしっかりめだから、羽織ってアウターとしても使えそうだった。レオンの体格でも着れるかじっくり見極めてから、買い物かごへ入れた。


 問題は下だ。レフォルヒューマンの下半部は、歩行時の安定性を高めるために大きくなっている。一般人が逆三角形の体系だとすると、レフォルヒューマンはその逆の三角形だ。脚の太さも人の二、三倍はあるし、臀部も同様だ。だから、太い下半身に対してバランスをとれるように、トップスは横幅にゆとりを持ったビッグシルエットのシャツを選択していた。


 しかし、クレハはメンズのチノパンコーナーに移動して陳列棚の前で固まってしまった。どう考えても履けそうなものが無い。一番大きなXLでさえ、レオンの脚を通さないだろう。


 しばらく固まっていると、悩んでいると思われたのか、店員が近づいてきた。小顔の若い、にこやかな笑顔の女性店員。やばい。なんて、答えよう。


「男性へのプレゼントですか?」


「ええ、そうなんです。お出かけ用の服が欲しい、と言っていたので」


「そうなんですね。サイズとか、解ったりとかしますか?」


 あれ、と思って考えてみる。異性なのにスリーサイズ知っていたら恋人同士だと思われるんじゃ……。そういう態で接客されると面倒くさいな。いや、でも変に断れないし……。


 結局、クレハは、答えてしまった。


「ウエストは七五でヒップは一三〇あります」


 店員はぎょっとした視線をクレハに投げかけた。えっと、と言葉を詰まらせる店員。そりゃそうよ。お尻のサイズがウエストサイズに対して明らかにおかしいもの。


「えーっと、自転車競技をやっていて……」


「そうなんですか。ご趣味ですか? それとも、競技会に登録してたりするんですか?」


「えっと……、えっと……」


 ……というような歯切れの悪い返答と、絶妙に答えづらい質問を幾度と繰り返して、結局太腿とか脹脛の長さとか、あらゆるサイズを洗いざらい吐かされた挙句、最終的にはオーダーメイドする羽目になった。


 向こうは、なるべく詳細な特徴を知りたかったのだろうけど、こっちはレフォルヒューマンへのプレゼントだと悟られたくなかったので、曖昧な受け答えになってしまった。ぎこちないやり取りになってしまったのもしょうがない。


 なにはともあれ、三日程で出来上がるとのことでクレハの家に郵送してもらうことになった。


 次に問題になったのは、——どこへ行くか——だ。なにせ、レオンは、人の世界を知らなさすぎる。単純に街中をドライブするだけでも楽しんでくれそうだけど、それではこっちが味気ないというものだ。


 散々、考えた結果、映画を見に行くことにした。今まで、読書でしか創作物を経験してこなかったレオンにとって、映画館での観賞は、特別な体験になるはず。


 幸い、レオンが快く承諾してくれたので、オーダーしたパンツが届いた時点で、チケットを即買い。予定日までに事務仕事を片付けて、クレハも思う存分楽しむつもりでその日を迎えた。

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